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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第40話 諜報魔族と追跡②

魔王城。


魔界の中心にそびえ立つ巨大な城。


無数の魔族たちにとって憧れであり、畏怖の対象でもある場所だった。


その城の一室。


普段は上級幹部しか入ることを許されない会議室で、一つの議題が話し合われていた。


「魔界スキル商店について、改めて報告を」


重厚な机の奥。


魔王軍幹部の一人が口を開く。


報告役はガルムではない。


ガルムの上司にあたる諜報部長だった。


机の上には大量の資料が並べられている。


ゴブリン。


サキュバス。


スライム。


レオン。


ヴァルド。


そして、その周辺人物の調査結果。


数か月前なら誰も見向きもしなかった資料だ。


だが今は違う。



「まずゴブリンの件です」


資料がめくられる。


「小規模集落の一員だった個体が、短期間で集落運営能力を獲得」


「現在は複数の集落をまとめる立場にあります」


一人の幹部が眉をひそめる。


「ゴブリンだぞ?」


「はい」


「あり得るのか」


「通常なら」


諜報部長は答える。


「あり得ません」



次の資料。


サキュバス。


スライム。


人間。


そしてヴァルド。


一つずつ説明が続く。


部屋の空気が変わっていく。


最初は懐疑的だった幹部たちも、次第に笑わなくなっていた。


なぜなら。


全員が変化しているからだ。


しかも。


同じ方向ではない。


強くなった者もいる。


賢くなった者もいる。


人生を変えた者もいる。


まるで。


それぞれに最適な何かを与えられたように。



「結論を言います」


諜報部長が資料を閉じる。


「この店は実在する可能性が極めて高い」


会議室が静まり返る。


誰も反論しない。


ここまで証拠が揃えば否定は難しい。


「問題は店主の目的だ」


武官の一人が腕を組む。


「魔王軍への敵対意思はあるのか」


「不明です」


「人間側との繋がりは?」


「確認できません」


「背後組織は?」


「不明です」



不明。


不明。


不明。


そればかりだった。


だが。


一つだけ確かなことがある。


「店主は力を売っている」


諜報部長が言う。


「そして、その力は本物です」



会議が続く。


討伐するべきか。


監視するべきか。


接触するべきか。


意見は割れた。


武官たちは危険視する。


「力を売る存在など制御できない」


「放置すれば勢力図が崩れる」


「今のうちに排除するべきだ」


一方で文官たちは反対する。


「利益が大きすぎる」


「敵に回す理由がない」


「むしろ協力関係を築くべきだ」



議論は平行線だった。


その時。


今まで黙っていた一人の女性が口を開いた。


「一つ聞きたい」


全員の視線が向く。


彼女は魔王軍幹部の一人だった。


若く見える。


だが実際には長い年月を生きている。


鋭い金色の瞳。


冷静な性格で知られていた。


「この店は客を選ぶのですか?」


諜報部長は頷く。


「その可能性があります」


「なら」


彼女は資料を見ながら続ける。


「少なくとも現時点で敵意はないのでしょう」



理由は単純だった。


もし本当に世界を混乱させたいなら。


もっと危険な相手に力を売ればいい。


犯罪者。


狂人。


反乱軍。


そうした存在に。


だが。


確認されている客は違う。


皆、自分の願いを叶えるために力を求めている。


そこに悪意は見えない。



「興味深いですね」


女性幹部は小さく笑った。


「まるで商人です」


その言葉に。


数人が苦笑する。


確かにそうだった。


今のところ店主は。


何かを支配しようとしているわけでもない。


革命を起こそうとしているわけでもない。


ただ。


商品を売っているだけなのだ。



会議が終わりに近付いた頃。


最後の報告が行われる。


「ガルムが引き続き調査を行います」


諜報部長が言う。


「すでに接触寸前まで来ています」


「成功率は?」


「高いと思われます」



会議が終了する。


幹部たちは次々と部屋を後にする。


だが。


先ほどの女性幹部だけは席を立たなかった。


机の上に残された資料を見る。


魔界スキル商店。


不思議な名前だ。


そして。


不思議な店主。



彼女は一枚の資料を手に取る。


ヴァルドの記録。


その急激な成長が記されている。


「進化、ですか」


興味が湧く。


純粋に。


知りたくなった。


自分なら。


どんなスキルを勧められるのだろうか。



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは棚の商品を整理していた。


いつも通りの仕事。


いつも通りの静かな時間。


しかし。


帳簿には新しい文字が浮かんでいる。


【諜報魔族 ガルム】


【到達確率 91%】


そして。


その下には別の名前。


【魔王軍幹部 セレナ】


【興味発生】


アルトは少しだけ目を細めた。


「珍しいですね」


客はまだ来ていない。


だが。


確実に店へ向かう運命が動き始めている。


諜報員。


そして魔王軍幹部。


二人の出会いは。


魔界スキル商店にとって新しい転機になろうとしていた。

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