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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第39話 諜報魔族と追跡①

魔界北部へ向かう街道。


一人の魔族が歩いていた。


ガルム。


魔王軍諜報部所属。


戦場で武功を立てる将軍ではない。


伝説級の魔法を使う大魔導士でもない。


だが。


魔王軍の上層部では有名な存在だった。


「ガルムが調べて分からないものはない」


そう言われるほどの情報収集能力を持っている。


そして今。


彼が追っているのは一つ。


魔界スキル商店だった。



「面白い」


歩きながら資料を確認する。


ゴブリン。


サキュバス。


スライム。


人間の冒険者レオン。


上級魔族ヴァルド。


全員が店を訪れたと推測されている。


そして。


全員が人生を変えている。


ここまではいい。


問題はその後だった。


誰一人として。


店の場所を説明できない。



ガルムは何人もの関係者に話を聞いた。


ヴァルドの部下。


ゴブリンの仲間。


噂を聞いた商人。


旅人。


酒場の店主。


しかし。


返ってくる答えは曖昧だった。


「森の奥だった気がする」


「山の近くだった」


「気付いたら辿り着いていた」


「帰る時には場所が分からなくなった」


どれも信用できない。


だが。


逆に考えれば。


全員が同じ傾向の証言をしている。


つまり。


何らかの魔法が働いている。



「隠蔽結界か?」


ガルムは考える。


だが違う。


普通の結界なら痕跡が残る。


魔王軍にも優秀な魔法使いはいる。


調査できる。


しかし。


今回のケースは異質だった。


まるで。


存在そのものが曖昧になっている。


「興味深いな」



その日の夜。


ガルムは街の宿に泊まった。


部屋に入る。


鍵を掛ける。


窓を閉める。


そして。


魔法陣を展開した。


諜報員としての習慣だった。


盗聴。


監視。


侵入。


全てを防ぐ。


準備を終えてから椅子に座る。


そして。


ヴァルドの資料を開いた。



最も気になるのは彼だった。


他の客も変化している。


だが。


ヴァルドだけは規模が違う。


元々強かった。


元々優秀だった。


だからこそ分かる。


変化の異常さが。


「進化、か」


噂によれば。


彼は何か新しい力を得たらしい。


具体的な内容は不明。


しかし。


実際の戦闘記録を見る限り。


単純な能力向上ではない。


観察力。


分析力。


判断力。


経験から学ぶ速度。


全てが向上している。



ガルムは資料を閉じる。


そして。


ふと窓の外を見る。


夜空が広がっていた。


魔界の月。


赤黒い光が地上を照らしている。


「もし本当に存在するなら」


ガルムは呟く。


「魔界の勢力図を変えるな」



スキル。


それは本来。


生まれ持った才能。


あるいは長い年月をかけて習得する技術。


それを売る。


そんなことが可能なら。


貴族も。


将軍も。


英雄も。


全ての価値観が変わる。


だからこそ。


魔王軍は調べる必要があった。


敵か。


味方か。


危険か。


有益か。


判断しなければならない。



翌日。


ガルムはさらに調査を進めた。


そして。


ある共通点を見つける。


店を利用した者たちは。


全員がある時期に姿を消している。


期間は数時間から半日。


その間の記憶が曖昧なのだ。



「なるほど」


ガルムは笑う。


ようやく糸口が見えた。


店を探すのではない。


店に選ばれなければならないのだ。


普通の店ではない。


目的地として探しても辿り着けない。


条件を満たした者だけが辿り着く。


そう考えれば全て説明できる。



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは帳簿を確認していた。


新たな文字が浮かんでいる。


【諜報魔族 ガルム】


【到達確率 上昇】


「もうすぐですか」


アルトは呟く。


ガルムは客ではない。


少なくとも本人はそう思っている。


調査対象。


監視対象。


それが彼の認識だ。


しかし。


アルトには別の見方があった。



「力を求める理由に善悪はありません」


アルトは静かに紅茶を飲む。


ゴブリンは生き残るためだった。


サキュバスは居場所を得るためだった。


レオンは未来を変えるためだった。


ヴァルドは限界を超えるためだった。


そして。


ガルムもまた。


何かを求めている。


だから帳簿に名前が現れた。



その時だった。


店の扉についた鈴が鳴る。


カラン。


アルトが顔を上げる。


しかし。


そこに客はいない。


風も吹いていない。


扉も開いていない。


不思議な現象だった。


だが。


アルトは驚かない。


帳簿を見る。


新しい文字。


【魔王軍、動き出す】



同じ頃。


魔王城。


巨大な玉座の間ではない。


その奥にある会議室。


数名の幹部が集められていた。


議題は一つ。


最近魔界で噂になっている存在。


「魔界スキル商店」


そして。


ガルムから送られてきた調査報告。


「馬鹿げている」


一人の幹部が鼻で笑う。


「スキルを売る店などあるものか」


しかし。


別の幹部は資料を見つめていた。


ゴブリン。


サキュバス。


スライム。


ヴァルド。


全員の変化が記録されている。


偶然では片付けられない。


「もし本当なら」


誰かが呟く。


会議室が静まり返る。


「魔王軍でも無視できない存在になる」



魔界スキル商店。


アルトは静かに帳簿を閉じた。


客はまだ来ない。


だが。


確実に近付いている。


これまでは個人の人生を変える店だった。


しかし。


今やその影響は魔王軍にまで届こうとしていた。


そして。


その変化はまだ始まったばかりだった。

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