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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第38話 上級魔族と進化⑥

魔界の都市グランゼル


上級魔族たちが集う巨大都市の一角に、その男はいた。


名はガルム。


魔王軍直属の諜報部隊に所属する魔族だった。


戦闘能力は決して高くない。


しかし。


情報収集能力においては魔界でも指折りの存在だった。


彼の前には大量の資料が積まれている。


ゴブリン。


サキュバス。


スライム。


人間の冒険者。


そしてヴァルド。


一見すると何の繋がりもない者たち。


種族も違う。


住む場所も違う。


立場も違う。


だが。


ガルムには見えていた。


一本の線が。



「面白い」


ガルムは資料をめくる。


ゴブリンは集落を発展させた。


サキュバスは新しい生き方を見つけた。


スライムは予想外の進化を遂げた。


人間の冒険者は急成長を始めた。


そしてヴァルド。


上級魔族でありながら、今も成長を続けている。


全員に共通するもの。


それは。


「転機」だった。


ある日を境に。


人生が大きく変わっている。


偶然にしては出来すぎている。



「魔界スキル商店か」


ガルムは小さく笑う。


最初は都市伝説だと思っていた。


力を売る店。


そんなものが存在するはずがない。


だが。


調べるほど奇妙な証言が増える。


誰も場所を説明できない。


誰も店主の素性を知らない。


それなのに。


実際に利用した者は存在する。


しかも。


全員が何らかの成果を出している。


「調査する価値はあるな」



一方その頃。


ヴァルドは領地の森を歩いていた。


最近は意識的に実戦経験を増やしている。


進化の効果を理解するためだ。


強敵と戦う。


未知の環境に身を置く。


新しい知識を得る。


そうするたびに。


進化は少しずつ成長していく。


最初は偶然だと思っていた。


しかし今は違う。


確信していた。


【進化】は経験を糧にするスキルなのだと。



森の奥。


突如として気配を感じる。


ヴァルドは足を止めた。


「出てこい」


沈黙。


しかし次の瞬間。


木々の間から三つの影が現れる。


全員が武装している。


そして。


魔力も強い。


普通の盗賊ではない。


「よく気付いたな」


先頭の男が笑う。


「誰だ」


「お前に興味がある者たちさ」



ヴァルドは相手を観察する。


三人。


連携を前提にした装備。


暗殺向けの魔道具。


そして。


訓練された動き。


ただの山賊ではない。


誰かに雇われている。


「捕まえろとの依頼だ」


男が言った。


「大人しく来るなら痛い目は見ない」


「断る」


即答だった。



戦闘が始まる。


三人が同時に動く。


以前なら苦戦しただろう。


だが今のヴァルドは違う。


相手の癖が見える。


呼吸が見える。


重心が見える。


そして。


戦闘が始まった瞬間から。


進化が始まっている。



一人目。


背後から短剣を突き出す。


ヴァルドは振り向かない。


半歩だけ移動する。


短剣が空を切る。


そのまま肘打ち。


男が吹き飛ぶ。


二人目。


拘束魔法。


鎖が地面から飛び出す。


ヴァルドは魔力を流す。


鎖の弱点を見抜き、最小限の力で破壊する。


三人目。


強力な火炎魔法。


しかし。


発動前に術式の歪みを見抜く。


一歩踏み込む。


そして魔法が完成する前に無力化する。



戦闘時間。


わずか数十秒。


三人は地面に転がっていた。


ヴァルドは息一つ乱していない。


「ば、化け物……」


男が震える。


しかし。


ヴァルドは首を振った。


「違う」


本当に化け物なら。


力で押し潰していた。


今は違う。


相手を理解しただけだ。


そして。


理解する速度が異常になっている。



その瞬間だった。


頭の中に何かが流れ込む。


視界が変わる。


世界がより鮮明になる。


風。


音。


魔力。


全ての情報が整理される。


「これは……」


進化。


また一段階進んだのだ。



同じ頃。


魔界スキル商店。


アルトは契約帳簿を眺めていた。


【進化】


契約者:ヴァルド


状態:第三段階発現


「早いですね」


アルトは珍しく感心する。


普通の契約者はここまで急成長しない。


だが。


ヴァルドは違う。


成長のために成長している。


進化というスキルとの相性が極めて良かった。



その時。


帳簿の別のページが光る。


アルトは視線を移した。


そこには。


新しい文字が浮かんでいた。


【魔界スキル商店の調査開始】


【調査者:ガルム】


「……」


アルトは少しだけ目を細める。


客ではない。


店を探している者。


今までも噂は広がっていた。


だが。


ここまで本格的な調査は初めてだった。



アルトは静かに帳簿を閉じる。


「さて」


店内を見回す。


商品は揃っている。


掃除も終わっている。


いつも通りの店だ。


だから。


やることも変わらない。


「お客様なら歓迎します」


アルトはそう呟く。


相手が誰であろうと。


力を求める者であるなら。


魔界スキル商店の扉は開かれる。


その頃。


ガルムは旅支度を整えていた。


彼はまだ知らない。


自分が追いかけている店が。


すでに自分のことを把握していることを。


そして。


その調査が。


魔界全体を巻き込む大きな変化の始まりになることを。

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