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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第4話 サキュバスと魅了②

「おはよう、リリア!」


翌朝。


仕事場へ向かう途中だったリリアは、思わず振り返った。


声を掛けてきたのは近所に住むコボルトの女性だった。


今まで挨拶を交わしたことすらない相手だ。


「お、おはようございます」


ぎこちなく返事をすると、相手はにっこりと笑った。


「今度うちの店にも来てね」


そう言って手を振りながら去っていく。


リリアは呆然と立ち尽くした。


何だろう。


昨日から周囲の反応が違う。


まるで世界そのものが少しだけ優しくなったようだった。


「これが……魅了」


胸の奥が温かくなる。


嬉しかった。


ずっと欲しかったものを手に入れた気がした。



その日。


リリアの営む小さな裁縫店には、普段の三倍近い客が訪れた。


「この服、直せる?」


「こっちもお願いしたいんだけど」


「リリアさんなら安心だな」


次々と依頼が入る。


これまでは一日中待っても客が来ないこともあった。


それが今日は違う。


忙しい。


大変だ。


だが楽しかった。


昼過ぎ。


ふと気付くと、店の前に長い列ができていた。


「嘘でしょ……」


思わず呟く。


夢みたいだった。



それから数週間。


リリアの生活は大きく変わった。


仕事は順調。


収入も増えた。


友人もできた。


食事に誘われることも多くなった。


以前なら考えられないほど充実していた。


ある日。


酒場に入ると、見知ったサキュバスたちが声を掛けてくる。


「あっ、リリア!」


「こっちこっち!」


以前、自分を笑っていた相手たちだった。


だが今は違う。


席まで用意されている。


話題の中心にも入れてくれる。


リリアは嬉しかった。


本当に嬉しかった。


ようやく認められた気がした。



しかし。


違和感が生まれたのは、その頃からだった。


「リリアって趣味あるの?」


食事中、一人が尋ねた。


「裁縫かな」


リリアは笑う。


「服を作るのが好きで――」


「へぇ!」


話を続けようとした時だった。


「そういえば昨日さ!」


別のサキュバスが話を遮る。


そのまま別の話題へ移ってしまった。


リリアは少しだけ首を傾げた。


だが気にしなかった。


そんなこともある。



数日後。


今度は常連客との会話だった。


「リリアさんって何が好きなんですか?」


若いオーガが尋ねる。


「あ、私は――」


答えようとした瞬間。


「やっぱりその笑顔が素敵ですよね!」


話が変わる。


まただった。



さらに別の日。


新しくできた友人たちと食事をしていた時。


リリアは思い切って相談してみた。


「実は最近、仕事のことで悩んでいて……」


皆がこちらを見る。


聞いてくれる。


そう思った。


だが。


「そんなことより、今度みんなで遊びに行こうよ!」


「賛成!」


「それ楽しそう!」


話は終わった。


誰も相談の内容を聞かなかった。


リリアは黙る。


笑顔を作る。


しかし胸の奥が少しだけ痛んだ。



その日の夜。


一人で店の掃除をしていた。


賑やかな昼間とは違い、店内は静かだ。


椅子に腰掛ける。


ふと気付く。


最近、自分の話を聞いてもらった記憶がない。


皆優しい。


皆笑顔だ。


皆好意的だ。


なのに。


誰も自分自身には興味がない。


そんな感覚があった。


「気のせい……かな」


そう呟く。


だが違和感は消えない。



翌日。


店には常連のドワーフが来ていた。


無口だが腕の良い鍛冶師だ。


服の修理を頼まれていた。


「できました」


リリアが服を渡す。


ドワーフは確認すると満足そうに頷いた。


「相変わらず良い仕事だ」


「ありがとうございます」


「丁寧だし長持ちする」


短い言葉だった。


だが。


その瞬間。


リリアは少し驚いた。


この人は。


自分の仕事を見てくれている。


笑顔ではなく。


魅力でもなく。


裁縫師として。


「どうした?」


「い、いえ」


リリアは慌てて首を振った。


だが胸の奥で何かが引っかかる。



その夜。


寝る前に考える。


魅了を手に入れてから。


確かに人生は変わった。


だが。


今、自分の周りにいる人たちは。


本当に自分を見ているのだろうか。


それとも。


スキルによって作られた好意を見ているだけなのだろうか。


アルトの言葉が頭をよぎる。


――願いを叶えることと、幸せになることは同じではありません。


あの時は意味が分からなかった。


だが今なら少しだけ分かる気がする。


リリアは窓の外を見た。


赤黒い月が静かに輝いている。


「私が欲しかったものって……何だったんだろう」


その答えはまだ見つからない。


だが確かに。


彼女は願いの先にある本当の問題へ足を踏み入れ始めていた。

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