第36話 上級魔族と進化④
鉱山の魔獣討伐から数週間が過ぎた。
ヴァルドの日常は変わらない。
朝は訓練。
昼は領地の仕事。
夜は魔法研究。
以前と同じ生活だった。
だが。
本人だけが知っていた。
自分の中で何かが変わり続けていることを。
進化は終わらない。
むしろ。
時間が経つほど変化は大きくなっていた。
◆
最初に変わったのは戦闘だった。
以前のヴァルドは才能で戦っていた。
圧倒的な魔力。
高い身体能力。
優れた魔法技術。
それらを駆使して相手を制圧する。
正面から押し潰す戦い方。
それでも十分強かった。
だが今は違う。
相手を観察する。
魔力の流れを見る。
癖を読む。
戦闘中に学ぶ。
そして。
戦いながら最適な方法へ変化していく。
最初は苦戦していた相手でも。
時間が経つほど有利になる。
まるで。
戦闘そのものが成長の糧になっているようだった。
◆
訓練場。
数人の上級魔族が集まっていた。
彼らは一族の中でも実力者として知られている。
その中央に立つのはヴァルドだった。
「本当にやるのか?」
一人の魔族が尋ねる。
「三人同時に相手をするつもりか?」
周囲からもざわめきが起きる。
三対一。
しかも相手は全員上級魔族。
普通なら無謀だった。
しかし。
ヴァルドは落ち着いていた。
「問題ない」
短い返答。
それが余計に周囲を刺激した。
◆
開始の合図。
三人が同時に動く。
炎の魔法。
風の刃。
身体強化による高速接近。
完璧な連携だった。
一人では避けられない。
そう思われた。
だが。
ヴァルドは動いた。
最小限の動きで炎を回避する。
風の刃を紙一重で避ける。
接近してきた相手の攻撃を受け流す。
観客席がざわめく。
速い。
いや。
違う。
無駄がないのだ。
◆
戦闘が続く。
普通なら徐々に追い詰められる状況。
しかし。
時間が経つほどヴァルドの動きが洗練されていく。
相手の癖を把握する。
攻撃の起点を読む。
魔力の流れを見抜く。
そして。
隙を見つける。
一人。
また一人。
上級魔族が戦闘不能になる。
最後の一人が膝をついた時。
訓練場は静まり返っていた。
◆
「嘘だろ……」
誰かが呟いた。
三人とも弱くない。
むしろ強い。
それなのに。
ヴァルドは勝った。
しかも。
圧倒的な力で押し潰したわけではない。
以前より魔力が増えているようにも見えない。
それなのに。
明らかに強くなっている。
理由が分からない。
だからこそ不気味だった。
◆
試合後。
一族の長老たちも集まっていた。
彼らはヴァルドを観察する。
「魔力量は変わっていない」
「身体能力も大差ない」
「では何が変わった?」
誰も答えられない。
ヴァルド自身も説明できなかった。
ただ。
一つだけ分かる。
以前なら見えなかったものが見える。
以前なら理解できなかったことが理解できる。
そして。
その速度が異常だった。
◆
その夜。
ヴァルドは書庫にいた。
古い魔導書を読む。
過去の英雄の記録を調べる。
以前なら数日かけて理解していた内容が、驚くほど頭に入ってくる。
知識と経験が繋がる。
点と点が線になる。
「これも進化か……」
ヴァルドは呟く。
戦闘だけではない。
思考も変化している。
理解力。
応用力。
発想力。
全てが少しずつ成長していた。
◆
しかし。
その変化を喜べない者もいた。
一族の中にはヴァルドを快く思わない者がいる。
特に。
次期当主の座を狙う者たちだ。
会議室。
数人の上級魔族が顔を揃えていた。
「最近のヴァルドは異常だ」
「急に強くなりすぎている」
「何か隠しているのではないか?」
不満の声が上がる。
才能があるのは以前からだ。
だが。
ここ最近の成長速度は説明できない。
だから疑う。
それが当然だった。
◆
その中の一人が静かに口を開く。
「調べてみた」
全員の視線が集まる。
「どうだった?」
男は答える。
「最近、ヴァルドはある噂を追っていたらしい」
「噂?」
「力を売る店だ」
その瞬間。
空気が変わった。
誰も笑わない。
なぜなら。
最近になって同じ噂を耳にする機会が増えていたからだ。
ゴブリン。
サキュバス。
名も知らぬ魔族たち。
奇妙な変化を遂げた者がいる。
そして今。
ヴァルドまで変わった。
偶然とは思えなかった。
◆
「探せ」
年長の魔族が言う。
「もし本当にそんな店があるなら」
目を細める。
「我々も無視はできん」
◆
その頃。
魔界スキル商店。
契約記録が再び光を放っていた。
【進化】
契約者:ヴァルド
状態:第二段階発現
アルトは記録を見つめる。
進化は順調だった。
だが。
契約記録の隅には新しい文字が浮かんでいた。
【注目度上昇】
【追跡者発生】
アルトは小さく首を傾げる。
「珍しいですね」
今までの客では現れなかった変化。
それは。
ヴァルド自身だけでなく。
彼を取り巻く世界も変わり始めた証だった。




