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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第35話 上級魔族と進化③

魔界スキル商店を後にしたヴァルドは、自らの領地へ戻っていた。


帰路の途中も、彼は何度も自分の身体の状態を確かめた。


魔力を循環させる。


魔法を発動する。


身体能力を高める。


しかし。


何も変わっていないように思えた。


魔力量は以前と同じ。


魔法の威力も同じ。


身体能力も変わらない。


「……失敗だったか?」


そんな考えが頭をよぎる。


だが。


すぐに首を振った。


あの店主は嘘をついているようには見えなかった。


それに。


契約の瞬間に感じた変化は確かにあった。


兄への執着。


長年抱き続けていた感情が、不思議なほど薄れている。


兄を嫌いになったわけではない。


尊敬もしている。


だが。


以前のように「兄を超えなければならない」という強迫観念が消えていた。


それだけでも、代価は支払われたのだろう。


「なら、もう少し様子を見るか」


ヴァルドは空を見上げた。


焦る必要はない。


そう思えたこと自体が、以前とは違っていた。



数日後。


ヴァルドは一族の訓練場を訪れていた。


巨大な石造りの施設。


上級魔族たちが腕を磨く場所だ。


いつものように訓練を始める。


炎魔法。


風魔法。


身体強化。


基本的な訓練を一通りこなす。


そこで違和感に気付いた。


「……ん?」


魔力の流れが見える。


いや。


正確には以前から感じていた。


だが。


今までより鮮明だった。


自分の体内を巡る魔力。


放出される魔力。


周囲に漂う魔力。


その全てが理解できる。


まるで。


複雑な文字を突然読めるようになったような感覚だった。



訓練を終えた後。


ヴァルドは一人で考え込む。


進化。


アルトはそう言った。


新しい可能性への変化。


もしこれが進化の効果なら。


単純な能力上昇ではない。


見えなかったものが見える。


理解できなかったものが理解できる。


そういう変化だ。


「……面白い」


ヴァルドは小さく笑う。


久しぶりだった。


強くなることに対して。


純粋な興味を抱いたのは。



その翌日。


事件は起きた。


一族が管理する鉱山地帯で魔獣が暴れたのだ。


巨大な四足獣。


岩石を纏った魔獣。


並の兵士では歯が立たない。


報告を受けたヴァルドは現場へ向かった。


到着した時には、すでに数人が負傷していた。


「ヴァルド様!」


「被害は?」


「死者はいません! ですが討伐隊が押されています!」


ヴァルドは前を見る。


巨大な魔獣が咆哮を上げていた。


強い。


確かに強い。


だが。


以前の自分なら。


正面から力で押し切ろうとしていただろう。



魔獣が突進する。


地面が揺れる。


兵士たちが慌てて退避する。


その瞬間。


ヴァルドの目に奇妙なものが映った。


魔力の流れ。


魔獣の体内を巡る魔力。


その一部だけが異常に濃い。


まるで心臓のように。


全身へ力を送っている場所。


「……そこか」


ヴァルドは低く呟いた。


自分でも理由は分からない。


だが。


そこが弱点だと理解できた。



炎の槍を生み出す。


巨大な魔法ではない。


むしろ普段より小さい。


しかし。


魔力の密度を極限まで高める。


狙う場所は一つ。


魔獣が再び突進した瞬間。


ヴァルドは槍を放った。


轟音。


炎が走る。


次の瞬間。


魔獣の動きが止まった。


咆哮が途切れる。


巨体が揺れる。


そして。


そのまま崩れ落ちた。



周囲が静まり返る。


誰も理解できなかった。


なぜ倒せたのか。


兵士たちは驚いた顔でヴァルドを見る。


「す、すごい……」


「一撃で……」


「さすがヴァルド様だ……!」


歓声が上がる。


しかし。


ヴァルド自身が一番驚いていた。


今までなら。


あれほど簡単には倒せなかった。


魔力を大量に消費し。


長時間戦っていたはずだ。


だが。


今回は違う。


「見えた……」


弱点が。


魔力の流れが。


戦うための最適解が。



その夜。


ヴァルドは一人で考えていた。


進化の効果が分かった気がした。


力が増えたわけではない。


魔力が倍になったわけでもない。


だが。


世界の見え方が変わっている。


今までと同じ景色なのに。


そこから得られる情報量が違う。


「なるほどな……」


ヴァルドは笑う。


これなら。


確かに限界を超えられるかもしれない。


才能を積み上げるのではない。


才能そのものの使い方を変える。


それが進化。


アルトが売ったスキルの正体だった。



その頃。


魔界スキル商店。


契約記録の文字が淡く輝く。


【進化】


契約者:ヴァルド


状態:第一段階発現


アルトは記録を見て、小さく頷いた。


「順調ですね」


進化とは。


完成された力を与えるスキルではない。


契約者自身が変化し続けるスキル。


だからこそ。


その価値は誰にも予測できない。


ヴァルドの進化は。


まだ始まったばかりだった。

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