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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第34話 上級魔族と進化②

魔界スキル商店。


静かな店内に、ヴァルドの声だけが響いていた。


「……代価を払えば、本当に進化できるのか?」


アルトは頷く。


「はい」


迷いのない返答だった。


「ただし、勘違いしないでください」


アルトは結晶を手に取る。


「このスキルは、強い力を与えるものではありません」


ヴァルドは眉をひそめる。


「違うのか?」


「はい」


アルトは続ける。


「現在の能力を十倍にするようなものではありません」


「お客様自身が持つ可能性を、新しい形へ変化させるものです」


ヴァルドは黙って結晶を見る。


【進化】


その言葉は簡単だった。


しかし。


込められた意味は大きい。


今の自分では届かない場所へ行く。


それは。


彼がずっと求めていたものだった。



「代価を決めましょう」


アルトが言う。


ヴァルドは静かに息を吐いた。


分かっていた。


この店の商品が。


普通の商売ではないことを。


金だけで買えるなら。


誰も苦労しない。


「俺が最も価値を感じているもの……か」


ヴァルドは目を閉じる。


頭に浮かぶものはいくつもあった。


名門一族の誇り。


周囲からの期待。


自分が積み重ねてきた努力。


そして。


兄の存在。



幼い頃。


兄はヴァルドにとって憧れだった。


何でもできる存在。


自分が追いかける背中。


兄がいたから。


努力する意味を知った。


兄がいたから。


強くなりたいと思った。


もし。


兄への憧れを失ったら。


自分は何を目指せばいいのか。


ヴァルドは考える。


そして。


あることに気付く。


自分は今まで。


兄を超えるために戦ってきた。


しかし。


本当に欲しかったものは。


兄を超えたという結果ではない。


「……」


ヴァルドはゆっくり目を開ける。


「決めた」


アルトを見る。


「俺が払うものは」


一瞬。


言葉が止まる。


「兄への執着だ」



アルトは少し驚いた。


「それでよろしいのですか?」


ヴァルドは頷く。


「ああ」


「俺はずっと兄を追いかけていた」


「兄を超えることだけを考えていた」


拳を握る。


「だが、それでは駄目なんだ」


「兄の背中を追うだけでは、兄を超えることはできない」


静かな決意。


「俺は俺自身の力で進まなければならない」


アルトはヴァルドを見る。


そして。


一つ頷いた。


「承知しました」



契約が始まる。


金貨百枚。


そして。


兄への執着。


二つの代価が結晶へ吸い込まれていく。


淡い光が店内を包む。


ヴァルドは目を閉じる。


何かを失う感覚。


しかし。


苦しくはなかった。


むしろ。


長年背負っていた荷物を下ろしたような感覚だった。



気付くと。


店内は元の静けさを取り戻していた。


ヴァルドは自分の手を見る。


何も変わっていない。


身体も。


魔力も。


見た目も。


「……本当に効果があるのか?」


思わず呟く。


アルトは答える。


「変化はすぐには現れません」


「進化とは、時間をかけて起こるものです」


「お客様自身が、新しい可能性を選んだ時に」


ヴァルドは黙る。


以前なら。


すぐ結果を求めていた。


強くなった証を。


認められる証を。


しかし。


今は少し違った。


不思議と焦りがない。



店を出る前。


ヴァルドは振り返った。


「一つ聞きたい」


「はい」


「お前は」


「今まで何人に、この力を売った?」


アルトは少し考える。


「数えるほどです」


「その中に」


ヴァルドは続ける。


「俺より強くなった者はいるか?」


アルトは答えた。


「分かりません」


ヴァルドは意外そうな顔をする。


「分からない?」


「私は未来を見ることはできません」


「ただ」


アルトは静かに言った。


「皆様が、自分自身の可能性を信じて購入されたことだけは分かります」


ヴァルドはその言葉を聞き。


少しだけ笑った。



店を出る。


外の空気が冷たい。


しかし。


以前とは違う。


兄の背中を追う自分ではない。


誰かと比べる自分でもない。


自分だけの道を進む。


そのための力を手に入れた。


その瞬間。


ヴァルドの中で。


何かが変わり始めていた。



魔界スキル商店。


アルトは契約記録を確認する。


新しい文字が刻まれていた。


【進化】


契約者:ヴァルド


状態:発動準備中


アルトは静かに帳簿を閉じる。


進化は。


力を与えるだけではない。


その者自身の在り方を変える。


それが。


このスキルの本当の価値だった。

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