第31話 人間と努力⑦
半年前は落ちこぼれと呼ばれた少年が、今ではギルドで名を知られる冒険者になっていた。
最初は誰も期待していなかった。
新人冒険者。
才能なし。
失敗ばかりの落ちこぼれ。
それが周囲から見たレオンの評価だった。
しかし。
半年という時間は、少しずつその評価を変えていた。
低級魔物の討伐。
護衛任務。
探索依頼。
一つ一つの仕事を確実にこなし。
気付けば、ギルドでも名前を知られる存在になっていた。
とはいえ。
本人は以前と何も変わっていないと思っていた。
朝起きる。
剣を振る。
依頼を受ける。
反省する。
また練習する。
やっていることは昔と同じだった。
ただ一つ違うことがある。
昔は。
「いつか認められるため」
だった。
今は。
「昨日より強くなるため」
になっていた。
◆
そんなある日。
レオンは故郷の村へ戻る依頼を受けた。
近隣の村への護衛。
偶然だった。
しかし。
その名前を見た瞬間。
少しだけ手が止まった。
故郷。
長い間、帰っていなかった場所。
正直。
戻るのは怖かった。
そこには。
昔の自分を知る人間がいる。
才能がないと言われ続けた場所。
努力しても意味がないと思わされた場所。
「……」
だが。
レオンは依頼を受けた。
逃げる理由はもうなかった。
◆
村へ到着すると。
懐かしい景色が広がっていた。
変わっていない。
畑。
家。
小さな広場。
そして。
昔、何度も剣を振った場所。
「レオン?」
声をかけられる。
振り返る。
そこにいたのは。
昔、同じ村で暮らしていた青年だった。
「久しぶりだな」
「お前……冒険者になったって本当だったのか」
「ああ」
青年はレオンを見る。
昔とは違う目だった。
以前なら。
哀れみ。
同情。
そんな感情が混ざっていた。
しかし今は。
純粋な驚き。
「すごいな」
その言葉に。
レオンは少し戸惑った。
昔なら。
一番欲しかった言葉。
認められること。
褒められること。
でも。
今のレオンは。
それだけを求めていなかった。
「まだまだだよ」
自然とそう答えていた。
◆
村の中心。
そこには昔の仲間たちが集まっていた。
その中には。
カイルもいた。
王都へ向かったはずの彼も、騎士団の任務で近くまで来ており、偶然村へ立ち寄っていた。
「久しぶり」
「お前も帰ってきたのか」
二人は笑う。
昔とは違う関係だった。
以前。
二人の間には大きな差があった。
才能を持つ者。
持たざる者。
そういう壁。
しかし。
今は違う。
互いに努力し。
互いに成長している。
「レオン」
カイルが言う。
「昔より強くなったな」
レオンは笑う。
「まだお前には勝てないけどな」
「そうか?」
カイルは少し笑う。
「俺はそうは思わないけどな」
その言葉に。
レオンは首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「今のお前は、昔の俺にはなかったものを持ってる」
カイルは続ける。
「俺は才能で進んできた」
「でも、お前は違う」
「失敗しても、負けても、全部自分の力に変えてきた」
レオンは黙る。
昔なら。
そんな言葉を信じられなかった。
でも。
今なら分かる。
◆
その夜。
レオンは一人で村の外へ出た。
昔。
毎日剣を振った場所。
木剣を握る。
振る。
一回。
二回。
十回。
百回。
昔と同じ動き。
しかし。
意味は全く違った。
昔は。
才能がない自分を変えたかった。
誰かに認めてほしかった。
でも。
今は。
剣を振ること自体が楽しかった。
「……ありがとう」
誰に言うでもなく呟く。
魔界の店主。
アルト。
あの店で買った力。
【努力】
もしあの日。
才能を求めて店へ行かなければ。
自分は今でも言い訳を探していたかもしれない。
才能がないから。
運が悪いから。
環境が悪いから。
でも。
今は違う。
自分の人生は。
自分で積み重ねられる。
◆
その頃。
魔界スキル商店。
一枚の契約記録が静かに変化した。
【努力】
契約者:レオン
状態:成長中
評価:
成功。
アルトはその文字を見る。
そして。
小さく笑った。
「良い買い物でしたね」
商人として。
商品が役に立ったことは嬉しい。
しかし。
それ以上に。
一人の客が。
自分自身を取り戻したことが嬉しかった。
◆
翌日。
レオンはまた冒険者として旅立つ。
まだ知らない。
この先。
自分が世界で知られる存在になることを。
そして。
いつか魔族たちからも。
警戒されるほどの存在になることを。
今はまだ。
ただの新人冒険者。
努力を続ける一人の人間だった。




