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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第30話 人間と努力⑥

王都へ向かう街道を、一人の青年が歩いていた。


名はカイル。


レオンと同じ村で育ち、幼い頃から「天才」と呼ばれてきた男だった。


剣を握れば、初めて触れた武器とは思えないほど自然に扱えた。


魔法を学べば、周囲の同年代より遥かに早く魔力操作を覚えた。


十歳の頃には、村の大人たちから将来を期待されていた。


誰もが言った。


「お前は特別だ」


「きっと英雄になる」


「この村から凄い騎士が生まれる」


幼い頃のカイルは、その言葉を疑わなかった。


自分には才能がある。


努力すれば、さらに強くなれる。


そう信じていた。


実際、その通りだった。


剣の訓練をすれば上達した。


魔法の練習をすれば使えるようになった。


壁にぶつかることはあっても、その壁は他人よりずっと低かった。


だから。


カイルには理解できなかった。


レオンという存在が。



村にいた頃。


レオンはいつも努力していた。


朝早く起きて剣を振る。


夜遅くまで魔法の勉強をする。


誰よりも真面目だった。


だが。


結果だけを見るなら、いつもカイルの方が上だった。


同じ時間練習しても。


同じ方法を試しても。


カイルの方が早く成長する。


周囲もそれを分かっていた。


「やっぱり才能が違うな」


「カイルは特別だ」


そんな言葉を何度も聞いた。


そのたびに、レオンは笑っていた。


悔しいはずなのに。


苦しいはずなのに。


「俺も頑張るよ」


いつもそう言っていた。


カイルは、その姿を見ていた。


そして。


少しだけ罪悪感があった。


自分は何もしなくても評価される。


レオンはどれだけ頑張っても追いつけない。


それが当たり前になっていた。



だからこそ。


先日の再会は衝撃だった。


レオンが冒険者になったと聞いた時。


正直、驚いた。


冒険者になること自体ではない。


レオンが諦めずに進んでいたことに驚いた。


そして。


手合わせをした時。


さらに驚いた。


昔のレオンとは違った。


技術が急激に向上しているわけではない。


力が自分を超えているわけでもない。


しかし。


戦い方が変わっていた。


一つ一つの動きに意味がある。


無駄が少ない。


相手をよく見ている。


まるで。


何百回。


何千回。


失敗してきた人間の動きだった。


「……」


カイルは立ち止まる。


街道の脇にある岩へ腰を下ろした。


あの時。


レオンは言った。


『努力しただけだ』


その言葉が頭から離れない。



才能がある者には。


見えないものがある。


カイルは初めて、それに気付いた。


自分は剣を振れば上達した。


魔法を使えば覚えられた。


だから。


失敗から学ぶという経験が少なかった。


間違えても。


すぐ修正できたから。


だが。


レオンは違った。


一つの技を覚えるために。


何十回も失敗した。


一匹の魔物を倒すために。


何度も負けた。


その全てを。


レオンは自分の中に残していた。


「……俺にはない強さだな」


カイルは小さく呟いた。


悔しさはあった。


自分が負けたこと。


昔は見下していた相手に届かなかったこと。


だが。


不思議と嫌な気持ちはなかった。


むしろ。


嬉しかった。


レオンがようやく報われたことが。



数日後。


カイルは王都の騎士団施設へ戻った。


訓練場では、多くの騎士候補たちが汗を流している。


その中で。


一人の男がカイルへ声をかけた。


「珍しいな」


「何が?」


「お前がそんな顔をしているのがだ」


男は笑う。


「何かあったのか?」


カイルは少し考えた。


そして答えた。


「面白い奴に会った」


「お前より強い奴か?」


「今は違う」


「なら、なぜそんなに気になる?」


カイルは空を見る。


「強くなる奴だからだ」


「才能があるのか?」


その質問に。


カイルは首を横に振った。


「違う」


「じゃあ何だ?」


少し間を置いて。


カイルは答えた。


「才能がなくても、強くなり続ける奴だ」



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは新しい客を待ちながら、棚を整理していた。


契約記録の棚。


そこには今まで契約した者たちの記録が並んでいる。


ゴブリン。


サキュバス。


ダークエルフ。


スライム。


そして。


人間、レオン。


アルトは記録を見た。


【努力】


状態。


成長中。


「努力というスキルは、不思議なものですね」


普通のスキルなら。


使えば強くなる。


経験を積めば効果が分かる。


しかし。


努力だけは違う。


使う者の生き方そのものが、力になる。


だから。


どこまで成長するのか。


誰にも分からない。


アルトにも。


「……」


彼は静かに棚へ戻す。


まだ始まったばかり。


レオンという人間が。


どこまで積み重ねるのか。


それは本人にも。


そしてアルトにも。


まだ分からなかった。

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