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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第29話 人間と努力⑤

冒険者になってから、レオンは毎日依頼を受けていた。


薬草採取。


街道の護衛。


低級魔物の討伐。


内容だけを見れば、決して華やかな仕事ではない。


周囲から見れば、新人冒険者が経験を積んでいるだけ。


しかし。


レオンにとっては違った。


全てが意味のある時間だった。


森を歩けば。


魔物が潜みやすい場所を覚える。


薬草を探せば。


植物の特徴を覚える。


魔物と戦えば。


動きの癖を覚える。


以前のレオンなら。


そんな細かなことを気にしていなかった。


強くなりたい。


早く結果を出したい。


その焦りばかりだった。


だが。


今は違う。


一つ一つ積み重ねる。


それがいつか力になる。


そう信じられるようになっていた。


「最近のお前、変わったよな」


酒場で同じ新人冒険者の男が言った。


「前はもっと必死だっただろ」


レオンは少し考える。


確かに。


昔の自分は、いつも周囲と比べていた。


あいつは才能がある。


あいつは評価されている。


それなのに自分は。


そんなことばかり考えていた。


「今も必死だよ」


レオンは答える。


「ただ、比べる相手を変えただけだ」


「誰と?」


「昨日の自分」


男は一瞬黙って。


「……なんか、お前らしくないな」


そう言って笑った。


レオンも少し笑う。


だが。


本当にそう思えた。



そんなある日。


冒険者ギルドに一つの依頼が貼り出された。


『森林奥部に出現したブラッドウルフの討伐』


報酬は高額。


しかし。


誰もすぐには手を出さなかった。


理由は明確だった。


ブラッドウルフ。


通常のウルフ系魔物よりも大型。


素早く。


力も強い。


新人冒険者が一人で挑む相手ではない。


「やめておけ」


受付の男が言った。


以前。


レオンを笑った男だった。


「お前はまだ駆け出しだ」


「分かっています」


「なら、なぜ受ける?」


レオンは依頼書を見る。


「確認したいんです」


「何を?」


「今の自分が、どこまで行けるのか」


受付の男は黙った。


以前のレオンなら。


無謀な挑戦に見えた。


だが。


今の目は違う。


覚悟がある。



森の奥。


レオンは慎重に進んでいた。


足跡。


草の倒れ方。


周囲の匂い。


以前なら見逃していた情報。


今は自然と目に入る。


努力スキル。


それは新しい能力を与えるものではない。


自分が積み上げてきた経験を。


決して失わせない力。


だから。


過去の失敗も。


全て意味を持つ。


「……来る」


次の瞬間。


茂みが揺れた。


巨大な狼型魔物が飛び出す。


ブラッドウルフ。


赤い瞳。


鋭い牙。


普通の冒険者なら恐怖で動けなくなる。


だが。


レオンは剣を構えた。


戦う。



速い。


最初の一撃を避ける。


爪が頬をかすめる。


二撃目。


さらに避ける。


以前なら。


ここで崩れていた。


でも。


今は違う。


相手の動きが見える。


いや。


見えるようになったのではない。


何度も負けてきたから。


何度も考えてきたから。


身体が覚えている。


「そこだ!」


反撃。


剣が魔物の体を捉える。


しかし。


浅い。


ブラッドウルフは倒れない。


怒りの咆哮。


そして。


強烈な体当たり。


レオンは吹き飛ばされた。


地面を転がる。


痛みが走る。


息が苦しい。


一瞬。


昔の感覚が戻ってくる。


無理だ。


勝てない。


才能がない。


そんな声。


しかし。


レオンは立ち上がった。


「……違う」


剣を握る。


「もう、それは理由にしない」



ブラッドウルフが迫る。


今までで一番速い。


だが。


レオンは落ち着いていた。


相手を見る。


動きを読む。


そして。


過去の自分なら選ばなかった一歩を踏み込む。


ギリギリで攻撃をかわす。


懐へ入る。


一撃。


二撃。


最後の一撃。


剣が急所を捉えた。


ブラッドウルフが倒れる。


静寂。



レオンはその場に座り込んだ。


勝った。


だが。


圧倒的な力で勝ったわけではない。


何度も危なかった。


何度も失敗した。


だから分かる。


この勝利は。


突然手に入った力ではない。


今までの全てが繋がった結果だ。


「……」


空を見る。


昔の自分なら。


ここで叫んでいただろう。


見返してやった。


認めさせた。


そう言っていたかもしれない。


でも。


今は違う。


ただ。


嬉しかった。



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは棚の整理をしていた。


すると。


店の奥に保管していた一枚の紙が淡く光る。


アルトは振り返る。


それは。


契約記録。


スキルを購入した客との契約が記されたもの。


普段は何も変化しない。


しかし。


契約者が大きな成長を遂げた時。


記録だけが反応する。


アルトは紙を見る。


そこに刻まれた文字。


【努力】


契約者。


レオン。


状態。


成長。


「……」


アルトは少しだけ目を細めた。


遠くを見ることはできない。


彼が何をしているかも分からない。


ただ。


売ったスキルが。


確かに育っている。


それだけは分かった。


「良い契約だったようですね」


アルトは静かに呟く。


そして。


また帳簿を閉じた。


次の客を待つために。

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