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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第28話 人間と努力④

冒険者ギルドに登録してから、一ヶ月。


レオンの生活は大きく変わっていた。


以前なら。


朝起きても、何をするべきか分からなかった。


剣を振っても意味がない。


魔法を練習しても才能がない。


周囲から言われ続けた言葉が、いつも頭の中に残っていた。


『お前には才能がない』


『努力しても無駄だ』


『向いていない』


何度も聞いた。


何度も傷付いた。


そしていつしか。


レオン自身もそう思うようになっていた。


自分には何もない。


特別なものなど一つもない。


だから。


魔界スキル商店を見つけた時。


最後の望みだと思った。


才能が買えるなら。


人生を変えられるなら。


何でも良かった。


だが。


手に入れたものは。


【努力】


最初は失望した。


期待外れだと思った。


しかし。


今なら分かる。


この力は。


自分が今まで積み重ねてきたものを。


決して無駄にしない力だった。



「レオン!」


冒険者ギルドの前で声をかけられる。


振り返る。


そこにいたのは。


懐かしい顔だった。


「……カイル」


同じ村で育った幼馴染。


カイル。


レオンとは正反対の存在。


幼い頃から才能に恵まれていた。


剣を握ればすぐ覚える。


魔力を測れば高い数値を出す。


十歳の頃には村中から期待されていた。


そして今。


王都騎士団候補。


誰もが認める未来の英雄。


「久しぶりだな」


カイルは笑った。


昔と変わらない笑顔。


だが。


レオンの胸には少し複雑な感情があった。


「お前が冒険者になったって聞いた」


「まあな」


「正直、驚いたよ」


その言葉に。


レオンの表情が少し曇る。


「まだそんなこと言ってるのか」


「いや、違う」


カイルは首を振った。


「本当に驚いてる」


「お前、変わったな」


レオンは黙る。


以前なら。


その言葉を素直に受け取れなかった。


どうせ馬鹿にしている。


そう思っていた。


だが。


今のカイルの目は違った。


本当に驚いている。



「少し手合わせしないか?」


突然の提案。


レオンは目を見開く。


「俺と?」


「嫌か?」


「いや……」


断る理由はない。


むしろ。


試してみたかった。


自分がどこまで成長したのか。


そして。


才能ある人間との差が、本当に縮まっているのか。



町の外。


二人は向かい合う。


カイルは木剣を持つ。


「手加減はしないぞ」


「分かってる」


昔なら。


この時点で震えていた。


勝てるわけがない。


そう思っていた。


だが。


今は違う。


レオンは剣を構える。


試合開始。


先に動いたのはカイルだった。


速い。


やはり速い。


才能というものを、そのまま形にしたような動き。


普通なら反応できない。


しかし。


レオンには見えた。


足の動き。


肩の揺れ。


呼吸の変化。


昔から何度も見てきた。


何度も負けてきた。


何度も分析した。


その全てが。


今のレオンの中に残っている。


剣を受ける。


一撃。


二撃。


三撃。


「……」


カイルの表情が変わる。


「お前」


「何だ?」


「昔より……」


言葉を止める。


レオンは踏み込む。


木剣が交差する。


一瞬。


レオンの剣がカイルの肩へ届く。


勝負あり。



静寂。


カイルはしばらく動かなかった。


そして。


笑った。


「すごいな」


「……」


「本当にすごい」


その言葉に。


レオンは戸惑う。


昔なら。


一番聞きたかった言葉だった。


認めてほしかった。


才能があると言ってほしかった。


だが。


今聞くと。


少し違う。


「お前、何かしたのか?」


カイルが聞く。


「前のお前とは違う」


レオンは少し考える。


そして答えた。


「努力しただけだ」


カイルは笑う。


「それだけか?」


「それだけだ」



だが。


カイルは知らない。


レオンが特別な力を手に入れたことを。


そして。


その力が何なのか。


知ればきっと驚くだろう。


なぜなら。


【努力】


というスキルは。


才能ある者ほど恐れる力だからだ。


才能ある者は。


最初から高い場所にいる。


だから。


成長が止まる。


しかし。


努力する者は違う。


昨日より今日。


今日より明日。


永遠に積み重ねる。


限界を決めない。


それこそが。


努力という才能。



その夜。


レオンは宿へ戻った。


机の上には。


古びた一冊のノート。


昔から書き続けている記録。


剣の振り方。


失敗した魔法。


戦い方の反省。


誰にも見せなかった努力の証。


以前なら。


このノートを見るたびに思っていた。


これだけやっても駄目だった。


才能がない証拠だ。


そう思っていた。


しかし。


今は違う。


ページをめくる。


そこには。


無数の失敗が書かれている。


でも。


その全てが。


今の自分を作っていた。


「……無駄じゃなかったんだな」


初めて。


心からそう思えた。



魔界スキル商店。


アルトは一冊の帳簿を見る。


レオンの記録。


【努力】


評価。


成功。


しかし。


アルトは小さく呟いた。


「まだ始まったばかりですね」


努力という力は。


短期間で結果を出すものではない。


時間が経つほど。


経験が増えるほど。


真価を発揮する。


だからこそ。


このスキルを選んだ。


彼は。


一瞬だけ輝く天才ではない。


積み重ね続ける者だから。

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