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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第27話 人間と努力③

翌朝。


レオンは目を覚ました。


不思議なほど気分が良かった。


いつもなら朝起きた瞬間。


胸の奥に重いものがあった。


また失敗するかもしれない。


また笑われるかもしれない。


そんな不安。


だが。


今日は違った。


「……」


レオンは自分の手を見る。


昨日。


自分は何か特別な力を手に入れた。


そう思っていた。


しかし。


身体が強くなったわけではない。


魔力が増えたわけでもない。


剣の技術が突然身についたわけでもない。


それでも。


何かが変わっていた。


「確かめるか」


レオンは宿を出た。



町の外。


いつもの練習場所。


一本の木剣を握る。


昔から使っているものだ。


傷だらけ。


何度も修理した。


才能がない自分と一緒に歩いてきた剣。


「……」


振る。


一回。


二回。


三回。


十回。


百回。


昨日と同じだった。


だが。


違う。


昨日より。


ほんの少しだけ。


動きが良い。


足の位置。


手首の角度。


力の入れ方。


昨日まで気付かなかった無駄が見える。


「なるほど……」


努力スキル。


これは力を与える能力ではない。


自分が積み重ねたものを。


絶対に無駄にしない能力なのだ。



それから一週間。


レオンは毎日剣を振った。


朝。


昼。


夜。


以前と同じ努力。


だが結果は違った。


昨日できなかったことが。


今日できる。


今日できなかったことが。


明日できる。


当たり前のこと。


しかし。


それが今までのレオンにはなかった。


どれだけ頑張っても。


才能ある者との差は縮まらなかった。


だが。


今は違う。


一歩ずつ。


確実に進んでいる。


「……楽しい」


レオンは小さく呟いた。


努力することが。


苦痛ではなくなっていた。



そんなある日。


町の冒険者ギルドへ向かった。


目的は一つ。


依頼を受けるため。


今まで何度も門前払いされた場所。


「おい」


受付の男が顔を上げる。


「また来たのか」


以前。


レオンを笑った男だった。


「新人冒険者になりたいんだろ?」


「無理だと思うぞ」


「才能がないって有名だからな」


周囲から笑い声が聞こえる。


以前なら。


ここで俯いていた。


自分には無理だと思っていた。


だが。


今日は違う。


「試験を受けたい」


レオンは真っ直ぐ言った。


受付の男は鼻で笑う。


「まだ諦めてなかったのか」


その瞬間。


昔なら胸に刺さっていた言葉が。


不思議と気にならなかった。


認められたい。


その気持ちはまだある。


だが。


もう誰かの評価だけで、自分の価値を決めない。


「受けさせてくれ」


その目を見て。


受付の男は少しだけ黙った。



試験内容は簡単だった。


木剣による模擬戦。


相手は現役冒険者。


レオンより三歳年上。


経験も実力も上。


「悪いけど」


相手は笑う。


「怪我する前に降参した方がいいぞ」


試合開始。


相手が迫る。


速い。


以前のレオンなら。


一撃も避けられなかった。


だが。


見える。


足運び。


剣の軌道。


呼吸。


今まで何千回も練習してきたから。


そして。


努力スキルが。


その全てを積み重ねているから。


レオンは避けた。


「なっ!?」


周囲がざわめく。


一度ではない。


二度。


三度。


相手の攻撃を避け続ける。


そして。


一瞬の隙。


レオンは踏み込んだ。


木剣が止まる。


相手の喉元。


勝負あり。


静寂。


誰も声を出せなかった。



「……合格だ」


試験官が呟いた。


レオン自身も驚いていた。


勝てた。


いや。


違う。


勝ったのではない。


今まで積み重ねてきたものが。


ようやく結果になった。


それだけだった。



その日の夜。


レオンは空を見上げる。


昔の自分なら。


ここで叫んでいたかもしれない。


見返してやった。


ざまあみろ。


そう言っていたかもしれない。


でも。


今は違う。


嬉しい。


ただ、それだけだった。


そして。


遠く離れた魔界。


魔界スキル商店。


アルトは帳簿へ記入する。


【努力】


契約者:レオン


評価:成功


しかし。


まだ途中。


アルトはペンを止めた。


「この方の成長速度は……」


少しだけ珍しく。


興味を持った表情になる。


「予想以上ですね」


努力。


それは弱者が最後に縋るものではない。


積み重ねる者にとって。


それは。


最強の才能になり得る。

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