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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第25話 人間と努力①

その店は、普通の地図には載っていない。


魔界の片隅。


深い森の奥。


古びた木造の平家。


そこに一つの看板がある。


【魔界スキル商店】


しかし。


誰もが辿り着けるわけではなかった。


店の存在を知っていても。


場所を聞いても。


探し回っても。


見つけられない者の方が多い。


理由は誰にも分からない。


ただ、魔族の間では一つの噂だけが残っていた。


『本当に人生を変えたい者だけが、あの店へ辿り着ける』


と。



アルトはいつものように帳簿を整理していた。


最近は客が増えてきた。


ゴブリン。


サキュバス。


ダークエルフ。


スライム。


それぞれ違う願いを持った者たち。


そして今日。


また一人。


新しい客が訪れた。


カラン。


扉の鈴が鳴る。


アルトは顔を上げた。


「いらっしゃいませ」


入ってきた人物を見て、少しだけ目を細める。


人間だった。


若い男。


年齢は十七、十八ほど。


服は汚れている。


靴には泥がついている。


長旅をしてきたのだろう。


男は警戒しながら店内を見回した。


「本当に……あった」


小さな声。


アルトは聞き逃さなかった。


「当店を探していたのですか?」


男は驚いた顔をする。


「知っているのか?」


「お客様がそういう顔をされていましたので」


男は苦笑する。


「変な店主だな」


「よく言われます」


男はしばらく黙った。


そして。


「俺はレオン」


初めて名乗った。


「人間だ」


「承知しております」


「……魔族の店なのに?」


「お客様であることに種族は関係ありません」


その言葉に、レオンは少しだけ驚いた。


人間と魔族。


長年争ってきた二つの種族。


普通なら敵同士だ。


だが目の前の店主は、まるで気にしていない。


「変わった奴だな」


レオンは椅子へ座った。


そして小さく息を吐く。


「……噂を聞いた」


「噂?」


「人生を変える力を売る店があるって」


アルトは頷く。


「間違いではありません」


「じゃあ」


レオンは拳を握った。


「俺にも売ってくれ」



レオンは語った。


自分には何もないこと。


村では役立たずと言われていたこと。


冒険者を目指したが、才能がないと言われたこと。


幼馴染は騎士になった。


同年代は魔法使いになった。


弟は天才と呼ばれている。


「俺だけだ」


レオンは俯く。


「俺だけ、何も持っていない」


その声には悔しさがあった。


長い間、抱えてきた感情。


「だから欲しい」


顔を上げる。


「才能が欲しい」


「誰にも負けない才能が」


アルトは静かに見つめる。


「本当に?」


「……何がだ」


「才能が欲しいのですか?」


レオンは眉をひそめる。


「当たり前だろ」


「では質問します」


アルトは紅茶を置く。


「才能を手に入れて、何をしたいのですか?」


「強くなる」


「その後は?」


「有名になる」


「その後は?」


レオンは黙った。


答えられない。


アルトは続ける。


「有名になった後、何を望みますか?」


しばらく沈黙。


そして。


レオンの口から漏れた。


「……認められたい」


小さな声だった。


「俺だってできるって」


「才能がないって笑った奴らに」


「間違っていたって思わせたい」


アルトは頷く。


ようやく見つけた。


彼が本当に欲しいもの。


才能ではない。


復讐でもない。


認められること。


自分自身を肯定する理由。



アルトは棚へ向かった。


一つのスキル結晶を取り出す。


黄金色の光。


レオンは息を呑む。


「それは……」


アルトは机へ置いた。


刻まれた文字。


【努力】


レオンは固まった。


「……努力?」


「はい」


「いや」


レオンは結晶を見る。


何度見ても同じ文字。


「俺が欲しいのは才能だぞ?」


「存じています」


「なのに努力?」


「はい」


レオンは頭を抱えた。


人生を変える力。


伝説級の能力。


そういうものを期待していた。


だが。


努力。


あまりにも普通だった。


「……本当にこれが俺に必要なのか?」


アルトは迷わず答えた。


「はい」


その声には確信があった。


「お客様に足りないのは才能ではありません」


「才能がないと思い込むほど、努力してきた自分を認める力です」


レオンは言葉を失った。


そして。


まだ知らない。


この世界で。


最も馬鹿にされている力が。


後に最も恐れられる力になることを。

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