表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/41

第24話 スライムと分裂④

子スライムたちの体が一斉に光り始めた。


淡い青色の光。


夜の湿地帯を照らすほどではない。


だが確かな魔力の輝きだった。


「ぷる?」


「ぷるる?」


当の本人たちは何が起きているのか分かっていない。


首を傾げている。


いや、首はない。


体が傾いている。


そんな呑気な様子だった。


しかし周囲のスライムたちは違った。


「何だあれ?」


「魔力が集まってるぞ!」


「まずいんじゃないか!?」


不安が広がる。


目の前には巨大な魔獣。


そして光り出した子スライムたち。


何が起きるのか誰にも分からない。


ポヨン自身も分からなかった。


ただ一つだけ確かなことがある。


危険だ。


子スライムたちが危ない。


それだけは分かる。


「逃げろぉぉぉ!」


ポヨンは叫んだ。


だが。


子スライムたちは逃げなかった。


むしろ。


ぴょん。


一匹が前へ出る。


ぴょん。


二匹目も。


ぴょん。


三匹目も。


次々と魔獣の前へ飛び出していく。


「何してるんだぁぁぁ!?」


ポヨンは絶叫した。


その瞬間だった。


子スライムたちが互いにぶつかった。


ぽよん。


体が重なる。


すると。


融合した。


「……え?」


一匹になった。


さらに。


別の子スライムも飛び込む。


融合。


また一匹になる。


さらに融合。


さらに融合。


さらに融合。


光はどんどん強くなっていく。


二十匹近い子スライムたちが、一つへ集まっていく。


湿地帯は静まり返った。


誰も言葉を発せない。


目の前で起きている現象が理解できなかった。


そして。


最後の一匹が融合した瞬間。


巨大なスライムが誕生した。


「ぷる!」


元気な声が響く。


大きい。


とにかく大きい。


魔獣と同じくらいある。


いや。


少し大きいかもしれない。


巨大スライムは自分の体を見下ろした。


右を見る。


左を見る。


そして。


「ぷるるー!」


なぜか喜んだ。


楽しそうだった。


完全に遊び感覚である。


一方。


魔獣は違った。


本能的に危険を感じたのだろう。


唸り声を上げながら突進する。


巨大な爪が振り下ろされる。


普通のスライムなら消し飛ぶ一撃。


だが。


巨大スライムは避けなかった。


ぽよん。


体を揺らしただけだった。


次の瞬間。


爪が埋まる。


スライムの体に。


ずぶりと。


魔獣は慌てた。


引き抜こうとする。


だが抜けない。


「ギャアアアア!」


暴れる。


さらに埋まる。


湿地帯のスライムたちは唖然としていた。


「強すぎないか?」


誰かが呟いた。


全員が同意した。


巨大スライムは魔獣を見つめる。


そして。


ぺちん。


叩いた。


ただそれだけだった。


だが。


魔獣は吹き飛んだ。


木を一本。


二本。


三本。


まとめてへし折りながら転がっていく。


最後には地面へ突き刺さった。


静寂。


完全な静寂だった。


数秒後。


「おおおおおおお!」


歓声が爆発した。


湿地帯中が大騒ぎになる。


「勝った!」


「倒したぞ!」


「すげぇ!」


皆が喜ぶ。


ドロンも興奮していた。


だが。


ポヨンだけは別のことを考えていた。


巨大スライムを見ていた。


あの力。


あの大きさ。


どこか見覚えがあった。


いや。


正確には違う。


見覚えがあるのではない。


理解したのだ。


【分裂】の意味を。


分かれたから弱くなったのではない。


分かれたから強くなった。


それぞれが経験し。


成長し。


必要な時に再び一つになる。


だから強い。


数の力。


個の力。


両方を持てる。


それが【分裂】だった。


その時。


巨大スライムの体が光り始める。


そして。


ぽこん。


ぽこん。


ぽこん。


子スライムたちへ戻っていく。


二十匹近い小さなスライムたち。


何事もなかったような顔をしていた。


「ぷる!」


一匹がポヨンへ飛び付く。


続いて二匹。


三匹。


四匹。


最終的に全員飛び付いた。


ポヨンは埋まった。


完全に。


「ぷるるるるるる……」


苦しい。


重い。


暑い。


だが。


少しだけ笑ってしまう。


周囲のスライムたちも笑っていた。


「やっぱり人気者だな」


ドロンが言う。


ポヨンは反論しようとした。


だが。


言葉が出なかった。


昔の自分なら喜んでいただろう。


人気者。


その言葉を。


だが今は少し違う。


人気者になれたことよりも。


この子たちが無事だったことの方が嬉しかった。


その事実に、自分自身が驚いていた。


夜。


騒ぎが落ち着いた後。


ポヨンは静かに星空を見上げていた。


隣には子スライムたち。


ぐっすり眠っている。


「ぷる……」


ふと。


アルトの言葉を思い出す。


――お客様の孤独をいただきます。


ようやく意味が分かった。


孤独を失った。


だから一人になれなくなった。


うるさい。


騒がしい。


面倒くさい。


だけど。


寂しくはない。


その時だった。


眠っていた子スライムの一匹が寝ぼけながら近寄ってくる。


そして。


ぴとっ。


ポヨンへくっついた。


「ぷるー……」


寝言らしい。


ポヨンは少しだけ笑う。


そして静かに空を見上げた。


モテたいと思っていた。


人気者になりたいと思っていた。


強くなりたいと思っていた。


だが本当に欲しかったものは。


案外、最初から別のものだったのかもしれない。


遠く離れた魔界スキル商店。


帳簿を閉じたアルトは、小さく頷いた。


【分裂】


契約者:ポヨン


評価:大成功


備考。


『本人はまだ認めていないが、現在とても幸せである』


その一文を書き終えた時。


カラン。


店の扉が開いた。


次の客がやって来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ