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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第22話 スライムと分裂②

魔界スキル商店を出たポヨンは、納得できない気持ちを抱えたまま湿地帯へ戻っていた。


【分裂】。


それが手に入れたスキルの名前だった。


モテたい。


人気者になりたい。


大きくなりたい。


そう願った結果が分裂。


正直なところ、意味が分からない。


さらに代価も謎だった。


「お客様の孤独をいただきます」


アルトはそう言っていた。


孤独。


何だそれは。


金貨なら分かる。


魔力なら分かる。


だが孤独とは何なのか。


ポヨンにはさっぱり理解できなかった。


「ぷるる……」


考えれば考えるほど変な店だった。


やがて住み慣れた湿地帯へ戻る。


広い沼地。


泥の匂い。


仲間たちの姿。


見慣れた光景だった。


「おーい!」


巨大スライムのドロンが跳ねながら近づいてくる。


「どうだった?」


「例の店」


周囲のスライムたちも興味津々で集まってきた。


ポヨンは少しだけ胸を張る。


「スキルを買った」


おおー!


歓声が上がる。


気分が良い。


だが次の質問で固まった。


「どんなスキル?」


「……分裂」


静寂。


そして。


「ぶははははは!」


大爆笑だった。


湿地帯中に笑い声が響く。


「増えるのかよ!」


「それ人気者と関係ある!?」


「大きくなりたいんじゃなかったの!?」


好き放題言われる。


ポヨンは穴があったら入りたかった。


スライムなので実際に穴へ入った。


その日の夜。


自宅の泥穴で一人になったポヨンは、大きくため息をついた。


「ぷるる……」


結局笑われただけだった。


何が分裂だ。


何が孤独だ。


あの店主に騙されたのかもしれない。


そう思いながら眠ろうとする。


その時だった。


ぽこん。


妙な音がした。


「?」


ポヨンは周囲を見回す。


何もない。


気のせいか。


そう思った瞬間。


ぽこん。


また音がした。


今度は目の前だった。


そこには小さなスライムがいた。


「ぷる?」


ポヨンが固まる。


小さなスライムも固まる。


見つめ合う。


数秒。


「ぷる!」


小さいスライムが飛び跳ねた。


「ぷるるるるるるる!?」


ポヨンは飛び上がった。


増えた。


本当に増えた。


分裂した。


小さいスライムは嬉しそうに近寄ってくる。


そして。


ぴとっ。


ポヨンへくっついた。


「ぷる?」


離れない。


右へ動く。


付いてくる。


左へ動く。


付いてくる。


逃げる。


追いかけてくる。


「ぷるるる!?」


何だこれ。


怖い。


だが小さいスライムは楽しそうだった。


結局その夜はずっと隣にいた。


翌朝。


ポヨンが目を覚ます。


すると目の前に小さいスライムがいた。


じーっと見ている。


「ぷる!」


元気いっぱいだった。


ポヨンは嫌な予感がした。


非常に嫌な予感だった。


その予感は当たる。


朝食代わりに魔草を食べる。


付いてくる。


散歩する。


付いてくる。


昼寝する。


付いてくる。


「ぷるるる……」


離れない。


本当に離れない。


夜になる頃には少し疲れていた。


ようやく寝られる。


そう思った。


ぽこん。


音がした。


「……ぷる?」


振り返る。


そこには。


二匹目がいた。


沈黙。


「ぷる!」


二匹目が飛び付いてくる。


「ぷる!」


一匹目も飛び付いてくる。


ポヨンは埋もれた。


まだ二匹なのに。


嫌な予感がする。


とても嫌な予感がする。


三日後。


予感は現実になった。


子スライム五匹。


全員元気。


全員懐いている。


全員離れない。


ポヨンが歩けば後ろを付いてくる。


寝れば隣で寝る。


食べれば真似して食べる。


「ぷるるる……」


一人の時間がない。


全くない。


少し前まで。


ポヨンはずっと一人だった。


仲間はいた。


だが親しい相手はいなかった。


大きいスライムたちは人気者だった。


強いスライムたちには友達がいた。


ポヨンは普通だった。


だから目立たなかった。


誰かと一緒にいることも少なかった。


それが今はどうだ。


一人になりたくてもなれない。


静かに昼寝もできない。


落ち着いて考え事もできない。


「ぷるるるる……」


ポヨンは空を見上げた。


そこでふと思い出す。


――お客様の孤独をいただきます。


アルトの言葉だった。


「ぷる……」


もしかして。


まさか。


これか?


その時だった。


「ぷる!」


子スライムの一匹が花を持ってきた。


「ぷるる!」


別の一匹が珍しい果実を持ってきた。


「ぷる!」


さらに別の一匹がどこからか綺麗な石を拾ってきた。


みんな嬉しそうだった。


まるで褒めてほしい子供のように。


ポヨンはしばらく黙っていた。


そして。


「……ぷる」


少しだけ笑った。


うるさい。


騒がしい。


面倒くさい。


だが。


悪くない。


そんなことを思ってしまった。


しかし。


この時のポヨンはまだ知らない。


一週間後には十五匹。


さらにその先には湿地帯全体を巻き込む大騒動が待っていることを。


そして自分が二度と静かな生活へ戻れなくなることを。


まだ知らなかった。

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