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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第2話 ゴブリンと連携

赤黒い月が魔界の空を照らしていた。


荒野を走る一匹のゴブリン。


ガズは息を切らしながら巣へ向かっていた。


胸の奥には不思議な感覚が残っている。


魔界スキル商店で買ったスキル――【連携】。


本当に役に立つのか。


正直なところ、まだ半信半疑だった。


だが、それでも信じるしかない。


仲間を守るために。


「ガズ!」


巣へ戻った瞬間、一匹のゴブリンが駆け寄ってきた。


顔は青ざめている。


「まずい! 灰牙の連中が来た!」


ガズの表情が変わった。


灰牙ゴブリン族。


近隣最大の群れだ。


数も力もこちらを上回る。


これまで何度も襲撃を受け、その度に仲間を失ってきた。


「何匹だ!」


「二十以上!」


こちらは十五。


普通に戦えば負ける。


誰もがそう思っていた。


だが、ガズは槍を握りしめた。


「戦える奴を集めろ!」


その声には迷いがなかった。


仲間たちは驚きながらも武器を手に取る。


やがて巣の入り口に十五匹のゴブリンが並んだ。


そして。


遠くから灰牙ゴブリン族が姿を現す。


「また食料をもらいに来てやったぞ!」


敵のリーダーが笑う。


周囲のゴブリンたちも下品な笑い声を上げた。


これまでなら震えていただろう。


だが今日は違う。


ガズはゆっくりと息を吐いた。


その瞬間。


頭の中に仲間たちの位置が浮かび上がる。


右に三匹。


左に四匹。


後方に投石役が二匹。


まるで見えない糸で全員が繋がったようだった。


「これが……連携」


思わず呟く。


敵が突撃を開始した。


「やれぇ!」


二十匹以上のゴブリンが一斉に襲いかかる。


ガズは叫んだ。


「右へ避けろ!」


味方が同時に動く。


敵の突撃が空を切った。


そこへ後方から石が飛ぶ。


一匹の敵が顔面を押さえて倒れた。


さらに別のゴブリンが横から槍を突き出す。


完璧な連携。


誰も指示されていない。


それなのに全員が最適な行動を選んでいた。


「な、なんだこいつら!?」


灰牙側が動揺する。


戦いの流れが変わった。


これまで一方的に狩られる側だった群れが、初めて互角以上に戦っている。


ガズ自身も驚いていた。


仲間の動きが手に取るように分かる。


誰が危険か。


誰が攻撃すべきか。


自然と理解できる。


「押し返せ!」


ガズが前へ出る。


仲間たちも続いた。


敵が崩れ始める。


そして。


「撤退だ!」


灰牙のリーダーが叫んだ。


敵の群れが逃げ出す。


勝った。


初めて。


格上相手に。


完全な勝利だった。



戦いが終わると、巣は歓声に包まれた。


「勝ったぞ!」


「本当に勝った!」


「もう襲われない!」


ゴブリンたちが飛び跳ねる。


泣き出す者までいた。


それほど長い間、彼らは怯え続けていたのだ。


一匹の年老いたゴブリンがガズの肩を叩く。


「お前のおかげだ」


ガズは首を振った。


「違う」


皆が首を傾げる。


「俺は店でスキルを買っただけだ」


「店?」


「辺境にある変な店だよ」


ガズは苦笑した。


正直、自分でもまだ信じられない。


だが現実に仲間は救われた。


それが答えだった。


「その店、俺も行きたい」


「俺も!」


「私もだ!」


次々と声が上がる。


ガズは少しだけ笑った。


あの店主ならきっと嫌な顔はしないだろう。



翌日。


魔界スキル商店。


アルトは店先を掃除していた。


すると。


カラン。


扉が開く。


顔を上げたアルトは思わず目を瞬かせた。


昨日のゴブリン。


その後ろに十匹以上のゴブリンが並んでいる。


「店主!」


ガズが満面の笑みで叫んだ。


「勝ったぞ!」


「それは良かったですね」


アルトは穏やかに微笑む。


そして後ろの列を見た。


「本日はお連れ様も?」


「みんなスキルが欲しいんだ!」


その言葉に、アルトは少しだけ口元を緩めた。


魔界へ来てから初めての成功例。


初めての口コミ。


そして初めての常連候補。


どうやら――。


魔界スキル商店は、ようやく商売らしくなってきたらしい。


その日、アルトは知らなかった。


最初の客であるゴブリンの群れが。


数年後、『連携の軍団』と呼ばれ、魔界中に名を轟かせることを。


まだ誰も知らなかった。

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