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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第15話 ダークエルフと復讐②

「復讐が終わった後の人生……?」


レイナは眉をひそめた。


意味が分からない。


いや、言葉の意味は分かる。


だが代価になる理由が分からなかった。


「どういうこと?」


アルトはいつものように慌てない。


静かに紅茶を口に運び、それから答えた。


「そのままの意味です」


「説明になってないわ」


「では質問を変えましょう」


アルトはレイナを見た。


「復讐が終わった後、お客様は何をしますか?」


即答できなかった。


レイナは口を開く。


そして閉じる。


考える。


だが答えが出ない。


復讐が終わった後。


敵を殺した後。


部族の仇を討った後。


その先。


そこまで考えたことがなかった。



「……知らない」


ようやく絞り出した言葉だった。


アルトは頷く。


驚かない。


まるで予想していたかのように。


「多くのお客様がそうです」


静かな声だった。


「願いを叶えた後を考えていない」


レイナは黙る。


胸の奥が少しだけざわついた。



十年前。


村が焼かれた。


父が死んだ。


母が死んだ。


兄が死んだ。


その日からレイナは復讐だけを見て生きてきた。


弓を学んだ。


剣を学んだ。


魔術も覚えた。


全て復讐のため。


だから。


その先など考える必要がなかった。


「代価になる理由は?」


レイナが尋ねる。


アルトは答える。


「このスキルは復讐心を力に変えます」


カードを指差す。


【復讐】


その文字が淡く光っていた。


「憎しみが強いほど強くなる」


「怒りが深いほど強くなる」


レイナの目が細くなる。


確かに復讐向きの力だ。



「ですが」


アルトが続ける。


「復讐が終われば、その力は意味を失います」


店内が静かになる。


「その時、お客様は空っぽになります」


レイナは反射的に反論しようとした。


だが言葉が出なかった。


空っぽ。


その言葉が胸に刺さる。


想像してしまったからだ。


仇を討つ。


十年追い続けた敵を殺す。


そして終わる。


その後は?



何もない。



初めて気付いた。


自分は十年間、前だけを見ていた。


だから後ろも横も見ていない。


終わった後も見ていない。



「だから代価は未来です」


アルトが言う。


「復讐後の人生を私へ預ける」


「そうすることで、このスキルは完成します」


レイナはカードを見る。


強力なのだろう。


きっと。


今までの客の話から分かる。


この店の商品は本物だ。


「もし断ったら?」


「販売できません」


即答だった。


レイナは苦笑する。


強引な商売だ。


だが嫌な感じはしない。


むしろ。


見透かされている気分だった。


「少し考えさせて」


「もちろんです」


アルトは頷いた。


「当店は逃げませんので」



店を出る。


夕日が荒野を赤く染めていた。


レイナは一人で歩く。


復讐。


それだけが人生だった。


そう思っていた。


だが今は違う。


一つの疑問が頭から離れない。


復讐が終わったら。


私は何になる?



黒森へ戻った翌日。


レイナは墓地へ向かった。


父の墓。


母の墓。


兄の墓。


いつもの場所。


「私ね」


誰もいない墓地で呟く。


「変なことを言われた」


当然返事はない。


だが続けた。


「復讐が終わった後の人生を考えろって」


風が吹く。


木々が揺れる。


しばらく沈黙。


そしてレイナは気付く。


本当に考えたことがなかった。



昔は何が好きだった?


狩り。


料理。


妹たちと遊ぶこと。


森を歩くこと。


弓を教わること。


思い出が次々と浮かぶ。


復讐を誓う前の自分。


確かに存在していた。


「……忘れてたな」


小さく笑う。


十年間。


あまりにも長かった。



その夜。


部族の子供たちへ弓を教える機会があった。


本来の担当者が体調を崩したのだ。


仕方なく引き受ける。


最初は面倒だった。


だが。


「すごい!」


「当たった!」


「レイナ姉ちゃん見て!」


子供たちが笑う。


はしゃぐ。


喜ぶ。


レイナは呆然とした。


楽しい。


本当に久しぶりだった。



帰り道。


空を見上げる。


星が輝いていた。


そして気付く。


自分にはまだ未来がある。


復讐以外の未来が。



だが。


それでも。


胸の奥の憎しみは消えていなかった。


仇を許せるわけではない。


忘れられるわけでもない。


だからこそ迷う。


復讐を選ぶのか。


それとも。



数日後。


レイナは再び荒野を歩いていた。


向かう先は一つ。


魔界スキル商店。



夕暮れの中。


小さな店が見えてくる。


レイナは足を止めない。


もう答えは出ていた。


ただ。


その答えが正しいのかは。


まだ誰にも分からなかった。

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