第14話 ダークエルフと復讐①
魔界南部。
黒森と呼ばれる広大な森林地帯。
そこでは一人のダークエルフが獲物を追っていた。
矢を放つ。
風を裂く音。
次の瞬間、魔獣の眉間へ正確に突き刺さった。
魔獣は一声も上げず倒れる。
見事な腕前だった。
だが。
「まだ足りない」
ダークエルフ――レイナは冷たく呟いた。
◆
黒森には多くの部族が存在する。
その中でもレイナの一族は、かつて有力な部族だった。
優秀な狩人。
優秀な戦士。
森の守護者。
誰もがそう呼んでいた。
だが十年前。
全てが変わった。
◆
襲撃だった。
隣接する戦闘部族。
《紅牙族》。
些細な争いから始まった戦いは激化し、やがて部族同士の戦争へ発展した。
結果。
レイナの一族は敗北した。
村は焼かれた。
戦士は殺された。
多くの仲間が散った。
父も。
母も。
兄も。
帰ってこなかった。
◆
「レイナ」
背後から声が掛かる。
同じ部族の青年だった。
「また狩りか」
「ええ」
「休めよ」
レイナは答えない。
青年は苦笑する。
「最近ずっとだろ」
「強くなりたいの」
短い返答。
だが本音ではなかった。
強くなりたいのではない。
◆
復讐したい。
それだけだった。
十年間。
ずっと。
◆
夜。
レイナは一人で墓地を訪れていた。
並ぶ墓標。
その一つへ手を添える。
父の墓だった。
「もう少し待って」
小さく呟く。
「必ず終わらせるから」
風が吹く。
木々が揺れる。
返事はない。
当然だ。
死者は答えない。
◆
その時だった。
背後から話し声が聞こえた。
墓参りに来ていた別のダークエルフたちだ。
「知ってる?」
「魔界スキル商店のこと?」
「願いを叶えるスキルを売る店らしい」
レイナの耳が反応する。
最近よく聞く噂だった。
ゴブリン。
サキュバス。
オーガ。
リッチ。
様々な話が広がっている。
最初は信じなかった。
だが。
リッチの話だけは聞き覚えがあった。
ノワール。
有名な研究者だ。
その彼が店を利用したという噂が広まっていた。
◆
願いを叶える。
その言葉が頭から離れない。
復讐を果たせる力。
敵を討つ力。
それが手に入るなら。
◆
三日後。
レイナは荒野を歩いていた。
迷いはない。
欲しいものは決まっている。
復讐の力。
それだけだ。
◆
やがて見えてくる。
小さな店。
木造の建物。
不思議な商店。
『魔界スキル商店』
レイナは扉を見つめる。
少しだけ拳に力が入った。
十年間。
追い続けた願い。
それが叶うかもしれない。
◆
カラン。
扉を開く。
鈴の音。
店内には黒髪の青年がいた。
「いらっしゃいませ」
穏やかな声。
レイナは席へ座る。
そして迷わず言った。
「復讐したい」
アルトは何も言わない。
驚きもしない。
ただ静かに聞いている。
◆
「敵を殺したい」
レイナは続ける。
「部族を滅ぼした連中を」
「奪われたものを返してもらう」
「十年間そのために生きてきた」
言葉が止まらない。
怒り。
憎しみ。
後悔。
全部吐き出す。
◆
長い沈黙の後。
アルトが紙を取り出した。
ペンが走る。
淡い光。
文字が刻まれていく。
やがて一枚のカードが完成した。
レイナはそれを見る。
そして目を見開いた。
そこに書かれていたのは――
【復讐】
だった。
◆
店内の空気が重くなる。
レイナはカードを見つめる。
その名の通りのスキル。
求めていた力。
欲しかった力。
だが。
なぜだろう。
カードから目を離せなかった。
まるで覗き込まれているような感覚があった。
◆
アルトが静かに口を開く。
「価格をお伝えします」
レイナは頷く。
どんな代価でも払うつもりだった。
金貨でも。
宝石でも。
武器でも。
何でも。
◆
しかし。
次の言葉でレイナの表情が凍り付く。
「金貨二十枚」
そこまでは予想通りだった。
問題はその後。
「そして――」
アルトは真っ直ぐレイナを見る。
「復讐が終わった後の人生」
店内が静まり返る。
レイナは意味が分からなかった。
いや。
理解したくなかった。
アルトは続ける。
「このスキルの代価です」
その言葉だけが。
静かに店内へ響いていた。




