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一生に一度あるかも分からない機会に、利用者の大半が同じ思考に至るのか。距離的制約もないここでは予定時間に近づくほど急激に人の密度が高まる。いつしか広場を埋めつくさんとする人混みが生まれて、自身も演出の一つに加わっていた。
これが複数ある空間のひとつと知れば、なおさら全世界という規模は想像しきれない。
「私の祖父は、年齢制限でカジノに立ち入れず、随分悔しい思いをしたそうだ。今回は勝手ながら年齢制限のない余興も幅広く用意させてもらった。若い皆も楽しんでくれると嬉しい」
男の宣言と共に、夜空に花火が舞い、点在する音響装置から軽快な楽曲が流れる。
広場外周の壁を抜け出た各方に、それぞれ特色を持った景観で商店が建ち並び、歩いてみれば客や店側の声が絶えず飛び交う。
様々な形を模した風船が、会場の光源に照らされて風の流れに揺れる。
人間とセラフが混ざり合う独特の雰囲気が、非日常の印象を強めている。
特設された会場は利用者同士の交流もそれ相応に、試合中では見られない散財する姿がある。大小さまざまな客席の内には、個人でなく独自の規律をもった集団が机にまとまって祝杯をかかげる。長く過ごせば生じる人の集まりを、今日まで自分が見過ごしてきたことが分かる。
それら全てが祭典によって引き起こされた。
「すごいな」
「うん」
行列と足並みを合わせて進む。
この日の出費は、事前に換金所を訪れて自費で補った。
気になった露店で足を止め、椅子に落ち着けた時には、エリア限定で配られる地図から経路上の店を見比べ、到着した先の混在具合によって諦めては次に向かう。分け合った軽食で腹を満たせば、硬い地面の表層をおおった砂が靴底の密着を防いで歩みを助けていた。
直進したはずの通路が再び広場に行き着き、今度は遊興屋台のある通りに足を向ける。
人間向けのそれらは意外に一部の魔人の手に余り、あるいは人混みの情報量に負けてか、輪投げや的当てでは力加減と一致しない不器用さを見せる。参加しない催しでも観客として楽しめた。
疲れを覚えた頃合いに改めて腹休めと口直しの食事を取り、その日の活動を終える。
目覚めた直後には、しばらく室内を見回した。
隣の寝台で寝転ぶミセラを見つけてようやく起き上がり、身支度を済ませて宿泊所を出ると、世界と地続きでないこの場所の一変した姿を目にする。
仮想現実だからこそか。
見渡しも良ければ、夜の盛況が通り過ぎた現場には、無数のゴミが散らばっていた。
客の往来の隙間に見つかるそれらは人間が活動していた証拠として、行き届いた光に照らされる経年が再現された建物外観と相まって、自分の意に介さない在り方で確からしさを演出する。
夜景では暖色系の照明が照らした街並みが今は白い。
営業準備に追われる屋台や店舗の外側に、どこか異国の雰囲気を感じながら、朝食をとって予定の時間まで散歩をするつもりだった。
明確に足が止まったのは、単調ではない街並みが存在していたためだ。
ここの空間は入念に設計されている。
切り取った景色で、地図の現在地を特定できてしまうほど。
統一感を印象付ける以上の価値を自分だけは知っていた。ディープセラの内部にいると教わりながら、どこか実在を疑わしく感じていた景色が、ここには存在する。
記憶を思い起こせば、目線が過不足なくそれを見つけていた。
人々の行列を遠巻きに見下ろす男と娘。
写真と違わぬ風貌は、そばにいた娘らしき存在の外見で容易に判断がつく。
露店の間を抜けて、傾斜の階段を上がれば、近づこうとする何者かに気付いた相手が路地に逃げ込む。
祭りの景色から遠ざかり、入り組んだ奥まで追いかけると、立ち尽くした相手を見つける。
「そこで何をしてんだ。親父」




