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05



「次はどこに向かっているんだ?」

「もちろん、ここから一番近い観戦所よ」


最初は隣を歩いていた相手が、今では足を地面から浮かせている。


仮想現実の空を自由に飛び回れるわけではないらしい。あくまで地面に足が着かない程度に過ぎないが人間技ではない。少なくとも同じ街中を歩く自分に同じ真似はできない。


車両でなく人間が足で進む道路は、文字広告も設置がひかえられている。

独自の法規制があるのだろう。どこまでも続いていそうな景色も、仮想空間の全てと繋がっているわけではなく、必要な費用を支払えば移動時間を省略できるように、個人用のスペースというものが存在するという。


今これから案内されようとする場所もこのディープセラ特有のものだ。来る途中に見かけた、いかにもな都市景観に混ざる移動販売車などとは異なり、中空に浮かぶ無数の画面とそれを見つめる人々の姿が、本来車両が通るべき場所にあある。


歩行者の横断を助けるための植樹のある通路から距離を取り、都市の方々に繋がる幹線道路の中央を踏みしめる、あるいはその外側の建物の壁に寄りかかる。人外らしき存在を連れている者が見るのは、中空のそれぞれの大画面に映された映像であった。


ディープセラに来た自分も同様に与えられた、それの利用する姿を見つける。

仮想現実と呼ぶなら、見るだけではなく自分の手で干渉できてもおかしくない。その変化を他者が認識できて初めて現実と呼べる。


自身に与えられたミセラのように、各人に与えられたセラフが、画面の中で街を壊している。正確には互いのセラフを狙った攻撃に巻き込まれる形で壊されているわけだが、それぞれの所有者にまで被害がおよんでいる。

倒壊する瓦礫に押しつぶされ、身動きが取れないだろう者に向けて、相手のセラフが追撃を放てば、その画面には戦闘終了を告げる表示が現れる。


画面を見ていた観衆も少なくない反応があった。

勝敗の結果に動揺する一部の姿は賭け事のそれだ。ノード資産を消費する試合と教わっていた以上に、観客側にも影響する何かがあるらしい。


「この場所に留まり続ければ、父親を見つけられるか?」

「所属地区が同じか知りたいなら、たぶん、詳しい人に聞いた方が早い」


一度見逃せば、次は最大一週間先まで父親の試合はない。

それまでに自分も試合を行うことになるなら、ここで他の試合を見れると分かっただけ有意義だろうか。


たとえ画面に姿を見つけたところで実際に会って話せるわけではない。仮に直接会えたところで自分に何かができるわけでもない。

セラフという存在を知った時点で写真に対する疑惑は晴れていれば、もはや文句を言うことくらいしかできないのだから。


「――あれ? もしかして光輝?」


人違いを警戒しつつ声元に向けた視線が、近づいてくる幼馴染の姿をとらえる。


「どうして真矢が……?」

「どうしても何も、むしろ光輝がいることの方が驚きなんだけど?」


次に彼女の視線は、自分の隣にいた存在に向かった。


「へー、かわいい顔してんじゃん。その子が光輝のセラフ?」

「ああ、そうだけど」

「強いの?」

「分からない。さっき貰ったばかリだし」


真矢が視線を戻すまで時間がかかった。

人型ということもあり衣装が気になるのか。個人によっては自身のセラフを着飾ったりするのかもしれない。とにかく興味のない自分には縁遠い話だ。


「仮想現実なんて光輝は興味ないだろうと思ってたけど、どんな理由で、ここに入ったの?」

「父親がいるらしいから」

「光輝のお父さんもいるんだ。知らなかった」

「けど、この場に留まっても無駄ってことをさっき知ったから、次に何をするか考えていた」


こちらの答えを聞いて、真矢が一度周囲を見回す。会話している間も画面にはぞれぞれ別の試合が映されており、それを見る群衆の姿は絶えない。


「よければ、色々案内してあげようか?」

「いいのか?」

「便利な施設くらい知っておかないと、つまらないでしょ」


ついてくるように言われて、背中を追って歩いて観戦所を離れる。


「……ちなみに真矢のセラフは?」

「ひ・み・つ。見たかったら試合を申し込んでね」

「いや、ノードが無駄になるからいいや」

「あっそ」


自分から対戦相手を指名する場合はノードを余分に消費することになるし、週一回の義務を先取りしても、早めた日数が次に繰り越されないなら、真矢の提案を受け入れる理由もなかった。


「けっこう歩いたな」

「実際、街ひとつ分を歩いているわけだし、当然、体も疲れるでしょ」


案内されていく内に、ディープセラの活動が思ったより広範に日常に影響しているのが分かる。

案内役の入鹿も以前に語っていた。主体的に何かをするわけではなく場を提供するだけ。それ以上の営みは権利者たちが行うことで実現しており、露店もそのひとつだ。各地で行われる物品の販売は、権利者間で行われており、基本的にディープセラが関与することはない。

いくら仮想現実を扱う技術を持っていても、内部の飲食店の一つ一つを経営するほど手広い事業を展開しているわけではない。権利者同士で済むなら必要もないわけだ。


それにノードによる取引がディープセラ内部に限られても、取引されるものがそこに留まるわけではない。

真矢自身も、ときおり店舗の一角を借りて持ち込んだハンドメイド作品を売り出しているらしく、思っていた以上に現実と変わらない実態があった。


「真矢は入ってから結構長いのか?」

「ここ数年だから、光輝と比べれば長いけど新米だよ。私たちが生まれる以前から続いているみたいだしね」


十数年も続いているとなると年表や資料ができてもおかしくないと告げてみれば、資料どころか記念館まで存在するという。義務教育からほど遠いものに興味が湧く人がいるのか、入館料で採算が取れるのか疑問にもなる。


ノード資産さえ足りれば生活を完結できそうな実態まで教わり、真矢の案内が終わる。


「今日は助かった」

「じゃあ、はい。手間賃」

「え?」

「情報は重要なんだから、色々教えた分、見返りがあっていいでしょ」


そう告げて、真矢の視線が街の方に向かう。


「ほら、あそこの飲み物代くらい。良心価格よ」

「まあ、そうか」


視線の先を見れば、軽食と飲み物目当てに客が並ぶ、見慣れた光景がある。

差し出された端末に自身の端末をかざして、ノード取引が済んだことを確認して真矢と別れて、振り返ると静まり返っていたミセラの姿があった。



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