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自分だけが残った空間で、端末を操作する。
呼び出された相手は周囲を見回す。一度、自身の体を見下ろせば、確かめるように動かして、最後に視線を向ける。
「そっか、もう終わりなんだね」
この先に起こる現象と、それを命令した相手に警戒するのは当然だろう。今日まで一緒に過ごしてきたとしても、数歩の距離は見た目ほど近くない。
それでも、他でもない助けられた自分が伝えるしかない。
たとえ、我欲と惰性で過ごしてきた自分と、自身の未来を捨ててまで助けてくれた相手で、判断材料を探すまでもなく不釣り合いな関係だとしても。
「コウキの方から抱きしめてくれたの、初めてかも」
「嫌なら押し返してくれていい」
「ううん、嫌じゃない」
形だけの仕草で残った隙間を、回り込んだ両腕が背中を押して埋める。
「一緒にいたいのは嘘じゃない。それでも」
「分かってる。分かっているから」
距離が一歩遠のくのを許す。
依然としてこちらの元に留まる手と同じく、行為の一方性を否定するように、視線を合わせた相手に改めて抱きつかれる。
「私、頑張ったから、……だから、たくさん褒めて?」
適切な言葉を探せないまま、代わりに今までの動作で示せば、それを正しいと認めるように相槌の言葉が返った。
「私のこと好き?」
「ああ、好きだ」
「でも、私の方がもっと好きだから」
肩に乗せられた手に力が込められ、持ち上がった目線が揃う。
「私が嘘でも、私のこの好きは嘘じゃない」
不慣れな距離に視界を閉ざせば、頬にそえられた手が始まりと終わりを示す。
「だから、コウキには前を向いてほしいの。……どうか振り向かないで」
正面にあった体が離れて、風が横切る。
既に端末は操作を受け付けない。
画面の表記上にしか残されていない痕跡を握りしめて、来た道を戻る。
転移して最初にした場所まで近づた頃に、通路の隅に留まる存在を見つける。
「止めなくてよかったのか?」
「私もここの存在ではありますが、私の存在定義はまた別ですので」
空間の色調から外れており、静止しても隠しきれない相手と目が合う.
「始まりと終わりに区切られてようやく認識できる物事もある。人間の歴史とは、その積み重ねではございませんか?」
「最初から最後まで、味方なのか敵なのか分からないな」
「どちらでもないと自負しているのですが……。ともあれ、真実と認識の内にに狭間がありかぎり、私という存在は留まり続けますから」
お構いなくと言い切り、別れの言葉を告げられる。
「今回は、私の方からご案内できませんので。どうか、お気をつけてお帰りください」
存在しないものから帰ると表現できるかは分からないが、会話はそれきりになった。




