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一人に対して過剰な戦力だと疑問を感じる人間は、この場に既にいない。


作戦通りなら交戦開始から相手を包囲する形になる。それがなおも継続される時点で、以降の作戦内容も必要あってのものだと自身の経験から納得できる。


魔人ゆえに強力ではなく、その逆、強力ゆえに魔人に至った。

既存のシステムに全面的に頼るのではなく、単に試合に勝利するだけでは目減りする資産を着実に増やして、同時期の利権者とは別格の地位を築き上げた。


そして魔人に至ってから今日になるまで経験を積み重ねてきた相手は、セラフ単体の有利不利で決着を許してくれるほど優しい存在ではない。


「君は全てのセラフの脅威だが、セラフにとっての脅威は君だけじゃない」


事前に教わっていても、これまでの戦闘との違いを意識してしまう。


直接観測できないものの、能力の射程を前に、接近が叶わないままセラフが消費されていく光景があるはずだ。

操られる都合上で同士討ちが必然だとしても、戦場の優位を相手に譲らなければ付き合ってもらえない。主力を直接叩きにいかない代わりの対価を提示する必要があった。


大飯食らいと呼びたいところだが、ロゼからすれば不当な評価だろう。


味方を巻き込む範囲攻撃で、どうにかロゼ本体とセラフに被害を届かせる。それ以外では能力を使用した回数分の資産消費しかない。


戦闘部隊は刻々と入れ替わる。後方に引き下がったセラフは、別のセラフの能力で損傷の回復を早められて次の順番を待つ。陣形の厚みは十分に保たれているが、ノード消費は莫大だ。


セオドアは常に資産状況を確認して、周囲の伝令役に伝える


各方面の戦力が均等に消費されるわけではない。

それ以上に、能力の分散配置が重要で、操られるセラフを事前特定できない以上、被害拡大を防ぐ防御特化のセラフを状況に合わせて再配置しなければならない。


戦闘員は交戦に集中させ、遠方からの監視で情報を補う。

各部の指揮員と連携しながら中央管制を続けて、監視塔からは信号用の攻撃が入れ替わりに放たれる。


集団戦は特殊だ。


時間が過ぎるにつれて、戦闘エリアの外周に人が集まる。

自身のセラフが死亡しても、味方の戦力が残っているかぎり試合は終了しない。降参しなければ戦闘エリアから逃れることもできず、たとえ人間単体でも目標を見失わせる効果は期待できる。


あるいは、複数のセラフを保有していれば、別の選択肢もある。

敵も同様に。


「想定より長引いたが、ようやく使用に踏み切ったようだ」


セオドアの言葉の意味を考える必要もなく、既に答えは眼前の景色が告げていた。


交戦地帯をはるかに越えて、吹きあがったセラフの残骸が衝撃を物語る。

広範な攻撃、それもこちら側の陣営の一部を貫くような状況を引き起こしたものは、戦闘エリアの端まで到達したかに見えた。


続いた二発三発が、命中した監視塔を土台ごと引き裂いて倒壊させ、待機部隊を敷き潰す。凡百なセラフの能力とは一線を画するそれは、ロゼがこれまでに譲渡契約を交わして入手してきたものだろう。


大技のために使い捨てたのか、攻撃はそれきりだったが、現場も同じとは限らず、セオドアの命令で戦力が増強される。


「戦域が動く、持ちこたえてくれ」


戦力を温存していたのは、同じ。

自分とは別に、後方で待機させた面々には、現実進出に無関心で魔人と戦いたいために参戦・勧誘された者もいる。ディープセラの地域単位で独自に徒党を組み、この瞬間まで観戦してきた者たちが、合図でもって行動に移る。


「僕らも動こう」


その最中に、自分たちも戦場に近づく。


「魔人の体はセラフに近い。生身を持つ私とも違って、彼女には君のセラフの効果が適用される」


ロゼかセラフ、どちらかに当てさえすれば決着する。事前に能力の情報共有や試験は済ませているが改めて説明される。


次善の策も存在しており、あくまで手段の一つとして自分がいる。

ミセラは致命性能が高いわりに操られた場合の被害リスクが少ない。単独で運用できる点も先発に選ばれた理由にあった。


「周囲の犠牲は気にせず、近づくことだけを考えればいい」


個人戦を常識とするロゼが保有するセラフの、多様性が欠くことを前提とした作戦だ。

その認識は現状正しく、操り糸に繋がれたセラフには行動範囲に制限があり、その視覚的特徴から潜伏といった手段は取れない。


強みとなる少数の精密な連携も操り糸による操作あってのことで、性能全面に押し出せば数の暴力には勝てない。

一度に操れる数には上限があり、強力なセラフを召喚すれば同じ数だけ糸が占有される。戦闘自体が激化しようと倒すべき相手が明確になるのは不利にならない。


出し惜しみは論外だが、相手の戦力は使い切れば後がない。


未だ戦場から離れているが人間が接近するのは限界があり、距離を残して接近を終える。

所有者が死亡した時点でセラフも戦場から消失する。本陣の防御が最も厚いといっても絶対ではなく、ゆえに見送る。


「行ってくるね」

「ああ」


離れるのを認めるだけの言葉に何を意味付けたとしても構わない。

自分から遠ざかって、たどり着いた先で、立ち止まるとしても、その判断を認めると既に決心していた。


白ウサギを追って走り去る。

既に先行した部隊とは別の護衛に守られながら。隊形が割れたことで生じる道を直進していけば、遠目に見る自分から、その姿は戦場の景色に隠れる。


起こるとも限らない変化を探す、それだけが残された自分の役割だと。




突如として、戦場が静まり返るまで。




視界の先で突き立った巨剣が出現する瞬間まで。




隣にいたセオドアが、端的に状況だけを告げた。

本来、攻撃が命中すれば敵側から失われ、自分の端末上で更新されるはずの変化が起きていないことを、魔人側の資産変動がない事実を。


有るべきモノが無い。

表現の意味することを推測する必要もなく、答えは自分の眼前に現れた。


その存在を前にセオドアが告げた名に身体が震えた。


地に足を降ろした存在が、歩き寄って自分に抱きつく。

揺れる視界には、無数の剣が突き立つ光景があった。


「逢いたかった。兄さん」

「由葉?」


戦場に存在する全てのセラフがそれに置き換わったように。逃れようとした人々まで次にはなすすべなく。



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