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結局、指名入札による妨害を受けたのは一度きりだった。

資産増加に停滞を感じた後には役割も返上して、組織側の資産変動をながめるばかりになる。自身は最低限の消費に留めて、必要量に達するのを確認した日の内には、作戦の決行日も通達された。


立案された計画には、ディープセラの方針変更に必要なノード回収以外にも、騒動の首謀者の討伐が盛り込まれている。


ディープセラの仕様を以前のものに戻せたところで、再び同じ状況にならないとも限らない。

次の機会に戦力を集める余裕があるか分からない以上、一度で首謀者の拘束まで行う必要がある。


とはいえ、正規の手順で事を成した相手を追放する手段は現状ないため、工夫が講じられた。


ロゼ討伐という見解で一致したこちらと違い、相手の勢力は勢いこそ未だ保たれていても、それ以外の観点で団結しているわけではない。


あいまいな判断のもと、現実への進出という最低限の一致を示しただけなら、その背中をさらに押してやれば、どこかの段階で拒否感を抱くものが現れる。その圧力を抱え込んで一気に引き戻してやれば、大きく後退させることは難しくない。


これに並行する形で、集団戦の正式採用を押し通すことで、二つ目の目的も果たす。

二番煎じの手法だが、必ずしも総資産の過半を必要としないのも、これが理由だった。


個人戦で勝てないのは自分も経験したとおり、同じ魔人であるはずのセオドアすら例にもれず、成りたてでディープセラ内の権益が少なければ資産の時点でも負ける。たとえ単独で試合に勝ち得ても、数百年も活動する魔人の資産を一度で削りきることは不可能との断言もあった。

ロゼの討伐を実現するには、どのみち集団戦の仕様を借りることになる。


騒動が起こる前から準備していたというなら、以後の権利拡大といい抜け目がない指導者だ。


けれど、方針が一致している間は、頼みの綱としては望みうる最良でもある。

どこまでも聞き伝えで魔人同士が裏で結託している疑念は晴れないが、片方が存命で社会的地位も関わるとなると、よほどの事情がなければ、利用者を二分するような騒動を起こす必要はない。


終わりに着々と近づいている。


資産が残っていれば以後も活動できるとはいえ、ミセラとの関係の大きな区切りだ。

失敗した場合の処遇は色々考えられるが、自分の結論が決まっていても言い訳は何度も考え直した。


最初から普通ではなかった。


父親の捜索から生まれた関係で、試合の勝敗に直接的な関心はない。あえて言うなら今回の計画が終われば、一般的なセラフの関係に戻るのだが、これまでの経緯がそれを認めてくれるとは限らない。


決行日の通達の前後には、何もせずに過ごす日々があった。


同じ空間を共有しているとはいえ、必ず一緒にいるわけではない。屋敷の部屋数には余裕もあり、用途を改めて調べるような年代品であっても娯楽品は備え付けられていた。

ただ、決まった時間には向かい合った席で食事を取り、自分が眠る間も活動を許した。


決行時刻に待ち構えていると、端末に参加確認の通知が届く。

こちらの呼びかけにミセラが答えたのを合図に申請を行った。


白煙の火山を望む荒野。

地盤の境界地域にあり、複数の火山を近郊に有する島の遠望は、転送先が現実という事実さえなければ喜べるものだっただろう。

土壌の性質から特産となった耕作類の気配は、景色や香りから感じ取れないが、乾いた潮風は、訪れたことのない土地の実感を与えてくれる。


「かつて賢人が理想の国家を築き上げようとした場所。思索の果てに正しい世界を見出そうとした人生の経由地のひとつだ」


こちらの緊張を解く話題として、場所選びの趣向に自賛を後付けする。


「まだ通知して間もない。準備して待ってくれていたなら嬉しいことだ。……直接会うのは集会以来だろうか、コウキ青年?」


呼び声に振り向けば、かつて見た男の姿がある。

この計画の主導者であり、現在のディープセラを管理する人間のひとり。セオドアへと挨拶を返せば、同じように参加を決定して転送された人間が続々と姿を現わす光景を見回す。


そばに留まる白兎が地面の草を食む。

ミセラと一緒にいて分かっていた光景だが、現実となると違和感が残る。


「向こうも、こちらの準備を待ってくれている。おたがい、万全の体勢で動きたいからね」

「そんなことあるんですか?」

「まあ、指名するのは相手にも事前に伝えていたよ」


少数と多数、どちらも不測の事態は望まない。

合意ありきの作戦だが自分を縛ると同時に相手の行動も縛れる。大勢で連携する上で事前準備が欠かせないこちらが優位に思えるが絶対ではない。


万全を期したとしても勝利が確実に得られる作戦とは、どこまでも明言されなかった。


自分の配置は最後尾だ。それまでに大勢が集まる以上、対戦相手の姿を直接見ることはできず、位置を知る手がかりはセオドアの視線以外にない。


「……慌てるのは本当に最後の一瞬だけ、それが紳士というものさ」


厳密には既に試合が始まっているが、ちょっとした映画を見終わる制限時間が設定されていることもあり、一時の離席を告げて離れていく歩みに焦りはなかった。


募集時間の終わり際には、それぞれも持ち場に着く。地形を壊して作り上げた監視台にも防御の役回りの姿を見つかり、その瞬間に備えていた。


「開始の合図は、挑戦者の義務だ」


個人戦では攻撃として扱われた能力が合図の手段に用いられる。上空に打ち上った発光体が弾けた直後には、予備隊をのぞいて横陣が前進した。



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