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譲渡の対価について断わったことで保留になるまで良かった。
本題を終えてすぐに追い出されず、数日の間で予定が合う時点で予感はしていたが、
多忙に見えない相手から聞きたくない答えが知らされることになる。
「今、現実で起きている騒動について、話をお聞きしたいのですが」
「現実側での戦闘エリアの展開であれば、私の方でも確認できています」
ディープセラを運営する相手なら解決できるという願望に、前置きのように首が振られる。
「これが承認されたのは必要割合の要望によるものです。仮に運営側が拒めば利用者の拒絶となる。いずれ結果により意見が改められるとしても、その過程を我々が奪うことはできません」
「つまり正常な状態ということでしょか?」
「あくまで運用側の視点ですが、そうお考えていただいて結構です」
「変える方法もないと?」
「残念ながら現状では」
断言されてしまえば説得も叶わない。
元々、期待は薄かった。相手が現実の事件を知らないとは思えず、現状が放置されていた時点で答えは予想できた。
それでも解決策を提示するかのように補足が加わる。
「しかしながら……、決定権の基準は人数単位ではありません。利用者が保有するノード資産の総量、その比率に応じて分配されており、利用者間での流動が可能なものです」
「他人からノード資産を奪えば、相対的に自分の決定権が強まるのですか?」
「ええ、そのような仕様です。厳密には、魔人の保有資産もその定義にあてはまるのですが、制度の担保に利用されているため、決定権の比率には関与していません」
他者との交渉や同意なしに叶えられる手段があると。
今回の決定に賛同する相手からノード資産を奪い取れば、効率的に反対勢力を強められる。
大抵の試合はセラフの回復が間に合わないことでの決着になるが、ミセラの力を使えば話は別、特に新規参入者に限れば、最低でも初期資産の半分を相手セラフから失わせることが可能で効果は高い。
多少の指名料が渡るとはいえ指名入札の最低金額は少ない。
「……お役に立ちましたか?」
「はい、とても。別の話題に、付き合わせてしまってすみません」
「いえ、他の話題も構わないと、以前にお伝えしましたので」
助言を受けた後は、前回に同じく再会を約束する定型句を交わして、その場を去る。
日を追うごとに現実側での認知は高まる。
現地の警察機構との衝突まで報道される頃には、ディープセラ内でも事件の収集以上の活動が始まっていた。
現実への進出に反対する勢力が自発的に事件の抑止に務める。事件を引き起こした相手を指名しノード資産を奪う。そのために情報共有が行われ、中には直接現場に出向いて鎮圧する事例まで混ざる。
あくまでも集団戦や現実でのセラフの出現は、試験的な実装であり、義務である試合と無関係で、前回からの猶予期間が過ぎれば、当然、新たな試合が組まれる。
現時点でも、ノード資産の枯渇でそれなりの人数の参加資格を失わせることに成功しているらしい。
自分に関しても、ミセラの能力は知り合いには周知のもので、協力を告げれば限りある時間で積極的に相手の情報が届けられた。
少なくとも相手側に組織的な活動は確認できず、想定通りに新規参入者が多い。開始直後からミセラを強襲させれば大抵の試合で勝利できる。
そんな経緯から最近は試合結果の賭けも成立すらしなくなった。
はたして現状が父親の危惧したものかは不明だが、実態として危険視されるに相応しい状況を生み出している。
「試合、見たよ。強いんだね」
「まあな」
「嫌味で言ったんだけど?」
以前より依存しているという指摘は正しい。
個人で現状を改善するにはディープセラの機能を借りるしかない。多くのノード資産を確保して、仲間と合わせた決定権で現行の仕様を修正させるには必要なものだ。
銃器を持ち込んで解決できるなら、他国を含め軍隊に任せられるのかもしれないが強制的に追放されて未然に防がれる。ディープセラでは実効力が先にあり、制度自体は告知の手段でしかない。
現実側で、それが行われるなら自分は静観できたはずだ。
「この食堂にいる何人かも、すでに名簿に載っている」
「だったら何? 光輝が関わる必要ない」
ディープセラとて利用者の存在は欠かせず、現実の人間を減らす利点はない。状況が落ち着くまで待つだけで問題は解決される。一般人は結果に適応するだけでいい。
拒む理由も社会の変化を嫌う以上にないのかもしれない。
セラフが現実で活動できる原理は知らない。けれど現実に物理的に作用している。理屈を知らないのは道具全般も変わらず、社会的な観点で問題があるとしても自分では思いつかない。
父親探しに利用しただけ。無関係なまま現在になっていたらディープセラに参加すらせず他人事として見逃していただろう。
大した学識も育たないまま、マシな稼ぎで病や老いで死ぬまで生きるには無関係だ。
今ですら端末を手に取らなければ外の状況と関わらずにいられる。
真矢と話す間に、端末から通知が届く。
それは時間を置いて読み進められる情報と違い、人間同士が連携するために必要な知らせだ。
予定の日時には事前に配られた招待状を使って、専用の空間に移動する。
先に訪れた者たちで雑談が行われており、当然、同じ活動を行う知人とも顔を合わせることになる。
世界規模で活動するため一元的ではなく、地域の割り当てや階層構造が生まれる。情報共有の効率もあれば、現地の制度次第で変わる対処にそうせざるを得ない。
仲介人を介して連携してきた自分のような末端を呼び集める、改めた場を設けるなら意図は単純、それを主導する相手は予期しない人物だったが。
「まずは、集まってくれたことに感謝したい」
場慣れしているのは間違いない。この場にいる大半が顔を知っているだけに意外でもある。本来関わるはずのない運営側の人間が主導しているとは誰も考えない。
こちらに限れば存命であるため、そういった行動が可能であるとしても。
組織の活動理念や手順の再確認。
対処に出遅れて未だ反対勢力が過半を占める現状。ノード資産の確保進捗が図と共に説明される間には、大きな要因である新規参入者の影響が読み取れる。それを加味すれば意図はどうあれ行動事態は悪質になる。
「いま一度、告げさせてもらうが、我々に民意はない。意見の異なる相手の参加資格や決定権を奪う行為は力による現状変更であり、今回においても正当性は弱い」
ディープセラへの参加資格は一度失われれば、取り戻す手段はない。それが保守的な理由から行われたなら結果的に既得権の保護になる。どの国にも属さない独自の体制を持つとしても、一般理念とは合わない。
「けれど現実への影響拡大は、別問題だ。全人類が任意で参加できるようになったとはいえ、全員が参加しているわけではない。大多数である不参加の人間にまで混乱を及ぼしている状態は、決して静観すべきではない」
そう告げた男が間を置く。
これまでの説明の理解と同時に、次の発言を強調するように。
「そして、本件の首謀者は、活動中の魔人二体のうちの私のもう片方、ロゼであることが判明している。彼女自身は決定権を持たないが、任意の参加という規則を利用して、限られた民意を誘導する形で、仕様変更を行わせた」
その意図に相応しく、自分にとって聞き流せない内容であった。
「我々の最終目標は、ロゼの討伐だ」




