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――――ディープセラは現実への影響を強めている。


あの日、車両内で父が語ったことだ。


たとえば祭典においても、平時の区分を超えて世界各地に訪問できるのも、初期にはなかった機能で、一般利用者の認知に合わせて機能を拡大したと推測されている。

早い話、国際交流が実現する以前からディープセラは存在していた。当時の証拠となると日記程度のものかもしれないが、他国に関する記述が現実と同時かそれ以降だったのだろう。


見たところ問題がなさそうに思えるが、これらの活動には国が関与していない。


独自通貨を介した個人資産の移動も大きな問題で、ディープセラ内で利用者全員を覚えて税を課すのも無理な話なら、行政区画との不一致で、密輸が行われても特定できない。ディープセラ側にも規則はあるものの、利用者が人類の一部に限られる以上、各国の法制度とは明確に異なる。


規模の拡大やその方針は、勧誘時に案内人からも説明を受けたものだが、それ以上に問題なのは運用の不透明だ。


単純な人口推移によるものではなく、補佐として魔人という存在が運用に関与しており、現役で生きている魔人が交渉の窓口になるとしても、活動が世界規模ともなれば、国際的な拘束や相互監視が利かない組織は好ましくない。

運用次第で多数の人命が失われる危険もあれば、各国家の利益と合致しない場合に、国際情勢にも影響を与えかねない。


利用者の一人として、自分はこれらの影響を感じたことはない。

あるいは、これからも。


ディープセラの利用も最小限の義務をこなすだけだ。祭典期間中のあれこれで賠償と一緒に貸し与えられたプライベート空間で過ごす。


自分の方針は変わらない。

父との再会、ディープセラに参加することになった当初の目的は果たした。


残されたノード資産は、セラフの存在理由である試合で消費していけばいい。惰性に近いが、故意に枯渇させる必要性もなければ、現実の自宅より快適に過ごせる環境を、積極的に手放す理由もなかった。


プライベート空間の屋敷の居間にいても、勉学に時間を費やすため、ミセラは放映をながめるなり暇を潰す必要がある。それでも試合の間だけディープセラを訪れるより待遇は良いはず。


ミセラのためという用途に偽りはなく、外食の機会も増やした。プライベート空間があることで現実側の料理を持ち込みに苦労も少なければ、娯楽の印象から提供される料理が偏重するここでは、自炊料理の評価も悪くない。


休憩や空き時間には、通常エリアに出回ることも以前より多くなり、その最中では、祭典から一ヶ月を経ち、歩いていれば今回追加された機能を目撃にすることになる。


「見て! 向こう側、ひときわ大きいよ」

「行ってみるか」


祭典の最後に告知されたとおり、通常エリア内での限定的な試合が可能となり、ここの利用者にも日常の光景になりつつある。


集団戦が実現されたことは、利用者の反響も大きいらしい。


セラフの能力に大きく依存していた既存の形式と比べて、戦略に幅が生まれた。

画面を見るだけだった以前より地続きの臨場感もあり、発表直後から変わって、事前に場所や時刻を指定する仕様が追加されたため、現場での観客数も増えた。


とはいえ、正式な実装後には戦闘エリアへの参加にノードが要求されるため、積極的に戦闘するメリットは少ない。現段階では有志に任せてるように、仕様更新は端末を通じて公表されているが、継続可能な試合方式を探っているのが現状だろう。

賭けのシステムが未対応で、胴元による人力作業が続いている現状もいずれは解消されるはずだ。


ともかく、義務の個人試合の方は、賭けが衰退していく方向になりそうだ。

その点でも、良いタイミングで自分は目的を果たしたと言えた。


「四方さん、調子はいかがですか?」


全球状に展開される戦闘エリアは、大抵で地中に半分が隠れる。その最大径となる地上に目を向ければ集まりを見つける。手振りをした相手のもとに向かえば、ミセラも挨拶を告げて観戦に混ざる。


視界の先では、これまで景色でしかなかった建物の崩れた姿があり、以前は歩きだと時間切れでも届かなかった、戦闘エリアの境界が建物の破壊跡の一部から見て取れる。


遠距離で戦うセラフは、少人数の集団戦では不利を強いられるだろう。


「人数差は厳しそうですね」

「どうやっても初期地点を推測できてしまうからな。戦闘エリアを半分に分けて、出現地点を自由に選べるくらいじゃないと、試合が成り立たない」


ディープセラの滞在歴は比べるまでもない。検証を主導する姿は古参そのもので、この地区でない人とも情報交流しているらしい。聞けば、他の地区の中には形だけでも水上や空中戦が実現したところもあり、今回の機能による戦闘形態の独自化によって、観戦所の役割が変更される可能性があるとか。


通りがかりに連絡先を交わして以降、頭数を集める場面で協力する関係になった。

久しく行われなかった魔人との対戦を、短時間であったにも関わらず観戦所越しに目撃したらしく、その認知から声をかけられることになり、当時には慰め半分の感想も聞いた。


「即興の連携なんて知れているからな。少数同士で組む方式になるだろう」


仕様の大枠は変わらないまでも、こうした利用者側の意見が反映された例は珍しくないらしい。正確な情報を集めるための繰り返しの検証に運営からの返礼もなければ、見返りも少ない活動に疑問を投げかけた時には、利益以外の目的を語っていた。


「こういうのは自ら決めた方が納得できる」


能力についても把握されているが、検証中にミセラの能力使用を強要されたことはない。

この場の観戦者の一部には、自分と似たように集団戦の検証に向かないセラフを所有する人もいて、協力の意思さえ示せば情報共有は断られなかった。


おかげか、変わった人間も集まり、ミセラの能力を直接経験したいと言われた時には、使用時のノード消費を交渉で、剣以上の効果がない人体への直接攻撃まで求められた。


刺す部位を変えたり、能力で生成した分身に当てたり、負担を減らすためとはいえ、複数並ばせたセラフに次々と剣を刺していく光景は異様だった。


観戦を続けていればいずれ解決したことに律儀と興味半分を感じつつ、同意さえあれば即座に試合を行える仕様がそのまま採用されれば、競売で対戦相手を指名する機能を含めて、既存からの変更は大きなものになるという予感はあった。


父親が告げた懸念は、短期的な視点ではない。


集団戦の追加も、利用者視点では不定期に行われてきた祭典を盛り上げる余興や余韻でしかなく、盛況になることを否定する個人が多数を占めるとも思えない。


試合を続けるためにノードを他者から買う。その対価となるのはディープセラ内の何かではなく、現実の物資で、その交渉が活発になるほど現実への影響が増す。個人では公平な取引が成立しても、外側から見ても同じとは限らない。


利用者に望まれるまま規模を拡大していくのを前もって自覚したところで、自分だけ歩みに逆らえるだろうか。



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