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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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5 地主の馬車

 翌朝。


 まだ霧が畑に残っている時間だった。


 マカロン家の小屋は、昨夜からほとんど誰も眠れていなかった。


 マリアは一睡もしていない。

 ロイは夜中に何度も泣いて起きた。

 そしてレイは――。


「のだぁ……」


 藁の寝床の中で丸まったまま、ずっと考えていた。


 前世の経験が警鐘を鳴らしている。


 “貴族に目をつけられる”。


 それは非常に危険だ。


 しかも今回は、自分の方から派手に土を吹き飛ばしてしまった。


「完全にやらかしたのだぁ……」


 五歳児らしからぬ顔で呟く。


 前世のレイなら、もっと上手く誤魔化した。


 酔っ払いのせいにする。

 使用人へ罪をなすりつける。

 目撃者を買収する。


 だが今回は怒りで完全にミスをした。


「感情で動くと碌なことにならないのだぁ……」


 妙に実感がこもっていた。


 その時。


 遠くから音が聞こえた。


 馬。


 しかも複数。


「…………」


 小屋の空気が止まる。


 マリアの顔色が変わった。


 レイも起き上がる。


「のだぁ」


 外を見る。


 霧の向こうから馬車が来ていた。


 昨日の管理人ビリヤニのものとは違う。


 もっと立派だ。


 深緑の塗装。

 金属装飾。

 大きな馬。


 村人たちが遠巻きに道を開けている。


「あれ地主様の馬車だ……」

「本当に来たのか……」

「終わったなマカロン家……」


 囁き声。


 農奴たちは顔を伏せる。


 地主は絶対的存在だ。


 逆らうという発想自体がほぼない。


「のだぁ……」


 レイは即座に理解した。


 本命が来た。


 当然である。


 魔法は貴族の象徴だ。


 この国では、王侯貴族か高位神官くらいしか本格的な魔力を扱えない。


 農奴の子供が魔法を使った。


 そんな話、地主が自分で確認しに来るに決まっている。


「最悪なのだぁ……」


 馬車が止まった。


 使用人たちが素早く動く。


 扉が開く。


 そして、一人の男が降りてきた。


 長い毛皮の外套。

 革手袋。

 整えられた髭。


 年齢は四十代半ばほど。


 痩せ型で、妙に目が鋭い。


 地主――シャヒ・コルマである。


 村人たちは一斉に頭を下げた。


 誰も目を合わせない。


 レイも条件反射で飛び出した。


「のだぁああ!!」


 べしゃっ。


 即土下座。


 前世の記憶が全力で警告していた。


 貴族に対して妙な態度を取るな。


 それだけで死ぬことがある。


「善良で可愛い農奴ですのだぁああ!!」


 村人たちがぎょっとした。


 マリアも青ざめる。


「レイ!!」


 しかしレイは必死だった。


 前世で学んだのである。


 権力者にはまず媚びろ。


 特に格上には。


「吾輩、ただの魚好きの子供なのだぁ!!」


 地面に額を擦りつける。


 土だらけ。


 だがレイは本気だった。


 シャヒ・コルマはしばらく黙ってそれを見ていた。


「…………」


 妙な子供だった。


 普通、農奴の子供は地主の前では怯えて固まる。


 ここまで勢いよく土下座するのは逆に珍しい。


「顔を上げろ」


 低い声。


「のだぁ……」


 レイは恐る恐る顔を上げた。


 地主と目が合う。


 冷たい目だった。


 だが昨日のビリヤニのような下品さはない。


 もっと厄介な種類の人間。


 損得で動く目だった。


「お前が魔力を使ったのか?」


「のだぁ……」


 レイは固まる。


 否定するか?

 誤魔化すか?


 だが無理だ。


 現場は見られている。


「……ちょっとだけなのだぁ」


「ちょっと、か」


 地主は周囲の地面を見る。


 昨日の痕跡がまだ残っている。


 不自然に盛り上がった土。

 裂けた地面。


「土属性だな」


 静かな声だった。


 すると後ろにいた老人が前へ出た。


 黒い神官服。

 銀の杖。


 地主家に仕える神官である。


 農奴たちはさらに怯えた。


 神官は貴族出身が多い。

 農奴からすれば別世界の存在だ。


 老人はレイを見下ろした。


「近くへ来い」


「のだぁ……」


 レイは渋々近づく。


 すると神官は杖を向けた。


 空気が少し震える。


 魔力の探知だった。


「…………」


 数秒後。


 老人の眉がぴくりと動いた。


「本当に魔力持ちです」


 村がざわつく。


「馬鹿な……」

「農奴だぞ……」

「ありえない……」


 地主も目を細めた。


「間違いないか?」


「ええ。しかも弱くありません」


 その言葉で空気が変わった。


 弱い魔力ならまだ理解できる。


 突然変異。

 希少例。


 だが“弱くない”。


 それは問題だった。


 地主はレイをじっと見た。


 金髪。

 青灰色の目。

 痩せた顔。


 だが顔立ちは完全に農奴だった。


 特に父親にそっくりである。


 地主も父親の顔は知っている。


 徴兵前に何度も見ていた。


「……本当にマカロン家の子か?」


 マリアが震えながら答えた。


「は、はい……」


「父親は?」


「去年徴兵されました……」


「浮気は?」


「していません!」


 マリアは泣きそうだった。


 地主は黙る。


 神官もレイを見ていた。


「…………」


 普通なら、まず疑う。


 貴族の隠し子。

 愛人の子。

 何らかの血統。


 しかしレイは父親にそっくりだった。


 少なくとも外見上は。


「のだぁ……」


 レイは嫌な汗をかいていた。


 前世の感覚が叫んでいる。


 この空気は危険だ。


 非常に危険。


「…………面白い」


 地主がぽつりと言った。


 その瞬間。


 レイの背筋が凍った。


 前世で何度も聞いた声だった。


 権力者が珍しい玩具を見つけた時の声。


「のだぁ……?」


 地主は少し笑った。


「農奴から魔力持ちか」


 周囲の村人たちは青ざめている。


 これは吉兆か。

 それとも災厄か。


 誰にも分からない。


 ただ一つだけ確かなのは。


 今日この瞬間から。


 マカロン家は、もう“ただの農奴一家”ではいられなくなったということだった。

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