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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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42 レイの出発

 春。


 空は薄く晴れていた。


 雪は完全に消え、畑には柔らかい土が戻っている。


 そして。


 その日が来た。


「…………」


 村の入口には、馬車が止まっていた。


 神殿の紋章。


 立派な馬。


 護衛の騎士。


 農奴の村には明らかに浮いている。


「…………」


 村人たちは遠巻きに見ていた。


 静かに。


 皆、分かっている。


 今日。


 レイが村を出る。


「…………」


 現在十二歳。


 土魔法を持つ農奴の子供。


 そして。


 魔法学園へ行く子供。


「…………」


 小屋の前では、マリアが荷物を確認していた。


 着替え。

 干し肉。

 黒パン。

 縫い直した服。


 農奴の家としては、かなり頑張った荷造りだった。


「…………」


 ドーサは無言だった。


 腕を組み、ただ立っている。


 しかし表情は硬い。


 戦場へ行く時とも違う顔だった。


「…………」


 ロイは。


 もうずっと泣いていた。


「うぇええええん!!」


 十歳になった今でも。


 今日は全然駄目だった。


「にいちゃん行かないでぇええ!!」


 ぼろぼろ泣く。


「うぇえええん!!」


「のだぁ……」


 レイは困っていた。


 現在十二歳。


 かなり背が伸びた。


 昔よりずっと大人っぽい。


 でも。


 今の顔は完全に困っている兄だった。


「ロイぃ……」


「やだぁあああ!!」


 ぎゅううううっ!!


 ロイが抱きつく。


「帰ってくるのだぁ!」


「ほんとぉ!?」


「うむ!!」


 レイはかなり真剣だった。


「絶対帰るのだぁ!!」


 それは本心だった。


「畑あるし」


「そこなの!?」


 ロイが泣きながら突っ込む。


 レイは真顔だった。


「大事なのだぁ」


 完全に農奴。


「…………」


 しかし。


 レイも、本当はかなり不安だった。


 学園。


 貴族。

 神官。

 知らない場所。


 しかも。


 自分が農奴なのも理解している。


「…………」


 絶対浮く。


 それくらいは分かる。


「のだぁ……」


 でも。


 家族の前では、あまり顔に出したくなかった。


「…………」


 レイはまず、ドーサへ向かった。


「パパ」


「…………」


 ドーサは息子を見る。


 もうかなり大きい。


 でも。


 まだ十二歳だ。


「…………」


 レイは少し緊張した顔で言った。


「畑よろしくなのだぁ」


「お前なぁ……」


 ドーサが思わず苦笑した。


「最初にそれか」


「大事なのだぁ」


 真顔。


 すると。


 ドーサはゆっくりレイを抱きしめた。


 ぎゅっ。


「…………」


 戦場で死にかけた男の腕。


 大きくて硬い。


「……無理するな」


「のだっ♡」


「嫌なことあったら帰ってこい」


「うむ♡」


「農奴だからって下向くな」


「…………」


 レイの目が少し揺れた。


 ドーサは続ける。


「お前は俺の息子だ」


「…………」


 レイが少しだけ泣きそうになる。


「のだぁ……」


 でも。


 なんとか耐えた。


「うむ……」


 次に。


 マリア。


「…………」


 マリアは、笑おうとしていた。


 でも少し失敗していた。


「ちゃんと食べるんだよ」


「うむ♡」


「変なことするんじゃないよ」


「のだぁ?」


 レイが目を逸らす。


「絶対する顔じゃないかい」


「そんなぁ!?」


 しかし。


 次の瞬間。


 マリアが強く抱きしめた。


「…………」


 レイが少し固まる。


「……絶対、生きて帰ってくるんだよ」


「…………」


 その声が少し震えていた。


「のだぁ……」


 レイは小さく頷く。


「帰るのだぁ」


 今度は。


 少し静かな声で。


「…………」


 最後。


 ロイ。


「うぇええええん!!」


 まだ泣いている。


「にいちゃんの馬鹿ぁああ!!」


「なんでなのだぁ!?」


「行くからぁああ!!」


 理不尽だった。


 しかしレイも少し泣きそうだった。


「ロイぃ……」


 ぎゅううううっ。


 二人が抱き合う。


「帰ってくるのだぁ」


「絶対!?」


「うむ!!」


「約束!?」


「約束なのだぁ!!」


 ロイは泣きながら何度も頷いた。


「マフラー使ってねぇ……!」


「もちろん♡」


「服もぉ……!」


「使うのだぁ♡」


「詩も書いてねぇ……!」


「うむ♡」


 そこは理解しているらしい。


「…………」


 しばらくして。


 神官が静かに言った。


「時間です」


「…………」


 空気が止まる。


「…………」


 レイは深く息を吐いた。


「のだぁ……」


 それから。


 ぐるっと村を見た。


 畑。

 川。

 小屋。

 泥道。


 全部、見慣れた景色。


「…………」


 レイは馬車へ向かう。


 一歩ずつ。


 ロイがまた泣く。


「にいちゃぁあああん!!」


「のだぁあああ!!」


 レイも叫び返した。


 しかし。


 最後にはちゃんと馬車へ乗り込んだ。


「…………」


 扉が閉まる。


 ごとっ。


「…………」


 小さな窓から、レイが顔を出した。


「のだぁ!!」


 無理やり笑う。


「行ってくるのだぁ!!」


 ロイが泣きながら手を振る。


 マリアも。

 ドーサも。


 村人たちも。


「…………」


 馬車が動き出す。


 ぎしっ。

 ぎしっ。


 ゆっくり。


「のだぁ……」


 レイは窓からずっと村を見ていた。


 畑が遠くなる。


 川が遠くなる。


 家が小さくなる。


「…………」


 胸が苦しかった。


 怖い。


 本当はかなり。


 でも。


「のだっ♡」


 レイはぎゅっと荷物を抱えた。


 中には。


 ロイのマフラー。

 マリアの服。

 家族の匂い。


「…………」


 そして小さく呟く。


「絶対帰るのだぁ」


 その声だけは。


 十二歳の少年とは思えないほど、真剣だった。

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