表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/42

39 父親

 冬。


 空は灰色だった。


 雪が静かに降っている。


 畑は完全に白く埋まり、村はまた長い冬へ閉じ込められていた。


「…………」


 戦争終結の知らせから、数ヶ月。


 最初は村中が浮き足立っていた。


 だが。


 現実はゆっくりだった。


 帰ってくる者。

 帰らない者。

 消息不明のままの者。


 色々いる。


「…………」


 最初の頃は、馬の音がするたびに皆外へ飛び出していた。


 でも。


 数ヶ月も経つと。


 期待は少しずつ静かになっていく。


「…………」


 マリアも、最近はあまり口にしなくなっていた。


 レイの前では特に。


 希望を持ちすぎるのが怖いからだ。


「…………」


 そして。


 レイもまた、以前ほど騒がなくなっていた。


 現在九歳。


 以前よりさらに背が伸びている。


 魔力も強い。


 畑仕事も完全に大人並み。


 でも。


 時々だけ。


 ふっと静かになる。


「…………」


 今日もそうだった。


 夕方。


 レイは小屋の外で雪を見ていた。


 珍しく静かに。


「……パパぁ……」


 小さな声。


「のだぁ……」


 その横では、七歳になったロイも毛布へくるまっていた。


「…………」


 二人とも。


 待っていた。


 ずっと。


 でも。


 少しずつ、不安も増えていた。


「…………」


 その時だった。


 遠くから。


 ぎし、ぎし。


 雪を踏む音がした。


「…………」


 レイが顔を上げる。


 ロイも見る。


 雪の向こう。


 人影。


 大きい。

 痩せている。

 ぼろぼろの外套。


「…………」


 レイが固まる。


「…………」


 人影はゆっくり歩いてきた。


 足取りは重い。


 でも。


 止まらない。


「…………」


 マリアが小屋から出てきた。


 そして。


 止まる。


「…………」


 誰も喋らない。


 風の音だけ。


「…………」


 男が、ゆっくり顔を上げた。


 痩せていた。


 本当に。


 頬がこけ。

 髭も伸び。

 服もぼろぼろ。


 でも。


 目だけは。


 確かに同じだった。


「…………」


 マリアの手から桶が落ちた。


 がこん。


「…………」


 男の唇が震える。


「……マリア」


「…………」


 次の瞬間。


 マリアが走った。


「っ!!」


 雪を蹴る。


 そして。


 ぎゅううううっ!!


 男へ抱きついた。


「…………」


 男も、震える腕で抱き返す。


 しばらく。


 本当にしばらく。


 誰も喋らなかった。


「…………」


 レイは固まっていた。


 本当に。


 動けなかった。


「…………」


 父親。


 帰ってきた。


 本当に。


「…………」


 すると。


 男が、ゆっくりレイを見る。


「…………」


 少し目を見開く。


 最後に見た時より、かなり大きくなっていた。


 しかも。


 妙に泥だらけ。


「……レイ?」


「…………」


 レイの顔がぐしゃっとなる。


「パパぁあああああああああ!!!!」


 絶叫。


 次の瞬間。


 全力疾走。


 雪を蹴って飛び込む。


「のだぁあああああ!!!!」


 どーん!!


 父親へ突撃。


「ぐっ!?」


 痩せた父親がよろける。


「パパなのだぁあああああ!!」


 レイはもう大泣きだった。


 ぼろぼろ。

 本当に。


「うぇえええええん!!」


 九歳なのに。


 今だけは完全に子供だった。


「帰ってきたのだぁあああ!!」


「……ああ」


 父親の声も震えていた。


「帰ってきた……」


 ロイも泣きながら抱きつく。


「パパぁ……!」


「ロイも……大きくなったな……」


 男の腕が震える。


 痩せていた。


 本当に。


 骨ばっている。


 戦争が長かったことが分かる。


「…………」


 でも。


 大きな怪我はなかった。


 手もある。

 脚もある。


 生きて帰ってきた。


「…………」


 マリアは泣いていた。


 静かに。


 何度も何度も、夫の顔を触る。


 本当にいるか確認するみたいに。


「…………」


 父親も、しばらく言葉が出なかった。


 家族を見て。


 小屋を見て。


 畑を見て。


「…………」


 そして。


 視線が止まる。


 村外れの巨大な水路。


 広がった畑。


 薪置き場。


「…………」


「……なんだこれ」


 父親がぽつりと言った。


「のだぁ!!」


 レイが即反応する。


 涙だらけのまま。


「吾輩がやったのだぁ!!」


「…………」


 父親が固まる。


「水路もなのだぁ!!」

「ゴーレムもなのだぁ!!」

「畑も増やしたのだぁ!!」


 レイは泣きながら必死に説明する。


「吾輩、超働いたのだぁ!!」


「…………」


 父親は、しばらく何も言えなかった。


 最後に見た時。


 レイはまだ小さかった。


 泥遊びして。

 魚追いかけて。


 そんな子供だった。


 なのに。


「…………」


 今は。


 家を支えていた。


「…………」


 父親はゆっくりレイの頭を撫でた。


 ごつごつした、大きな手で。


「……頑張ったな」


「のだぁあああああ!!!!」


 その瞬間。


 レイがまた泣き始めた。


 嬉しくて。

 安心して。


 今まで我慢していたものが全部出たみたいに。


「うぇえええええん!!」


 雪の降る村で。


 小さな家族は、しばらく抱き合ったままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ