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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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37 レイの疑問

 深夜。


 小屋の中は静かだった。


 薪の火も小さくなり、赤い光だけが残っている。


 外では風が鳴っていた。


 冬の終わりの冷たい風。


「…………」


 ロイはもう寝ていた。


 新しい服の布切れを抱えたまま。


 かなり嬉しかったらしい。


「すぅ……すぅ……」


 小さな寝息が聞こえる。


「…………」


 一方。


 レイはまだ起きていた。


 現在八歳。


 最近はかなり働いている。


 畑。

 薪。

 水路。

 村人の手伝い。


 魔法まで使うので、体への負担も大きい。


「のだぁ……」


 そして今。


 レイはマリアへ抱きついていた。


 ぴったり。


 完全に甘えている。


「…………」


 マリアは少し笑った。


 最近のレイは、外では妙にしっかりしている。


 働いて。

 接待して。

 村人へ気を回す。


 でも。


 夜になると時々こうなる。


 年相応に甘えるのだ。


「のだぁ〜……」


 レイは毛布の中でもぞもぞしていた。


 それから。


 急に真顔になる。


「ママぁ?」


「んー?」


「なんでなのだぁ?」


「何が?」


 すると。


 レイは本気で不思議そうに言った。


「なんで魔法が発現する前より、今の方が忙しいのだぁ?」


「…………」


 マリアが少し吹き出しそうになる。


「おかしいのだぁ?」


 レイはかなり真剣だった。


「めちゃくちゃ楽になってるはずなのだぁ」


 それは本当にそうだった。


 土魔法のおかげで、作業効率は昔より遥かに良い。


 石拾いも早い。

 耕しも速い。

 水運びも減った。


 なのに。


「なんで仕事増えてるのだぁ?」


 レイは完全に納得していなかった。


「吾輩、毎日忙しいのだぁ……」


 かなり本気で困っている。


「…………」


 マリアは少し考えた。


 そして。


「レイが働きすぎるからだよ」


「のだぁ!?」


 レイがびっくりする。


「違うのだぁ!」


「違わないよ」


「魔法が便利すぎるのだぁ!」


「だからって全部やる必要ないんだ」


「のだぁ……」


 レイはむむっとした。


 しかし。


 少し考え込む。


「…………」


 確かに。


 最近のレイは、自分で仕事を増やしている。


 畑を広げる。

 水路を増やす。

 村人を手伝う。


 しかも。


 魔法でできるから、

“じゃあもっとやろう”

 になる。


「…………」


 レイは真顔になった。


「吾輩、便利になったせいで仕事増やしてるのだぁ?」


「そうだねぇ」


「のだぁぁぁ!?」


 かなりショックだった。


「そんなぁああ!!」


 マリアが笑う。


「普通そういうもんだよ」


「詐欺なのだぁ!!」


 レイは毛布の中でぷんすかした。


「便利になったら寝れると思ったのだぁ!!」


「でも前より食べれてるだろ?」


「のだっ♡」


 即復活。


「黒パン増えたのだぁ♡」


「魚も増えたねぇ」


「うむ♡」


 レイは満足げだった。


 単純である。


「…………」


 しばらく沈黙。


 火が小さく鳴る。


「のだぁ……」


 レイはマリアへさらにくっついた。


「疲れたのかい?」


「ちょっとなのだぁ……」


 素直だった。


 最近のレイは本当に働きすぎている。


 本人は平気な顔をしているが、夜になるとすぐ眠そうになる。


「…………」


 マリアはそっとレイの頭を撫でた。


 少し髪が伸びている。


 土と風の匂い。


 完全に農奴の子供の匂いだった。


「のだぁ……」


 レイは目を閉じた。


 それでもまだ喋る。


「でも吾輩、忙しいの嫌いじゃないのだぁ」


「そうかい?」


「うむ……」


 眠そうな声だった。


「ママとロイが笑ってると……なんか良いのだぁ……」


「…………」


 マリアの胸が少し痛くなる。


 この子は。


 本当に。


 ずっと家族のことばかり考えている。


「のだぁ……」


 レイはさらに小さな声になる。


「パパ帰ってきた時も……いっぱいびっくりさせるのだぁ……」


「…………」


 まだ信じている。


 父親が帰るかもしれないことを。


「畑も見せるのだぁ……」


「うん」


「ゴーレムも見せるのだぁ……」


「うん」


「あと……」


 レイの声がだんだん途切れる。


「ロイのマフラーも……」


 そこで。


 完全に寝落ちした。


「…………」


 小屋の中が静かになる。


 マリアは、眠ったレイを見下ろした。


 まだ小さい。


 抱きしめれば簡単に包めるくらい。


 なのに。


 働いて。

 悩んで。

 未来を考えている。


「…………」


 マリアはそっと、レイの髪を撫でた。


「忙しいなら、少しは休めばいいのにねぇ……」


 しかし。


 たぶんこの子は休まない。


 家族がいる限り。


 この小さな農奴の子供は、きっと泥だらけで働き続けるのだろう。

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