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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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 夜。


 小屋の中には、静かな火の音が響いていた。


 ぱち、ぱち。


 薪が燃える。


 外は冷えている。


 だが今日は少し暖かかった。


 理由はもちろん。


 あの布である。


「…………」


 マリアは、火の近くで針を動かしていた。


 貴族令嬢から貰った布。


 あまりにも質が良いので、最初は触るのも怖かった。


 しかし。


 農奴の家である。


 飾る余裕などない。


 使う。


 ちゃんと。


「…………」


 布を切る。


 縫う。


 糸を通す。


 ロイは横で目を輝かせていた。


「ほんとに服になるの?」


「なるよ」


「すごい……」


 ロイはまだ信じられない様子だった。


 いつもの継ぎ接ぎ服とは全然違う。


 色も綺麗。

 肌触りも柔らかい。


「のだっ♡」


 一方。


 レイはその横で、妙に静かだった。


 珍しく。


 現在八歳。


 最近は背も伸び、手足も長くなっている。


 しかし今日も泥だらけだった。


「…………」


 レイは床へ座り込み、木片へ炭で何かを書いていた。


 さらさら。


 さらさら。


 相変わらず、誰も読めない文字。


「…………」


 マリアは時々それを見ていた。


 不思議な字。


 神殿の文字とも違う。


 何を書いているのか、全く分からない。


 ただ。


 レイ本人だけは、妙に真剣だった。


「のだぁ〜♡」


 しかも今日は機嫌が良い。


 鼻歌まで歌っている。


 どうやらかなり満足しているらしい。


「何書いてるの?」


 ロイが覗き込む。


「詩なのだっ♡」


「また?」


「うむ♡」


 レイは得意げだった。


「芸術なのだぁ♡」


「全然読めない」


「高度なのだぁ♡」


 完全に開き直っている。


「…………」


 実際。


 内容はいつも通りだった。


『本日のレイ、家族へ高級布を持ち帰る』


『偉すぎる』


『たぶん村で一番偉い』


『接待の神』


 相変わらず酷い。


 しかし。


 本人だけは本気で文学だと思っていた。


「のだっ♡」


 レイは満足そうに続きを書く。


『ロイ、大喜び』


『ママ、服を作る』


『つまり吾輩は家族を幸福にした』


 かなり真剣だった。


「…………」


 マリアは、そんなレイをちらりと見る。


 最近。


 レイは本当に、

“家族の生活”

 ばかり見ていた。


 食料。

 薪。

 服。

 畑。


 そこには異常なほど興味を示す。


 しかし。


「…………」


 貴族そのものには、あまり興味がない。


 不思議なくらい。


 貴族令嬢の服を見ても、

「高そうなのだぁ」

 程度。


 豪華な馬車を見ても、

「薪いっぱい積めそうなのだぁ」

 くらい。


 欲しがるのはいつも。


 家族が楽になるものばかりだった。


「のだぁ〜♡」


 レイはまた書いていた。


 さらさら。


 炭が動く。


「…………」


 ロイは服を見ながら、小さく笑っていた。


「にいちゃん」


「のだ?」


「これ着たら貴族みたいかな」


「のだぁ?」


 レイは少し考えた。


 それから。


「ロイはロイなのだっ♡」


「?」


「貴族じゃなくても可愛いのだぁ♡」


「…………」


 ロイが少し照れる。


「な、なにそれ」


「事実なのだぁ♡」


 レイは普通に言った。


 悪気ゼロ。


「…………」


 マリアはその会話を聞きながら、少し安心していた。


 レイは変わっていく。


 確実に。


 でも。


 根っこの部分は、まだここにある。


「のだっ♡」


 レイは急に立ち上がった。


「ママ!」


「ん?」


「吾輩の服、ちょっとかっこよくするのだぁ♡」


「どんな風に?」


「偉そうに」


「無理だよ」


「のだぁ!?」


 レイがショックを受ける。


 ロイが笑う。


「にいちゃんもう偉そうじゃん」


「うむ♡」


 レイは即復活した。


「吾輩、超偉そうなのだぁ♡」


「そこは認めるんだ……」


 小屋の中へ笑い声が広がる。


 外は寒い。


 でも。


 火の近くは暖かかった。


「…………」


 マリアは針を動かし続ける。


 布が少しずつ形になる。


 レイとロイの新しい服。


「…………」


 その横では。


 レイがまた、自画自賛の詩を書いていた。


『本日のレイ、文化人』


『高級布を獲得』


『家族を幸福にした』


『そろそろ銅像が必要』


 やっぱり内容は酷かった。


 しかし。


 炭を握るその顔だけは、妙に満足そうだった。

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