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貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

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 夕方。


 空は薄紫色だった。


 畑仕事を終えた農奴たちが、少しずつ家へ戻っていく。


 その中を。


「のだっ♡のだっ♡」


 レイが超上機嫌で帰ってきた。


 しかも今日は異常に速い。


 普段なら途中で、

「魚いないかなのだぁ♡」

 とかやるのに。


 今日は一直線だった。


「ママぁああ!!ロイぃいい!!」


 小屋の扉が勢いよく開く。


 ばんっ!!


「帰ったのだぁ♡」


「うわっ!?」


 ロイが飛び上がる。


「にいちゃん!?」


 すると。


 レイは超得意げに包みを掲げた。


「見るのだぁ♡」


「?」


 ロイが首を傾げる。


 マリアも手を止めた。


「どうしたんだい」


「褒美なのだぁ♡」


 レイは誇らしげだった。


「吾輩、本日も完璧に敗北したのだぁ♡」


「また変なことしてきたんだね……」


 マリアはもう慣れていた。


 すると。


 レイは布を広げた。


「のだっ♡」


「…………」


 小屋の空気が止まる。


 綺麗だった。


 本当に。


 農奴の家にはまず存在しない布。


 柔らかい。

 発色が良い。

 しかも分厚い。


「…………」


 ロイの目が丸くなる。


「き、きれい……」


「のだっ♡」


 レイは超満足げだった。


「褒美なのだぁ♡」


「これ、貰ったの!?」


「うむ♡」


 レイは胸を張った。


「吾輩、超面白かったらしいのだぁ♡」


 方向性がよく分からない。


 しかし。


 ロイはもうそんなこと気にしていなかった。


「うわぁ……」


 そっと触る。


 柔らかい。


 自分たちの服と全然違う。


「…………」


 次の瞬間。


「わぁあああ!!」


 ロイが飛び上がった。


「すごい!!」


 きゃっきゃ跳ね回る。


「ほんものの貴族の布だ!!」


「のだっ♡」


 レイも一緒にはしゃぐ。


「高級なのだぁ♡」


「すごい!!」


「マフラー作れるのだぁ♡」


「帽子も!!」


「服もなのだぁ♡」


 兄妹が大騒ぎし始める。


 完全に祭り状態だった。


「…………」


 マリアは、そんな二人を見ながら静かに布へ触れた。


 柔らかい。


 良い布だ。


 本当に。


「…………」


 そして。


 胸が少し痛くなった。


「…………」


 この布は。


 明らかに“向こう側”のものだった。


 貴族。

 神殿。

 学園。


 レイが最近関わり始めた世界。


「…………」


 昔ならありえなかった。


 農奴の子供が。


 貴族令嬢から褒美を貰うなんて。


「のだぁ♡」


 レイはまだはしゃいでいる。


「ロイ!触るのだぁ♡」


「ふわふわ!!」


「吾輩も触るのだぁ♡」


「にいちゃんのだよ!」


「家族のなのだぁ♡」


 その言葉に。


 マリアの胸がまた少し苦しくなる。


「…………」


 レイは変わっていく。


 どんどん。


 魔力も。

 立場も。

 周囲の扱いも。


 本人は相変わらず泥だらけなのに。


 少しずつ。


 確実に。


 この小さな村から遠ざかっている。


「…………」


 マリアは布を見つめた。


 こんな高級な布。


 自分は触ったことすらほとんどない。


 なのに。


 それを息子が持ち帰ってきた。


「…………」


 怖かった。


 嬉しいのに。


 怖い。


「ママぁ♡」


 レイが笑顔で近づいてきた。


「マフラー作るのだぁ♡」


「…………」


 マリアは慌てて笑った。


「そうだねぇ」


「ロイのも作るのだぁ♡」


「ほんと!?」


「うむ♡」


 レイは本気で嬉しそうだった。


 完全に、

“家族へ良い物を持って帰れた”

 顔である。


「のだっ♡」


 ロイはもう大興奮だった。


「にいちゃんすごい!!」


「うむ♡」


 レイはどや顔。


「吾輩、超接待上手だからなぁ♡」


「意味分かんない!」


 ロイが笑う。


 レイも笑う。


 小屋の中が明るくなる。


「…………」


 マリアも笑った。


 でも。


 笑いながら。


 少しだけ思ってしまう。


「…………」


 いつまで。


 この子はここにいるんだろう。


 あと何年。


 こうやって。


 泥だらけで笑っていてくれるんだろう。


「のだっ♡」


 レイは布を抱きしめていた。


「宝物なのだぁ♡」


 その姿は、まだ完全に子供だった。


 でも。


 その手へ握られている物だけが。


 少しずつ変わっていく未来を、静かに示していた。

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