33 接待試合
春。
雪はほとんど消え、村はまた泥の季節へ戻っていた。
そして今日。
村にはまた貴族の馬車が来ていた。
「また来たな……」
「最近多いなぁ」
「レイ見物だろ」
農奴たちは遠巻きに様子を見ている。
今やレイは、かなり有名になっていた。
“農奴なのに魔法を持つ子供”。
しかも。
妙に変。
「のだぁ〜♡」
そのレイ本人は。
今日は異常に機嫌が良かった。
理由はもちろん。
戦争終結の噂である。
まだ父親が帰ると決まったわけではない。
でも。
レイの中ではもう、
“帰ってくるかも”
がかなり大きくなっていた。
「のだっ♡」
なので今日は、全体的にテンションが高い。
高すぎる。
「…………」
そして現在。
広場には、小さな模擬戦場が作られていた。
騎士。
神官。
地主家の人間。
そして。
今日の相手は貴族令嬢だった。
金髪。
綺麗なコート。
年齢は十歳くらい。
火魔法を使うらしい。
「…………」
しかし令嬢本人は、妙に楽しそうだった。
理由は単純。
レイの接待試合。
実はちょっと人気だった。
「今日はどんな負け方するのかしら」
「前回すごかったですわ」
「ゴーレム全部逆さまになってましたもの」
後ろの貴族子女たちも、妙にわくわくしている。
「…………」
騎士たちは微妙な顔だった。
本来。
これは、
“貴族の威厳”
を見せる場である。
なのに最近、ちょっと見世物化していた。
「のだっ♡」
一方レイは。
完全にやる気だった。
「今日は特別サービスなのだぁ♡」
意味不明である。
サモサが遠くで頭を抱えていた。
「また変なことする……」
「始め!」
騎士が叫ぶ。
そして。
令嬢が火球を放った。
ぼっ!!
小さな火。
普通なら避けられる。
しかし。
「のだぁあああああああ!!!!」
レイが超大げさに吹き飛んだ。
どしゃあああっ!!
地面を三回転。
さらに。
ごろごろごろごろっ!!
坂まで転がる。
「…………」
静寂。
貴族子女たちの肩が震え始める。
「の、のだぁ……」
レイはぴくぴく痙攣していた。
「もう手も足も動かないのだぁあああああ!!」
棒読みだった。
「吾輩、死んでるのだぁあああああ!!」
「死んでるのに喋ってる……」
令嬢が困惑している。
しかし。
後ろの子女たちは。
「ぷっ……」
「く、くくっ……」
もう限界だった。
「のだぁぁぁ……」
レイはさらに演技を続ける。
「無念なのだぁ……」
そして。
ぱたり。
両手を広げて倒れた。
しかも。
なぜか土ゴーレムたちまで連鎖して倒れ始める。
どさっ。
どしゃっ。
ごろん。
さらに。
今日のゴーレムは全員、
“口から土を吐きながら倒れる”
演出付きだった。
「…………」
一瞬静寂。
次の瞬間。
「ぶはっ!!」
貴族子女たちが吹き出した。
「な、なんですのあれ!?」
「ゴーレムまで死んでますわ!」
「土吐いてますわよ!!」
「のだぁぁぁ……」
レイは満足げだった。
今日はかなり出来が良い。
「完璧な敗北なのだぁ……」
すると。
令嬢がついに耐えきれなくなった。
「ふ、ふふっ……」
笑ってしまった。
それを見たレイは、心の中でガッツポーズ。
「のだっ♡」
接待成功である。
「…………」
騎士たちはもう諦めていた。
最近この空気になる。
本来なら、
“貴族の力を見せる場”
なのに。
今では、
“レイがどれだけ変な負け方をするか”
が注目されている。
「…………」
地主家の管理人など、もう完全に頭痛そうだった。
「なぜこうなる……」
一方。
レイはさらに調子に乗っていた。
「のだぁああ!!」
突然起き上がる。
「まだ息があるのだぁ!!」
「生き返りましたわ!!」
子女たちが大笑いする。
レイは超嬉しそうだった。
「第二形態なのだぁ♡」
「なんですのそれ!?」
完全に遊び始めている。
しかも。
今日は機嫌が良すぎるせいで、演技がいつもの三倍くらい大げさだった。
「のだぁあああ!!」
レイは突然、自分で土壁へ突っ込んだ。
どごぉん!!
「ぐわぁあああ!!」
勝手に激突。
「自滅してますわ!!」
「痛いのだぁ!!」
貴族子女たちが涙出るほど笑い始める。
農奴たちも吹き出していた。
「またやってる……」
「今日かなり酷ぇぞ……」
「のだぁぁ……」
レイは地面で転がった。
「戦争が終わる前に吾輩の命も終わるのだぁ……」
「意味分かりませんわ!!」
令嬢が笑いながら突っ込む。
「のだっ♡」
レイは満足げだった。
今日は本当に気分が良い。
父親が帰ってくるかもしれない。
春も近い。
皆も少し明るい。
だから。
負け方まで妙に派手だった。
「…………」
そしてその日。
帰りの馬車の中で、貴族子女たちはずっと笑っていた。
「また見たいですわ」
「次はどう負けるのかしら」
「土吐くゴーレム最高でしたわ」
完全に人気興行だった。
一方。
レイ本人は村へ戻りながら超満足げだった。
「のだっ♡」
「今日も空気読んだのだぁ♡」
本人だけは。
本気で完璧な接待だと思っていたのである。




