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春。
雪解け水が村の周囲を流れ、畑はまた泥だらけになっていた。
農奴たちは朝から働いている。
鍬を振り。
石を拾い。
種を撒く。
毎年同じ光景。
しかし。
この村だけは、少し違っていた。
「のだぁあああああ!!」
どごごごごごごっ!!
地面が揺れる。
大量の土が一気にひっくり返る。
「耕すのだぁあああ!!」
畑が波みたいに動く。
石が端へ吹き飛び、水路まで同時に形成されていく。
「…………」
農奴たちはもう止めない。
慣れた。
完全に。
「今年も始まったな……」
「レイの春だ」
「畑が死ぬほど早い……」
現在、レイ八歳。
以前よりかなり背が伸びた。
腕力も増えた。
そして何より。
魔力がどんどん増えていた。
「のだっ♡」
レイは超ご機嫌だった。
「吾輩、今年さらに強いのだぁ♡」
実際かなり強い。
土魔法の規模が明らかに違う。
以前は小さな畑一つで疲れていた。
しかし今は。
複数の畑を同時に整備し始めている。
「のだぁああ!!」
どごごごごごっ!!
大型ゴーレムまで出現。
以前より遥かに大きい。
農奴の大人くらいある。
「働けなのだぁ♡」
ゴーレムたちが一斉に動き出す。
水撒き。
石運び。
木材運搬。
完全に農業用重機だった。
「…………」
遠くで見ていた神官が引いていた。
「本当に農作業特化だな……」
「戦闘訓練は?」
「全く興味ありません」
実際その通りだった。
レイは強くなっている。
かなり。
だが。
本人の使い道が全部農業。
「のだっ♡」
レイは両手を広げた。
「生産性革命なのだぁ♡」
意味だけ覚えている。
どごごごごごっ!!
さらに土が動く。
農奴たちがざわついた。
「今年やばいぞ……」
「畑広すぎる……」
「収穫量どうなるんだこれ」
実際、かなり増えていた。
ここ数年。
この村は明らかに収穫量が上がっている。
理由は簡単。
土が良くなった。
石も減った。
水路も整った。
耕しも深い。
しかもレイは、
“畑を休ませる”
ことまで最近覚え始めている。
なぜか妙に農業知識だけ増えていた。
「のだっ♡」
レイは大笑いしていた。
「あーはっはっは!!」
完全にテンションが上がっている。
「今年は大豊作なのだぁ♡」
ゴーレムたちも忙しそうに動いていた。
そして。
その様子を見ながら。
マリアは少し複雑な顔をしていた。
「…………」
確かに助かっている。
本当に。
以前より食料は増えた。
冬も少し楽になった。
でも。
「…………」
レイが強くなりすぎている。
それが怖かった。
最近では地主家の騎士たちですら、レイを雑には扱わない。
神殿の監視も増えた。
そして。
魔法学園への入学も確定している。
「のだぁああ!!」
しかし当のレイ本人は。
超楽しそうだった。
「もっと耕すのだぁ♡」
どごぉん!!
畑拡張。
「レイ!!」
マリアが慌てる。
「広げすぎだよ!!」
「大丈夫なのだぁ♡」
レイは得意げだった。
「いっぱい作ればいっぱい食べれるのだぁ♡」
農奴らしい思考である。
「…………」
そして。
レイは毎年、同じことを忘れる。
収穫量が増える。
つまり。
地主へ納める量も増える。
「…………」
秋になると毎回。
「のだぁあああああ!!?」
レイが絶叫する。
『なんでこんなに持っていかれるのだぁ!?』
と。
しかし。
春になるとまた忘れる。
「のだっ♡」
現在も完全に忘れていた。
「豊作なのだぁ♡」
きゃっきゃしている。
すると。
ロイが小さく聞いた。
「にいちゃん」
「のだ?」
「今年もいっぱい取られるんじゃない?」
「…………」
静寂。
「…………」
レイが固まる。
数秒後。
「のだぁああああああああ!!!!」
大絶叫。
「そうだったのだぁあああ!!」
周囲の農奴たちが吹き出した。
「また忘れてたぞ」
「毎年やってるな……」
レイは本気でショックを受けていた。
「吾輩の麦ぃいいいいいいいい!!」
「お前のじゃないよ」
「育てたの吾輩なのだぁ!!」
ぷんすか怒る。
しかし。
数分後には。
「でもいっぱい食べれるのだぁ♡」
また復活していた。
単純だった。
「のだっ♡」
レイは再び土を叩く。
「もっと増やすのだぁ♡」
「懲りてない……」
サモサが呆れる。
「農奴はいっぱい作るのだぁ♡」
完全に労働脳だった。
「…………」
遠くで見ていた地主家の管理人は、妙に複雑な顔をしていた。
収穫量はありがたい。
非常に。
だが。
「…………」
八歳の農奴が、一人で村の生産量を変えている。
それは普通ではなかった。
「のだぁああ!!」
レイはそんなこと気にせず、泥だらけで笑っていた。
土を動かし。
ゴーレムを走らせ。
畑を広げる。
どれだけ強くなっても。
レイの使い道だけは、徹底的に農奴だった。




