28 妹のマフラー
冬。
外は吹雪いていた。
風が小屋を揺らし、隙間から冷気が入り込んでくる。
農奴の冬は厳しい。
寒い。
暗い。
そして長い。
「のだぁ……」
しかし今日のレイは、珍しく静かだった。
藁の上へ座り、真剣な顔で何かを見ている。
「…………」
ロイだった。
五歳になったロイは、最近こそこそ何かをしていた。
毛糸。
布。
細い棒。
最初、レイは、
“また変な遊び”
だと思っていた。
しかし。
最近ずっと夜に何か編んでいる。
「のだぁ?」
レイは気になっていた。
だが。
ロイは全然見せてくれない。
「駄目!」
「なんでなのだぁ!?」
「まだ!」
「吾輩にも見せる権利があるのだぁ!!」
「ない!!」
兄妹喧嘩になるので、最近はマリアに止められていた。
「ほらレイ、邪魔しない」
「のだぁ……」
そして。
今日。
ついに。
「……にいちゃん」
「のだ?」
ロイが妙に緊張した顔で近づいてきた。
両手に、何かを抱えている。
「これ」
「のだぁ?」
レイは受け取った。
「…………」
柔らかい。
長い。
「…………」
マフラーだった。
かなり歪だ。
編み目もずれている。
太さも違う。
端っこも少し変。
でも。
ちゃんとマフラーだった。
「…………」
レイが固まる。
ロイは不安そうだった。
「へ、変かも……」
「…………」
レイ、無言。
数秒。
そして。
「のだぁあああああああああ!!!!」
絶叫。
ロイが飛び上がる。
「にいちゃん!?」
「のだぁあああああ!!」
レイは震えていた。
マフラーを抱きしめながら。
「うぇええええええん!!」
突然泣き始めた。
ロイが完全に困る。
「えっ!?えっ!?」
「のだぁあああ!!」
レイは号泣していた。
「マフラーなのだぁあああ!!」
当たり前である。
「吾輩のなのだぁあああ!!」
「う、うん……」
ロイがちょっと引いている。
しかしレイは止まらない。
「うぇええええん!!」
ぼろぼろ泣く。
マリアもびっくりしていた。
「そんなに喜ぶかい……」
「当然なのだぁあああ!!」
レイは涙だらけだった。
「ロイが作ってくれたのだぁあああ!!」
ぎゅううううっ。
マフラーを抱きしめる。
完全に感極まっていた。
「のだぁぁぁ……」
レイは本当に嬉しかった。
農奴の家では、物は大事だ。
特に冬物。
毛糸。
布。
防寒具。
全部貴重。
しかも。
ロイが自分で作った。
「のだぁぁ……」
レイはマフラーを顔へ押し付けた。
「暖かいのだぁ……」
まだ巻いてない。
しかし気分的に暖かい。
「…………」
ロイは少し恥ずかしそうだった。
「ちょっと失敗したけど……」
「完璧なのだぁ!!」
レイは即否定した。
「超高級なのだぁ!!」
「こうきゅう?」
「王様でも欲しがるのだぁ!!」
完全に言い過ぎだった。
しかし本気でそう思っている。
「のだっ♡」
レイはすぐ首へ巻いた。
ぐるぐる。
少し長さが変。
でも嬉しそう。
「うむ♡」
満足げ。
「どうなのだぁ?」
ロイが少し笑う。
「変」
「のだぁ!?」
レイがショックを受けた。
「でも似合ってる」
「のだっ♡」
即復活。
単純だった。
「…………」
マリアはそんな兄妹を見ながら、少し微笑んでいた。
レイは最近、ずっと働いている。
働いて。
働いて。
未来のことばかり考えている。
だから。
こういう“普通の子供っぽい顔”を見ると少し安心する。
「のだぁ〜♡」
レイはマフラーを撫でていた。
かなり気に入ったらしい。
「吾輩、一生使うのだぁ♡」
「ぼろぼろになるよ」
「直すのだぁ♡」
真顔だった。
「ロイのマフラーだからなのだぁ♡」
ロイが少し照れる。
「…………」
外では風が鳴っていた。
寒い冬。
小屋も狭い。
でも。
今だけは妙に暖かかった。
「のだっ♡」
レイは突然立ち上がる。
「見せびらかすのだぁ♡」
「えっ」
「村中に自慢するのだぁ♡」
「やめてぇ!!」
ロイが真っ赤になる。
しかしレイは止まらない。
「吾輩、妹から超高級マフラーもらったのだぁ♡」
「やだぁああ!!」
兄妹が小屋の中を走り回る。
マリアが笑う。
その笑い声の中で。
レイは何度も何度も、首のマフラーを触っていた。
嬉しくて仕方なかったのである。




