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春。
雪が溶け、村はまた泥だらけになっていた。
農奴たちは朝から働いている。
畑を起こし。
種を運び。
水路を整える。
冬を越えた直後の農村は、とにかく忙しい。
「のだぁあああ!!」
そして。
レイもまた働いていた。
どごごごごごっ!!
土が盛り上がる。
小型ゴーレムたちが水桶を運ぶ。
「もっと急ぐのだぁ♡」
七歳児とは思えない指揮だった。
「水撒き部隊ぃ!!」
どたどたどた。
ゴーレムたちが畑を横切る。
その後ろでは別のゴーレムが薪を割っている。
さらに別の一体が井戸から水を運んでいた。
「…………」
村人たちはもうだいぶ慣れていた。
最初は悲鳴を上げていたのに。
今では。
「レイ、水こっちも頼む」
「薪あと少し欲しい」
「石また出てきた」
普通に頼み始めている。
「のだっ♡」
レイは得意げだった。
「任せるのだぁ♡」
最近のレイは、本当に色んな家を手伝っていた。
水撒き。
薪割り。
荷運び。
畑整備。
しかもかなり積極的。
「…………」
理由は単純だった。
レイは覚えている。
自分はいずれ学園へ行かされる。
数年間。
村から離れる。
「…………」
だから。
今のうちに。
できるだけ。
村へ恩を売っていた。
完全に農奴の発想である。
助けた相手は、後で返してくれる。
特に田舎ではそうだ。
「のだっ♡」
レイはかなり真剣だった。
「ママとロイをよろしくなのだぁ♡」
そんなことを普通に言いながら働く。
村人たちは複雑な顔になる。
なにせ七歳児である。
なのに考えていることが妙に現実的だった。
「…………」
ある老婆など、本気で泣きそうになっていた。
「ほんとに働く子だねぇ……」
「のだっ♡」
レイは超得意げ。
「吾輩、超有能農奴だからなぁ♡」
相変わらず方向性はおかしい。
しかし。
実際かなり助かっていた。
特に年寄りや女だけの家。
水運びは重労働だ。
薪割りも危険。
そこへゴーレムが来る。
「のだっ♡」
レイは今日も土を叩いた。
どごごごごごっ!!
「働けなのだぁ♡」
小型ゴーレムが水桶を持ち上げる。
よろよろ。
でも速い。
「…………」
その様子を、遠くから子供たちが見ていた。
「レイー!」
ナンが手を振る。
「今日川行かねぇの!?」
「のだぁ?」
レイは一瞬止まった。
そして。
「今日は無理なのだぁ!」
「また!?」
「水撒き終わってないのだぁ♡」
どごごごごっ!!
ゴーレム追加。
ナンたちは少ししょんぼりする。
最近。
レイはあまり遊ばなくなった。
前は毎日鬼ごっこしていた。
川へ飛び込んで。
魚を追いかけて。
泥だらけで走り回っていた。
しかし今は違う。
「…………」
働いている。
ずっと。
「またあとでなのだぁ♡」
レイは笑って手を振る。
しかし。
結局その日も来なかった。
夕方まで働いていたからである。
「…………」
サモサは少し複雑だった。
レイが変わったのを感じていた。
もちろん、元々働き者ではあった。
でも最近は異常だ。
まるで。
“今のうちに全部終わらせよう”
としているみたいだった。
「レイ」
「のだ?」
「少し休めば?」
「無理なのだぁ♡」
即答。
「春は忙しいのだぁ♡」
「それ前も言ってた」
「夏も忙しいのだぁ♡」
「じゃあずっと忙しいじゃん」
「うむ♡」
レイは真顔で頷いた。
全く疑問に思っていない。
完全に農奴脳だった。
「…………」
サモサは少し黙った。
そして小さく聞く。
「そんなに働いてどうするの?」
「のだぁ?」
レイは少し考えた。
それから。
「みんながママたち助けてくれるのだぁ♡」
さらっと言った。
「…………」
サモサが固まる。
レイは土を動かしながら続けた。
「吾輩いなくなったら、ママ一人だと大変なのだぁ」
「…………」
「だから今いっぱい手伝うのだっ♡」
どごごごごごっ!!
水路が完成する。
レイは満足げだった。
「これで水運び減るのだぁ♡」
「…………」
サモサは少し胸が痛くなった。
七歳。
本来なら遊んでいていい年齢だ。
なのに。
レイは、
“自分がいなくなった後”
のことばかり考えている。
「…………」
その頃。
村人たちも、なんとなく察していた。
レイが最近やたら働く理由を。
「学園行く前だからだろ」
「家族のためだ」
「……あの歳でなぁ」
複雑だった。
感謝もある。
助かっている。
でも。
少し申し訳なかった。
「のだぁああ!!」
レイはまた叫んだ。
「次は薪割りなのだぁ♡」
どごごごごごっ!!
ゴーレムたちが動き出す。
子供たちは遠くで川へ向かっていた。
笑い声が聞こえる。
「…………」
レイは一瞬そっちを見た。
ほんの少しだけ。
羨ましそうに。
「のだっ♡」
でも。
すぐまた土を叩く。
「働くのだぁ♡」
七歳の小さな手で。
レイは今日も、未来のために働いていた。




