表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/42

26 ロイのモヤモヤ

 冬。


 村は白かった。


 雪が積もり、畑は完全に眠っている。


 農奴たちは家へこもり、薪を節約しながら春を待つ季節だった。


 そして。


「のだぁっ♡」


 レイは今日も元気だった。


「もっと薪くべるのだぁ♡」


「駄目だよ!」


 マリアが慌てる。


「春まで持たなくなる!」


「寒いのだぁ!」


 レイは毛布へくるまりながらぷんすかしていた。


 冬は嫌いだった。


 畑仕事が減る。

 魚も減る。

 しかも寒い。


「のだぁ……」


 しかし。


 そんなレイとは違い。


 ロイは最近、少し静かだった。


「…………」


 五歳。


 以前よりかなり成長した。


 頬もふっくらしたし、風邪も減った。


 レイが働きまくっているおかげで、食事事情が改善しているからだ。


 それでも。


 ロイは最近、時々ぼーっとしていた。


「…………」


 原因は、なんとなく自分でも分かっている。


 最近。


 貴族たちがよく来るからだ。


「…………」


 レイを見るために。


 神官。

 騎士。

 貴族。


 そして時々。


 貴族の子供たちまで来る。


 特に令嬢たち。


 綺麗な服。

 綺麗な靴。

 白い手袋。


 雪の上でも汚れない。


「…………」


 ロイは、つい見てしまう。


 特に服。


 ふわふわしていて。

 柔らかそうで。

 暖かそう。


 村の服とは全然違う。


「…………」


 ロイは自分の袖を見た。


 古い。

 継ぎ接ぎ。

 少し硬い。


 マリアが何度も縫っている。


「…………」


 もちろん。


 不満ではない。


 ロイはちゃんと分かっている。


 兄が働いていること。

 母親が頑張っていること。


 レイはいつも自分へ食べ物を分けてくれる。


「ロイもっと食べろなのだぁ♡」


 と言いながら、自分の黒パンを割ってくれる。


 だから。


 文句なんて言えない。


「…………」


 でも。


 羨ましかった。


 少しだけ。


 貴族令嬢たちの綺麗な服が。


「…………」


 ある日。


 ロイは小屋の窓から外を見ていた。


 雪の中。


 馬車が止まっている。


 また貴族が来たのだ。


 そして。


 今日は小さな令嬢も一緒だった。


 白いコート。

 毛皮。

 綺麗なブーツ。


「…………」


 ロイはじっと見てしまう。


 すると。


「のだぁあああ!?!?」


 外でレイが吹き飛んだ。


 どしゃあっ。


「吾輩の魔法が跳ね返ったのだぁああ!!」


 また接待試合だった。


 令嬢が微妙な顔をしている。


 騎士たちも困惑している。


「…………」


 ロイは少しだけ笑った。


 兄は相変わらず変だった。


 強いくせに、わざと負ける。


 しかも演技が下手。


「のだぁ……」


 レイは雪へ埋まりながら苦しむふりをしていた。


 しかし。


 その横に立つ令嬢の服を見た瞬間。


「…………」


 ロイの胸が少しだけ苦しくなる。


 綺麗。


 本当に。


 同じ子供とは思えない。


「…………」


 ロイは自分の服を握った。


 別に嫌いではない。


 でも。


 なんとなく惨めな気持ちになる。


「…………」


 すると。


 外からレイの声が聞こえた。


「のだぁああ!!」


 また大げさに転んでいる。


「強いのだぁああ!!」


 完全に棒読み。


 ロイはまた少し笑った。


「…………」


 兄はすごい。


 皆がそう言う。


 村の人も。

 神官も。

 貴族も。


 でも。


 ロイは知っている。


 兄は毎日泥だらけだ。


 毎日働いて。

 毎日怒鳴って。

 毎日お腹空いたと言っている。


「…………」


 だから余計に、不思議だった。


 なぜ兄だけ、貴族たちと並ぶのか。


 なぜ兄だけ、学園へ行くのか。


 なぜ自分は違うのか。


「…………」


 ロイはそれを誰にも言わなかった。


 マリアには心配をかけたくない。


 レイにはもっと言えない。


 兄は今でも、

“自分がいなくなる前に”

 と働き続けている。


 そんな兄へ、

「羨ましい」

 なんて言えなかった。


「ロイー!」


「っ!」


 レイの声。


「見てたのだぁ!?今の超自然だったのだぁ!?」


 雪だらけで走ってくる。


 全然自然じゃない。


 ロイは思わず吹き出した。


「変だった」


「のだぁあああ!!」


 レイがショックを受ける。


「なんでなのだぁ!!」


「ゴーレム逆さまだった」


「演出なのだぁ!!」


「変」


「のだぁぁ!!」


 レイは本気で悔しそうだった。


 その顔を見ていると。


 ロイの胸のもやもやは、少しだけ薄くなる。


「…………」


 兄はやっぱり変だ。


 変で。

 泥だらけで。

 食い意地が張っていて。


 でも。


 誰より働いていた。


「のだぁ……」


 レイはまだ演技の反省をしている。


「もっと自然に負けないとなのだぁ……」


「別に勝てばいいのに」


「駄目なのだっ♡」


 レイは妙に真剣だった。


「農奴は空気読むのだぁ♡」


 ロイには、やっぱりよく分からなかった。


 でも。


 少なくとも。


 今の兄が、嫌いではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ