表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族しか魔法を使えない世界で、農奴の俺だけ土魔法が使えたので畑を耕していたら魔法学園へ強制入学させられることになった  作者: 雪だるま
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/42

23 熱を出したレイ

 秋の終わり。


 村には冷たい風が吹き始めていた。


 畑仕事も佳境である。


 収穫。

 保存。

 冬支度。


 農奴たちが最も忙しくなる季節だった。


「のだぁあああ!!」


 そしてレイも。


 働きまくっていた。


 どごごごごごっ!!


 土が動く。


 石が吹き飛ぶ。


 畑が整う。


 以前より魔法の規模も精度もかなり上がっていた。


「もっと働くのだぁ♡」


 七歳児とは思えない勢いである。


 朝から晩まで。


 自分の家の畑。

 近所の畑。

 水路整備。

 薪割り。


 さらに魚捕りまでやる。


「のだっ♡」


 レイ本人はかなり真剣だった。


 数年後、自分は学園へ行かされる。


 その間、母親とロイだけになる。


 だから。


 今のうちに少しでも楽にしておきたかった。


「もっと土柔らかくするのだぁ♡」

「薪も増やすのだぁ♡」

「干し魚もなのだぁ♡」


 完全に農奴の働き手思考だった。


 しかし。


 当然ながら。


 七歳児の体には重すぎた。


「…………」


 最初に異変へ気づいたのはマリアだった。


 夜。


 レイが珍しく静かだったのである。


「レイ?」


「のだぁ……」


 藁の寝床で丸くなっている。


 顔が赤い。


「ちょっと顔見せな」


「嫌なのだぁ……」


 声も弱い。


 マリアの顔色が変わった。


「…………熱い」


 かなり熱がある。


 しかも体が妙に冷えている。


「レイ!!」


 するとロイも飛び起きた。


「にいちゃん!?」


「のだぁ……」


 レイは毛布へ包まったまま、ぶすくれていた。


「害虫がぁああ……」


「……は?」


「害獣がぁああ……」


 熱で変になっている。


「くそぉおおお……」


 完全に寝言だった。


「ママぁああ……」


「ここにいるよ」


「スープはまだなのだぁあああ!?」


 そこだけははっきりしていた。


 マリアは一瞬ぽかんとして。


 それから思わず笑いそうになった。


「熱出してても食い意地だけは元気だねぇ……」


「のだぁ……」


 レイは毛布へくるまったままぷんすかしていた。


 頬が真っ赤である。


「害虫が悪いのだぁ……」


「何があったんだい」


「麦ぇ……」


 レイはふらふら喋る。


「食われたのだぁ……」


 どうやら昼間、害虫と害獣を追い回していたらしい。


 しかもそのあと普通に土魔法を使って働いた。


「…………」


 マリアは深いため息をついた。


 最近のレイは働きすぎだった。


 自分でも分かるくらい。


 朝から晩まで動いている。


 しかも最近は、

“自分がいなくなる前に”

 という意識まである。


 だから余計に無茶をする。


「のだぁ……」


 レイは毛布の中でもぞもぞした。


「吾輩、まだ働けるのだぁ……」


「寝な」


「嫌なのだぁ……」


 かなり本気で不満そうだった。


「水路まだ途中なのだぁ……」


「明日でいい」


「薪もなのだぁ……」


「死ぬよ」


「のだぁ!?」


 レイがびっくりした顔をした。


 しかし次の瞬間。


「のだぁぁぁ……」


 また毛布へ沈む。


 完全に弱っている。


 ロイが不安そうに近づいた。


「にいちゃん、大丈夫……?」


「のだぁ……」


 レイはぐったりしながらロイを見た。


「ロイ……」


「うん」


「麦は守るのだぁ……」


「むぎ?」


「害獣は敵なのだぁ……」


 熱で完全に農業脳になっていた。


 ロイは困惑している。


「…………」


 マリアは鍋へ向かった。


 薄いスープを温め直す。


 最近、食料事情はかなり良くなった。


 レイのおかげだ。


 畑。

 保存食。

 水路。


 全部効いている。


「…………」


 だからこそ余計につらかった。


 七歳の子供が。


 家計を支える前提で働いている。


「のだぁぁ……」


 レイは毛布の中でまだぶつぶつ言っていた。


「吾輩……超働いてるのだぁ……」


「知ってるよ」


「偉いのだぁ……」


「うん」


「もっと褒めるのだぁ……」


 マリアは少し笑った。


「はいはい、偉いねぇ」


「のだっ♡」


 一瞬だけ嬉しそうになる。


 しかしすぐまたぐったりした。


「のだぁ……」


 スープが出来上がる。


 マリアはレイを起こした。


「ほら、食べな」


「スープなのだっ♡」


 熱出してるのに目だけ輝いた。


 食欲はある。


 かなりある。


「ふーふーしてからだよ」


「のだぁ♡」


 レイは毛布に包まったままスープを飲む。


 熱い。

 薄い。

 でも温かい。


「のだぁぁ……」


 少しずつ顔色が戻る。


 すると。


「ママ」


「ん?」


「吾輩、明日には働けるのだぁ♡」


「寝てな」


「のだぁ!?」


 即怒られた。


 ロイがくすくす笑う。


「にいちゃん、また怒られてる」


「当然なのだぁ!!」


 レイは半分寝ながらぷんすかした。


「冬前は大事なのだぁ!!」


「だからって倒れてたら意味ないんだよ」


「のだぁぁ……」


 レイは不満そうだった。


 しかし。


 スープを飲み終わる頃には、もう目が閉じかけていた。


「…………」


 マリアはそっと毛布を直す。


 額へ触れる。


 まだ熱い。


「のだぁ……」


 レイは眠りながらも、まだ小さく文句を言っていた。


「害獣めぇ……」


 完全に夢の中でも農業している。


 マリアは苦笑した。


 それから。


 眠るレイの頭を、そっと撫でた。


「…………」


 まだ七歳だ。


 本当は。


 こんなに働かなくていい年齢なのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ