23 熱を出したレイ
秋の終わり。
村には冷たい風が吹き始めていた。
畑仕事も佳境である。
収穫。
保存。
冬支度。
農奴たちが最も忙しくなる季節だった。
「のだぁあああ!!」
そしてレイも。
働きまくっていた。
どごごごごごっ!!
土が動く。
石が吹き飛ぶ。
畑が整う。
以前より魔法の規模も精度もかなり上がっていた。
「もっと働くのだぁ♡」
七歳児とは思えない勢いである。
朝から晩まで。
自分の家の畑。
近所の畑。
水路整備。
薪割り。
さらに魚捕りまでやる。
「のだっ♡」
レイ本人はかなり真剣だった。
数年後、自分は学園へ行かされる。
その間、母親とロイだけになる。
だから。
今のうちに少しでも楽にしておきたかった。
「もっと土柔らかくするのだぁ♡」
「薪も増やすのだぁ♡」
「干し魚もなのだぁ♡」
完全に農奴の働き手思考だった。
しかし。
当然ながら。
七歳児の体には重すぎた。
「…………」
最初に異変へ気づいたのはマリアだった。
夜。
レイが珍しく静かだったのである。
「レイ?」
「のだぁ……」
藁の寝床で丸くなっている。
顔が赤い。
「ちょっと顔見せな」
「嫌なのだぁ……」
声も弱い。
マリアの顔色が変わった。
「…………熱い」
かなり熱がある。
しかも体が妙に冷えている。
「レイ!!」
するとロイも飛び起きた。
「にいちゃん!?」
「のだぁ……」
レイは毛布へ包まったまま、ぶすくれていた。
「害虫がぁああ……」
「……は?」
「害獣がぁああ……」
熱で変になっている。
「くそぉおおお……」
完全に寝言だった。
「ママぁああ……」
「ここにいるよ」
「スープはまだなのだぁあああ!?」
そこだけははっきりしていた。
マリアは一瞬ぽかんとして。
それから思わず笑いそうになった。
「熱出してても食い意地だけは元気だねぇ……」
「のだぁ……」
レイは毛布へくるまったままぷんすかしていた。
頬が真っ赤である。
「害虫が悪いのだぁ……」
「何があったんだい」
「麦ぇ……」
レイはふらふら喋る。
「食われたのだぁ……」
どうやら昼間、害虫と害獣を追い回していたらしい。
しかもそのあと普通に土魔法を使って働いた。
「…………」
マリアは深いため息をついた。
最近のレイは働きすぎだった。
自分でも分かるくらい。
朝から晩まで動いている。
しかも最近は、
“自分がいなくなる前に”
という意識まである。
だから余計に無茶をする。
「のだぁ……」
レイは毛布の中でもぞもぞした。
「吾輩、まだ働けるのだぁ……」
「寝な」
「嫌なのだぁ……」
かなり本気で不満そうだった。
「水路まだ途中なのだぁ……」
「明日でいい」
「薪もなのだぁ……」
「死ぬよ」
「のだぁ!?」
レイがびっくりした顔をした。
しかし次の瞬間。
「のだぁぁぁ……」
また毛布へ沈む。
完全に弱っている。
ロイが不安そうに近づいた。
「にいちゃん、大丈夫……?」
「のだぁ……」
レイはぐったりしながらロイを見た。
「ロイ……」
「うん」
「麦は守るのだぁ……」
「むぎ?」
「害獣は敵なのだぁ……」
熱で完全に農業脳になっていた。
ロイは困惑している。
「…………」
マリアは鍋へ向かった。
薄いスープを温め直す。
最近、食料事情はかなり良くなった。
レイのおかげだ。
畑。
保存食。
水路。
全部効いている。
「…………」
だからこそ余計につらかった。
七歳の子供が。
家計を支える前提で働いている。
「のだぁぁ……」
レイは毛布の中でまだぶつぶつ言っていた。
「吾輩……超働いてるのだぁ……」
「知ってるよ」
「偉いのだぁ……」
「うん」
「もっと褒めるのだぁ……」
マリアは少し笑った。
「はいはい、偉いねぇ」
「のだっ♡」
一瞬だけ嬉しそうになる。
しかしすぐまたぐったりした。
「のだぁ……」
スープが出来上がる。
マリアはレイを起こした。
「ほら、食べな」
「スープなのだっ♡」
熱出してるのに目だけ輝いた。
食欲はある。
かなりある。
「ふーふーしてからだよ」
「のだぁ♡」
レイは毛布に包まったままスープを飲む。
熱い。
薄い。
でも温かい。
「のだぁぁ……」
少しずつ顔色が戻る。
すると。
「ママ」
「ん?」
「吾輩、明日には働けるのだぁ♡」
「寝てな」
「のだぁ!?」
即怒られた。
ロイがくすくす笑う。
「にいちゃん、また怒られてる」
「当然なのだぁ!!」
レイは半分寝ながらぷんすかした。
「冬前は大事なのだぁ!!」
「だからって倒れてたら意味ないんだよ」
「のだぁぁ……」
レイは不満そうだった。
しかし。
スープを飲み終わる頃には、もう目が閉じかけていた。
「…………」
マリアはそっと毛布を直す。
額へ触れる。
まだ熱い。
「のだぁ……」
レイは眠りながらも、まだ小さく文句を言っていた。
「害獣めぇ……」
完全に夢の中でも農業している。
マリアは苦笑した。
それから。
眠るレイの頭を、そっと撫でた。
「…………」
まだ七歳だ。
本当は。
こんなに働かなくていい年齢なのに。




