22 2年後
夏。
畑は青々としていた。
麦が風に揺れ、村には乾いた土の匂いが漂っている。
そして。
「のだぁあああああ!?!?!?」
村外れで、レイが吹き飛んでいた。
どしゃあっ!!
綺麗に転がる。
しかもかなり大げさ。
「吾輩の土魔法が跳ね返ってぇえええ!?!?」
棒読みだった。
周囲の農奴たちが微妙な顔をする。
「また始まった……」
「接待練習か」
「レイのあれ長いんだよな……」
二年前なら誰も理解できなかった。
だが今では、村人たちもだいぶ慣れていた。
レイは時々、
“貴族相手に負ける練習”
をするのである。
「のだぁ……」
現在七歳。
以前よりかなり背が伸びた。
しかし相変わらず泥だらけである。
そして。
周囲には土ゴーレムたちが転がっていた。
しかも。
全員、上下逆さま。
「…………」
完全に雑だった。
レイなりに、
“やられた感”
を演出しているらしい。
しかしゴーレムたちは妙にぴくぴく動いている。
演技が甘い。
「のだぁああ……」
レイは地面で苦しむふりをした。
「なんという強さなのだぁ……」
誰もいない。
完全に自主練である。
「吾輩、勝てないのだぁ……」
かなり適当だった。
すると。
「にいちゃん」
「のだっ!?」
後ろから声。
振り向く。
ロイだった。
五歳になったロイは、以前よりかなり元気になっていた。
髪も少し伸び、頬も前よりふっくらしている。
最近はちゃんと食べられているからだ。
「…………」
ロイは不思議そうにレイを見ていた。
「また変なことしてる」
「のだぁ!?」
レイは慌てて起き上がった。
「これは重要な練習なのだっ♡」
「なんで?」
「接待なのだぁ♡」
「せったい?」
ロイは首を傾げた。
レイは妙に真剣な顔になる。
「お貴族様は気持ちよく勝たせるのが大事なのだぁ♡」
「…………?」
五歳児には全く分からない。
するとレイはさらに熱弁を始めた。
「最近来るお貴族様の子供たち、前より強いのだぁ!」
それは事実だった。
レイの噂は広がっている。
そのため最近は、
“農奴の魔法持ちを見に来る”
貴族子女が増えていた。
しかも。
半分くらいは、
“自分の強さを見せつけたい”
目的である。
農奴が希望を持つのを嫌がる貴族も多い。
だから。
“貴族の方が上”
を見せつけるため、子供同士の模擬戦をやらせる。
「のだぁ……」
レイは深刻そうだった。
「最近みんな普通に魔法使うのだぁ……」
以前のパコラみたいに剣だけではない。
火。
風。
雷。
ちゃんと教育された貴族の子供たちは、普通に強い。
だからレイも少し焦っていた。
「もっと自然に負けないといけないのだぁ……」
「…………」
ロイはぽかんとしていた。
「なんで勝たないの?」
「のだぁ!?」
レイは超びっくりした顔をした。
「勝ったら気まずいのだぁ!!」
「……?」
ロイには全く理解できない。
なにせロイから見れば、レイは普通に強い。
畑を動かし。
ゴーレムを作り。
害鳥を追い回す。
なのに。
貴族相手になると急に転び始める。
「のだっ♡」
レイは再びやる気を出した。
「見てるのだぁ♡」
どごごごごごっ!!
土ゴーレムたちが立ち上がる。
最近のレイはかなり魔法が上達していた。
小型ゴーレムなら数体同時に動かせる。
「そしてぇ……」
レイはわざとらしく叫ぶ。
「うわぁああ!?!」
どしゃあっ!!
また転んだ。
しかも。
ゴーレムたちも一斉に倒れる。
さらに全員上下逆さま。
「…………」
ロイがじっと見る。
「変」
「のだぁ!?」
レイはショックを受けた。
「そんなはっきり言うななのだぁ!!」
「だって変」
「演技なのだぁ!!」
「へた」
「のだぁあああ!!」
完全に兄妹喧嘩だった。
すると。
近くで見ていたサモサが吹き出した。
「ぷっ……」
「笑うななのだぁ!!」
サモサは七歳になり、以前よりかなり落ち着いていた。
しかし今は肩を震わせている。
「だ、だって……」
「なんなのだぁ!?」
「ゴーレムまで逆さまになる必要ある?」
「必要なのだっ♡」
レイは妙に真剣だった。
「やられた感が大事なのだぁ♡」
「絶対違うと思う」
「のだぁ……」
しかしレイ本人は本気だった。
なにせ。
貴族相手の接待は重要なのである。
農奴として。
非常に。
「のだっ♡」
レイはまた土を叩いた。
どごごごごごっ!!
ゴーレムたちが整列する。
「次はもっと自然に吹き飛ぶ練習なのだぁ♡」
「なんでそんな努力してるの……」
サモサは本気で不思議だった。
するとレイは胸を張った。
「吾輩、超空気読む農奴だからなぁ♡」
誇らしげだった。
完全に方向性が間違っている。
「…………」
ロイはまだ不思議そうに兄を見ていた。
強いはずなのに。
なんでわざと負ける練習をしているのか。
五歳児にはさっぱり分からなかった。
だが。
「のだぁあああ!?!?」
再び大げさに吹き飛ぶレイを見て。
ロイはついに笑い始めた。
「にいちゃん変!!」
「のだぁあああ!!」
夕陽の中。
レイの接待演技練習は、今日も続いていた。




