20
秋。
村は少しずつ寒くなっていた。
畑の収穫も終わりに近づき、農奴たちは冬支度を始めている。
薪。
保存食。
干し草。
冬を越えられるかどうかは、この時期の働きで決まる。
「のだぁっ♡」
そしてレイは。
今日も土魔法で畑を耕していた。
どごごごごごっ!!
石が吹き飛ぶ。
土がひっくり返る。
「文明なのだぁ♡」
完全に農業機械だった。
しかし。
最近、村の空気がまた変わり始めていた。
「…………」
神殿側の監視が増えたのである。
以前は数週間に一度だった。
だが今は違う。
神官。
記録係。
護衛騎士。
かなり頻繁に来る。
しかも。
最近はレイの行動を細かく記録していた。
「今日も土魔法を使用」
「ゴーレム三体」
「農作業補助」
そんな風に。
「…………」
農奴たちはまた少し怯え始めていた。
神殿は怖い。
特に農奴にとっては。
税。
教義。
魔法。
全部絡んでくる。
「のだぁ?」
一方レイ本人は、あまり気にしていなかった。
なにせ。
「うむ♡」
最近は神官たちが来ると干し肉を置いていく。
完全に食べ物認識である。
「神殿、たまに良いやつなのだぁ♡」
単純だった。
だが。
その日だけは違った。
夕方。
村へかなり立派な馬車がやってきた。
白い紋章。
銀装飾。
神殿直属。
農奴たちの顔色が変わる。
「中央の神殿だ……」
「なんでこんな田舎に……」
空気が張り詰める。
そして。
小屋の前へ、白衣の神官が立った。
年老いた男だった。
しかし今まで来ていた地方神官とは明らかに格が違う。
周囲の神官たちですら頭を下げている。
「…………」
マリアの顔が青ざめた。
レイも察した。
「のだぁ?」
嫌な予感。
かなり偉い人が来た時の空気だった。
なので。
「のだぁあああ!!」
どしゃっ。
即土下座。
「善良で可愛い農奴ですのだぁあああ♡」
もはや反射だった。
農奴の完成形である。
周囲の神官たちが微妙な顔をする。
だが老神官は静かにレイを見下ろした。
「お前がレイ・マカロンか」
「そうなのだぁ♡」
「立て」
「のだっ♡」
ぴしっ。
レイはすぐ立った。
泥だらけで。
「…………」
老神官はしばらく観察する。
小さい。
痩せている。
完全に農奴。
だが魔力は本物。
「確認する」
老人が杖を向けた。
空気が震える。
レイの周囲の土が少し浮いた。
神官たちがざわつく。
「やはり強いな……」
老神官は低く呟いた。
農奴としては異常すぎる魔力量。
しかも成長している。
「…………」
マリアの胃が冷える。
嫌な流れだった。
すると老神官は、あっさり言った。
「数年後、この子は魔法学園へ入学する」
静寂。
「…………は?」
マリアが固まる。
周囲の農奴たちも凍りついた。
「のだぁ?」
レイだけきょとんとしていた。
老神官は続ける。
「魔法保持者は、神殿認可の学園へ通う義務がある」
「…………」
村人たちがざわつく。
そんな制度、農奴は知らない。
当然である。
普通、農奴に関係ないからだ。
魔法持ちは基本的に王侯貴族か、その隠し子。
農奴が知る必要のない世界だった。
「のだぁ?」
レイは本気で不思議そうだった。
「そんな制度があったのだぁ?」
神官たちが微妙な顔になる。
そりゃ農奴は知らない。
読み書きも怪しい世界なのだ。
「学園では魔法を学ぶ」
「のだぁ?」
「制御法、歴史、神学、貴族作法」
「…………」
レイが真顔になった。
かなり嫌そう。
「のだぁ……」
完全に、
“面倒な予感”
を感じ取っていた。
「畑仕事は?」
真顔で聞いた。
神官たちが一瞬固まる。
「……は?」
「畑仕事どうするのだぁ?」
レイはかなり真剣だった。
「春忙しいのだぁ」
「…………」
神官たちが沈黙する。
老神官すら少し困った顔になった。
普通、魔法学園は名誉だ。
貴族たちは子供を競わせる。
だがレイは違う。
完全に農奴目線。
「あと魚捕りもあるのだぁ」
「魚……」
「冬の薪もなのだぁ」
農奴の生活感が凄い。
神官たちは妙な顔をしていた。
そして。
周囲の農奴たちは逆に青ざめていた。
魔法学園。
それはつまり。
もうレイが“農奴側の人間ではなくなる”という意味だからだ。
「…………」
マリアの顔色は真っ白だった。
ついに来た。
ずっと恐れていたものが。
神殿が正式に動いた。
「のだぁ……」
レイはまだ納得していなかった。
「学園って毎日行くのだぁ?」
「寮生活になる」
「のだっ!?」
レイの顔色が変わった。
「家帰れないのだぁ!?」
「長期休暇はある」
「嫌なのだぁ!!」
即叫んだ。
「ロイどうするのだぁ!!」
「に、にいちゃん……?」
後ろでロイが不安そうに震える。
「ママ一人で畑終わらないのだぁ!!」
神官たちがまた困った顔になる。
完全に発想が農奴。
しかもかなり真面目に家族労働力の心配をしている。
「…………」
老神官はしばらく黙っていた。
それから静かに言う。
「まだ数年ある」
「のだぁ……」
「それまでに準備をしろ」
レイはしょんぼりした。
完全に嫌そう。
「学園ってお腹いっぱい食べれるのだぁ?」
「……まあ、普通は」
「…………」
少し揺れた。
しかし。
「でも畑ないのだぁ……」
かなり複雑そうだった。
農奴の五歳児にとって。
魔法学園より畑の方が現実だったのである。




