17 遊ぶレイ
数週間後。
春はすっかり終わりに近づいていた。
畑には緑が増え、村の空気も少し変わっていた。
「…………」
最初の頃、村人たちはレイをかなり怖がっていた。
農奴の子供が魔法を使う。
しかも土を動かし、ゴーレムまで出す。
そんな存在、普通なら不吉そのものだ。
子供たちも最初は逃げていた。
「近づくなよ」
「怒ったら地面爆発するぞ」
「怖ぇよ……」
そんなことを言われていた。
しかし。
数週間経つと。
「レイー!」
「今日も川行こうぜ!」
「うちの畑の石もどかしてくれ!」
だいぶ扱いが変わっていた。
理由は単純である。
便利すぎた。
農奴社会では、それがかなり重要だった。
石拾い。
畑返し。
水路掘り。
薪割り。
大人でも嫌がる作業を、レイは遊び感覚でやる。
しかも最近は、子供たちの家の畑までちょこちょこ手伝っていた。
「のだっ♡」
レイ本人はかなり満足していた。
なにせ。
感謝される。
食べ物が増える。
遊び相手も増える。
農奴の子供としては非常に分かりやすい幸福だった。
「のだぁあああああ!!」
そして現在。
レイは全力疾走していた。
泥道を。
裸足で。
「逃げるのだぁあああ!!」
後ろでは子供たちが追いかけている。
「待てぇ!!」
「ずるいぞレイ!!」
「土使うな!!」
「のだっ♡」
レイは超楽しそうだった。
どごっ。
走りながら地面を少し盛り上げる。
「うわっ!?」
追いかけていた少年が転ぶ。
きゃあきゃあ笑い声が響く。
完全にただの悪ガキ集団だった。
「捕まえてみろなのだぁあああ!!」
レイはケラケラ笑いながら走る。
最近、子供たちはようやく理解し始めていた。
レイは怖い。
でも。
基本的に畑仕事と魚のことしか考えていない。
あと妙に遊び好き。
「のだっ♡」
レイは川辺まで走った。
そして。
ばしゃぁん!!
躊躇なく飛び込む。
「うわっ!?」
「また飛び込んだ!!」
子供たちが騒ぐ。
レイは犬かきしながら大笑いしていた。
「のだぁ♡水最高なのだぁ♡」
完全に川遊びに夢中である。
すると。
以前レイへ石を投げた少年が、少し困った顔で川辺へ来た。
名前はナン。
「……レイ」
「のだ?」
「その……」
ナンは少し言いづらそうだった。
「うちの畑、また石出てきてさ……」
「のだっ♡」
レイは即笑顔になった。
「任せるのだぁ♡」
ナンがほっとした顔をする。
数週間前ならありえなかった。
怖くて話しかけられなかったのだ。
しかし今は違う。
レイはちゃんと手伝う。
しかも、妙に気前がいい。
魚数匹とか黒パンで普通に働く。
「のだぁ♡」
レイは川から上がった。
泥だらけ。
髪びしょびしょ。
しかし超元気だった。
「働くのだぁ♡」
「遊んでたのに?」
「遊びと労働を両立するのだっ♡」
意味不明だが本人は真剣である。
すると後ろからサモサもやってきた。
「また川入ってる……」
「のだっ♡」
レイはどや顔。
「吾輩、水の王なのだぁ♡」
「絶対違うと思う」
サモサは呆れながら笑った。
以前よりかなり自然に話している。
最初は怖がっていたが、今ではだいぶ慣れていた。
なにせレイの魔法は基本的に、
“畑仕事”
“薪割り”
“水路”
ばかりである。
夢もロマンもない。
完全に農奴向け実用魔法だった。
「のだぁっ♡」
レイは急に地面を叩いた。
どごごごごっ!!
「うわっ!?」
土が盛り上がる。
そして。
小さな土ゴーレムが現れた。
「おおー!!」
子供たちが歓声を上げる。
最初の頃は悲鳴だった。
だいぶ進歩である。
「のだっ♡」
レイは超得意げだった。
「見ろなのだっ♡」
小型ゴーレムがよろよろ歩く。
そして。
ころん。
勝手に転んだ。
「…………」
一瞬静寂。
次の瞬間。
「ぎゃはははは!!」
子供たちが大爆笑した。
「弱っ!!」
「転んでる!!」
「のだぁ!?」
レイはショックを受けた。
「ちゃんと歩けなのだぁ!!」
どごっ。
軽く土を叩く。
するとゴーレムはまた立ち上がる。
しかし。
よろよろ。
ぼちゃん。
今度は川へ落ちた。
「のだぁあああ!!」
さらに大爆笑。
レイもつられて笑い始める。
「ぷぷっ♡駄目なのだぁ♡」
完全に普通の子供たちだった。
泥だらけで。
笑って。
走り回っている。
「…………」
遠くでそれを見ていた農奴たちは、少し不思議そうな顔をしていた。
数週間前。
村はかなり怯えていた。
魔法。
貴族。
異常。
しかし今。
子供たちは普通にレイと遊んでいる。
理由は単純だった。
毎日顔を合わせるから。
毎日泥だらけだから。
毎日、
「お腹空いたのだぁ」
と言ってるから。
結局、レイは農奴の子供なのだ。
「のだぁあああ!!」
レイはまた走り出した。
「次は鬼ごっこなのだぁああ!!」
「待てぇ!!」
子供たちが追いかける。
夕陽の中。
泥だらけの子供たちが笑いながら走っていく。
その中心で、レイはケラケラ笑っていた。
土魔法なんて使っていても。
今のところ、やっぱり中身はただの悪ガキだった。




