13 レイのサービス
夕陽が畑を赤く染めていた。
春とはいえ空気は冷える。
農奴たちはそろそろ家へ戻る時間だった。
「のだっ♡」
一方レイは。
まだ元気だった。
どごごごごごっ!!
最後の石を端へ吹き飛ばし、満足げに腰へ手を当てる。
「完成なのだぁ♡」
サモサの畑は、数時間前とは別物になっていた。
石だらけだった地面は綺麗に整えられ、水路まで掘られている。
農奴の大人一人では数日仕事だった。
「…………」
サモサは呆然としていた。
「すごい……」
「のだっ♡」
レイは超得意げだった。
「吾輩、超有能農奴なのだぁ♡」
「それ自分で言うんだ……」
「当然なのだっ♡」
レイは胸を張った。
完全に調子に乗っている。
しかしその時。
レイはふと気づいた。
「…………」
サモサ。
かなり美少女である。
まだ五歳なので全体的にちっちゃいが、それでも顔立ちはかなり整っている。
灰色の大きな目。
白い肌。
細い髪。
しかも今日は珍しく笑っている。
「…………」
レイは真顔になった。
そして。
「のだっ♡」
急にやる気を出した。
「サモサ!」
「え?」
「特別サービスなのだぁ♡」
「……?」
どごごごごごごっ!!
突然、地面が揺れた。
「きゃっ!?」
サモサが飛び上がる。
土が盛り上がる。
石が集まる。
そして。
人型が形成された。
「…………え」
土ゴーレムだった。
しかも二体。
以前暴走した時よりかなり小さいが、それでも十分異常である。
「のだっ♡」
レイはめちゃくちゃ得意げだった。
「働けなのだぁ♡」
ゴーレムたちが動き出す。
ずしん。
ずしん。
そのまま森の方へ向かう。
サモサは完全に固まっていた。
「えっ……えっ……」
怖い。
やっぱり怖い。
農奴にとって、動く土人形など悪夢に近い。
しかし。
数分後。
ばきぃっ!!
森から凄まじい音が響いた。
「のだっ♡」
レイは超笑顔だった。
「薪割りなのだぁ♡」
「…………」
ばきっ!!
ばきぃっ!!
ゴーレムたちは丸太を叩き割り始めていた。
農奴にとって薪は命だ。
煮炊き。
暖房。
冬越え。
だが薪割りはかなり重労働である。
特に子供や女にはきつい。
「のだぁ♡」
レイはどや顔だった。
「美少女サービスなのだっ♡」
「び、びしょうじょ……?」
「うむ♡」
完全に意味も分からず使っている。
しかしレイなりに、
“可愛いからちょっと多めに手伝う”
くらいの感覚だった。
「のだっ♡」
さらにレイは調子に乗った。
「吾輩は優しいからなぁ♡」
どごん!!
ゴーレムが巨大な丸太をへし折る。
サモサがびくっと震える。
「…………」
怖い。
でも。
便利すぎる。
今まで父親が斧で半日かけていた作業が、一瞬で終わっていく。
しかもレイ本人は超楽しそうだ。
「のだぁ〜♡」
ゴーレムへ命令しながらケラケラ笑っている。
完全に悪ガキだった。
やがて。
薪の山が完成した。
「のだっ♡」
レイは満足げに頷く。
「完璧なのだぁ♡」
サモサは呆然としていた。
「……こんなに」
大量だった。
普通の農奴家族ならかなり助かる量である。
「のだっ♡」
レイはふんぞり返った。
「うむ!家までは自分で運びたまえぇ!」
「えっ」
「あーはっはっは!!」
めちゃくちゃ偉そうだった。
「吾輩はママの夕食が待ってるのだぁあああ!!」
農奴の子供らしい理由である。
腹が減っていた。
今日はかなり魔法を使ったので、いつも以上に腹が減る。
「のだぁ♡黒パンなのだぁ♡」
完全に夕飯のことしか考えていない。
するとサモサが慌てて言った。
「ま、待って!」
「のだ?」
「……ありがとう」
小さな声だった。
「ほんとに助かった……」
「のだっ♡」
レイはにやにやした。
感謝されるのは普通に嬉しい。
しかも美少女。
五歳児ながらかなり満足感が高かった。
「当然なのだっ♡」
レイは胸を張った。
「吾輩、超働けるからなぁ♡」
「……変なの」
サモサは少し笑った。
その顔を見て。
レイはまたちょっと調子に乗った。
「のだっ♡」
そして。
どごごごごっ!!
帰り際に無駄に小さいゴーレムをもう一体作った。
「おおー……」
サモサが目を丸くする。
するとレイは超得意げに言った。
「薪運び補助なのだっ♡」
小型ゴーレムが、よろよろ薪を持ち上げる。
妙に可愛い動きだった。
「…………」
サモサは思わず笑ってしまった。
やっぱり怖い。
でも。
レイは、貴族たちの魔法使いとは少し違う。
少なくとも。
畑を耕しながら黒パンの話ばかりしている魔法使いなど、他に知らなかった。
「のだっ♡」
レイは満足げに頷く。
「では帰るのだぁ♡」
そして。
泥だらけのまま全力疾走で帰っていった。
「ママぁあああ!!ご飯なのだぁあああ!!」
遠くから叫び声が聞こえる。
サモサは薪の山を見た。
それから、小さなゴーレムを見る。
土の人形は、ぎこちなく薪を運んでいた。
「…………」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
サモサは笑っていた。




