12 サモサ回
昼下がり。
春の畑はぬかるんでいた。
「のだぁっ♡」
レイは超ご機嫌だった。
どごごごごごっ!!
土が盛り上がる。
石が吹き飛ぶ。
畝が綺麗に並ぶ。
「うむ♡今日も文明的なのだぁ♡」
完全に調子に乗っている。
農奴の子供なので、“仕事が楽になる”という一点だけで土魔法への好感度が限界突破していた。
「ぷぷっ♡人力、効率悪すぎなのだぁ♡」
五歳児とは思えない煽りである。
しかし。
その時だった。
「……レイ」
「のだ?」
振り向く。
畑の端に、小さな女の子が立っていた。
レイと同じくらいの年齢。
痩せている。
服もぼろぼろ。
だが、かなり整った顔立ちだった。
銀色に近い淡い髪。
大きな灰色の目。
農村では妙に目立つ美少女だった。
名前はサモサ。
「のだぁ?」
レイは首を傾げた。
サモサは普段かなり大人しい。
最近は特に、レイを避けていた。
村の子供たちは皆そうだ。
魔法が怖いからである。
「…………」
しかし今日は違った。
サモサは怯えながらも、ちゃんとレイの方へ来ている。
「なんなのだぁ?」
「……お願いがあるの」
声が小さい。
レイはさらに首を傾げた。
「魚ならないのだぁ」
「違う」
サモサはぎゅっと服を握った。
かなり緊張している。
そして、小さく言った。
「……お父さん、倒れちゃったの」
「のだ?」
「熱が下がらなくて……起きれないの」
レイの表情が少し変わる。
農奴にとって、“働けない”はかなり重い。
村では一人倒れるだけで生活が崩れる。
「だから……畑……」
サモサは俯いた。
「……少しだけ、手伝ってほしいの」
レイはきょとんとしていた。
「のだ?」
「お母さんには内緒で来たの」
「なんでなのだぁ?」
するとサモサの肩がびくっと震えた。
「…………怖いから」
「のだ?」
「お母さん、言ってた」
サモサはさらに声を小さくした。
「魔法使いには近づいちゃ駄目って……」
「…………」
レイは少し黙った。
農奴たちは、貴族を恐れている。
特に魔法持ちは別格だ。
逆らえない。
理解できない。
怒らせたら終わる。
だから母親が怖がるのは当然だった。
「でも……」
サモサは必死だった。
「畑、終わらないと……」
春の農作業は遅れると致命的である。
種まきの時期を逃せば、冬に飢える。
「お父さんいないと、全然終わらなくて……」
目が少し赤かった。
たぶん泣いていた。
「…………」
レイは土だらけの手を見た。
それから畑を見る。
自分にとっては簡単な作業だ。
土を動かすだけ。
でも農奴にとっては、数日単位の重労働。
「のだぁ」
少し考える。
そして。
「いいのだっ♡」
即答した。
サモサが固まる。
「……え?」
「やるのだっ♡」
「ほ、ほんとに?」
「当然なのだぁ♡」
レイは妙に偉そうに胸を張った。
「吾輩、超高性能農奴だからなのだっ♡」
意味不明である。
しかしサモサはほっとした顔になった。
「……ありがとう」
「のだっ♡」
レイは超ご機嫌だった。
頼られるのが嬉しいのである。
農奴の子供らしく、完全に“労働力として評価された”感覚だった。
「案内するのだぁ♡」
「う、うん」
二人は村外れの畑へ向かった。
途中、サモサはずっと周囲を気にしていた。
誰かに見られていないか。
母親にバレないか。
その理由は単純だ。
農奴にとって、魔法持ちは怖い。
便利とか以前に、“支配者側の力”なのである。
だから普通は頼らない。
頼れない。
しかし。
腹は減る。
畑は待ってくれない。
それが農奴だった。
「ここなの」
到着した畑はかなり荒れていた。
石も多い。
土も重い。
しかも途中までしか終わっていない。
「のだぁ……」
レイは真顔になった。
「かなりヤバいのだぁ」
五歳児の感想ではない。
「うっ……」
サモサは泣きそうになった。
「ご、ごめん……」
「のだっ♡安心するのだっ♡」
レイは突然調子に乗った。
「吾輩が来たからには超余裕なのだぁ♡」
どごごごごごっ!!
地面が揺れる。
「ひゃっ!?」
サモサが飛び上がった。
やはり怖い。
魔法は本能的に怖いのである。
だが。
次の瞬間。
大量の石が一気に端へ吹き飛んだ。
「…………え」
さらに。
土が勝手にひっくり返る。
畝が整う。
水路が繋がる。
「のだっ♡」
レイは超楽しそうだった。
「働けなのだぁ♡」
どごごごごごっ!!
畑が一気に変わっていく。
サモサは呆然としていた。
「…………」
怖い。
でも。
凄すぎる。
父親が何日もかけていた作業が、一瞬で終わっていく。
「のだっ♡」
レイは土だらけになりながら笑った。
「うむ♡豊作確定なのだぁ♡」
完全に農奴目線だった。
サモサは少しだけ笑ってしまった。
「……変なの」
「のだ?」
「普通、魔法使いってもっと怖い感じだと思ってた」
レイはきょとんとした。
「のだぁ?」
それから真顔で言った。
「吾輩、怖いよりお腹空く方が嫌なのだぁ」
「…………」
サモサは少し黙ったあと。
小さく笑った。
「……それ、ちょっと分かる」
風が吹く。
夕陽が畑を赤く染めていた。
そしてレイは。
「のだっ♡次はあっち耕すのだぁ♡」
完全にテンションが上がり切っていた。




