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Nocturne -夜想曲-  作者: 浅見カフカ


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第二十話 医務室

耳が使い物にならない。

うつ伏せで目を閉じていたので、閃光に網膜を焼かれることはなかった。

キーツ達に銃を向けていた連中は、放心したり、パニックになったり、這い出ようとしたりしていた。

一発、二発、三発——

銃の反動と血飛沫で手応えを感じた。

同時に私も上体を起こしたせいで、出血量が増えていた。

鬼堂の姿を目で追ったが、何処にも見当たらなかった。

歯の根が合わない。

寒い。

正直もう、視界が滲んでいた。

キーツは上手く逃げられただろうか。

なんて言ったっけ、あの詩。

パンと水と塩——

私の命と等価か......ビールだな。

冷たい本物のや——



夜の街を歩いていた。

黒系のブラトップにシアー素材のカットソーが夜風に心地いい。

白のバギーデニムにチャンキーヒールの靴音が、リズミカルに音を立てた。

うん、やっぱりこの街の夜は綺麗だ。

色鮮やかなネオンに、煌びやかな女の子達。

もちろん自分もその中の一人だと思うと胸が高なった。

今夜はクラブの招待イベント。

地下へ降りる階段の先。

数人が並ぶ列の後ろについた。

私の番——

黒服が立つ入口でチケットを出した。

黒服は私のチケットを手に取ると、ほんの短い時間見詰めた。

そして首を振ると、私のバッグを取り上げた。

「ちょ、何するのよ」

取り返そうと伸ばした手首を、易々《やすやづ》と掴まれて何かを握らされた。

重たい。

拳銃だ——

そう思った瞬間、私は別のドアから皆とは違う所に放り込まれた。

アーチ型の天井の石畳の通路。

レンガを積まれて作られた古いもので、所々水が染み出ていた。

天井からぶら下がる蛍光灯は、頼りなくチカチカと瞬いていた。

歩いた先に扉があった。

サビの浮いた鉄の扉。

触れた指先に、鉄錆の嫌な臭いがついた。

嫌なのは臭いからなのだろうか?

何かを思い出しそうな、嫌な臭いだ。

体重を乗せて押した。

扉は重く軋んだ音を立てながら、ゆっくりと開いていった。

先は、同じ景色の通路が続いていた。

どうして、私はここに居るのだろう。

どうして、皆と同じ入口を通されなかったのだろう。

暗澹あんたんとした思いが首をもたげた。

また次の扉が見えた。

木の扉......いや、戸という方がしっくりくる。

ドアノブを回すと、カチャリと小さな音を立てて開いた。

見える景色は相変わらず変わらない。

染み出た水が落ちる雫とチャンキーヒールの靴音だけが響いていた。

ふと右手の重みが気になった。

ああ、グロックだ。

——?

どうして私はこの銃の名前を知っているのだろう?

その前はこの右手に何を持っていただろう?

いや、グロックに決まっている。

我ながら、おかしなことを考えてしまった。

また先に何かが見えた。

丁度、視界の高さ。

薄いレースのカフェカーテンがあった。

指先で払うように避けて潜った先には、おびただしい死体が転がっていた。

時折動くのも居た。

それらは動かなくなるようにした。

破裂音は耳に痛かった。

硝煙の匂いは、立ち込める鉄錆の臭いを消してくれて好きになった。

グロックがブローバックのまま動かなくなった。

弾が無くなったみたいだ。

私は興味を無くしてそれを放り捨てた。

金属がぶつかる音を想像していたが、耳に届いたのはそこまで響く音ではなかった。

光が見えた。

長い通路の出口だ。

もう仕切りは無さそうだ。

数歩進んだ私の脚に熱を感じた。

勢いで踏み出したが、身体を支えられずそのまま倒れた。

錆びた鉄の臭いが鼻腔を満たした。

血が止まらない。

目の前の出口に肘を腕を這わせて進むが、身体が重たかった。

後ろを振り向いた私の目に、無数の死人が脚にしがみついているのが見えた。

そしてそのまま石畳の下へ私は沈んで行った。



「リヤ!」

目を覚ますとLEDの無遠慮な光と、見知ったキーツの顔があった。

「地獄には行かせてもらえなかったよ。亡者どもが現世で苦しめとさ」

どうやら本社には『まだ使える』と判断されたらしい。

00番処理場横にある医務室。

どちらに運ばれるかは、生死が理由ではない。



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