コード303「魔列車へ飛来する複数の影」
第303話
前回、密室事件の謎が解明して
「で、それじゃあ、何故カナリーさんのフリをしていたんだ? 本人は一体どこにいるんだ? ルイナの目的は何」
それを聞いたのは、天音ユウリだった。流石は勇者の一人。聡い女である。
――ピクリ、とその場にいた二人の心魂が、同時に微かに強張った。一人は足を組みながら不敵に微笑むルイナ。もう一人は、甲冑をその身に包みながらその話がちらっと聞こえていたマイナール。
「ボクの目的……か。それは……この場ではあまり言いたくないな。出来れば、そうだな……ソリナメンバーだけで聞いて欲しいところだ。これは……ボクたちの問題だろう?」
つまり他の冒険者には聞かれたくない。間接的に関係がないと言っているようなものだ。
(ソリナメンバーに話すのはやぶさかではあるが、バレてしまったからにはまあ仕方ないだろうな。……それよりもだ。本人が居る前で話したくはないな……普通に恥ずかしい)
「なるほど。分かった。街に戻ったら部屋でじっくり聞かせてもらう。はぁ……、逃げるなよ?」
「それは無い。ボクは逃げない。カナリー姉さんにかけて。必ず」
そういうルイナの目は揺らがなかった。さっきまでの態度からは大違いであり、真剣そのものだった。
「……まあそれなら良い。楽しみにしてる。よし、それならルイナも車両点検に参加してくれ」
「あぁ、わかっ――」
(マスター、未確認の飛行物体が二つこちらへ来ます!)
ナハトがルイナの脳内でアラートを響かせている。
(ん?あぁ……それなら、ボクの信号をキャッチした姉妹の誰かだろう。そう焦る事は……あ、いや、確かにまずいか?姉さん似の人が更に増える……混乱するか?)
だが、ナハトからの返答は思いもしないものだった。
(いえ、違います。これはカナリー様やそれら存在とは違うものです。人種族ではありません。これは……魔物に近いものです!)
――起動完了。現場へ急行します。
二つの影が魔列車が見える場所まで飛来する。
「……現場、到着しました。試獅ライオロイド、問題なく稼働中」
「こちらも問題なく到着致しました。試霊レイスロイド、任務を開始します」
一体は重戦士のような甲冑を着た獣人に見えるクローガントレットを装着し大きな両刃戦斧を持った試獅。
一体は漆黒のローブフードを着た半透明の体の輪郭を持ち体内でエネルギーが巡っている試霊。
二体とも、魔列車をじっと見つめ、動かない。
「……まずいな。おい、天音ユウリ。ドラゴロイドの時の話を聞いてもいいか。ナカが倒したっていう」
天音ユウリやナカ、黒見藍達がその姿を視認する。シィルトレイル地方で出会った強敵、ドラゴロイドのオーラによく似ている。
「なんで……くそ、ドラゴロイドの時でさえ大変だったのに、今こいつらと戦う余裕は私達にはない。マイナールさんは……今は休息が必要だろうし……」
マイナールの方を見て、何故か決めつけている。
「ん?いや、私は……」
(いや、待って……さっきみたいにまた魔力を使ったら……大魔女さん達に怒られちゃうかも……バレないようにって言われたのに……。ん?あれ……もしかして、今来てるのって、管理者側の……あ。まずいかも……でもでも、このままじゃ……)
頭を抱えて動揺している。マイナールが。
「あなたは無茶をしないでくれ。さっきあんなに魔力を一瞬で放出していたんだ。もう魔力は残ってないだろう。やっぱり、ここは逃げの一手だ。魔列車を強引にでも動かせ! 冒険者全員で整備を終わらせるぞ! それから、動ける者は防御の準備も!」
黒見藍と、ナカが大急ぎで準備に取り掛かる。
「あ、あの! 私、またリミッターを……!」
「バカ! あの時のをまた使わせるわけがないでしょ! あの時、まじで大変だったんだから!」
天音ユウリがナカに本気で怒っているが、その本質は優しさからだった。
「で……でも!」
「でもとかだって、禁止!」
天音ユウリがナカの頭を撫でながら諭す。
(クソ……なんでだ……なんであんな奴らが今出て来たんだ? 考えろ……)
ルイナは思考に集中しているが、答えは出ない。
(あわわ……絶対、私のせいだ……バレたんだ……バレちゃったなら……もう、隠す必要も無い?でも……)
そんなカナリーに大魔女からの天啓が降りる。
("マイナール、いやカナリー。貴方があの試練の相手をする事は許可出来ない")
悔しい。どうして、私はまだ出来るのに。でも……あの相手をすると、確信させてしまうから……それは私も分かってる。本当に誰かが危なくなったら……絶対出るから。それでも良いなら。
カナリーは大魔女を相手に交渉をしていた。
そんな中、一歩前に踏み出した者が居た。
「私が出るよ。まだ、魔弾も残ってるし、なんとかする」
リーナだった。マイナールの方が少し気になっている様子だが、思考を切り替える。
(多分、カナリーさんも同じことするだろうから……そんなに強いなら、この身を捨ててでも……)
「ダメだ。許可出来ない。全員で生きて帰るんだ!」
場が乱れ始めた。リミッターを外そうとする者、身代わりになろうとする者、思考する者。
「あぁぁぁ~~!! もう! 私の話を聞いてってば!!」
天音ユウリのいつもみたいな厳格な言葉遣いが消える。等身大の女子高生の彼女の姿だった。
(どうしよう……どうする? このままじゃ……)
試獅と試霊の二体が動き始め、こちらへ攻撃モーションへと入る。
「「試練を開始する」」
「試獅戦斧魔術<スペル・偽獅之斧>」
「試霊念力魔術<スペル・偽霊之念>」
魔力を帯びた戦斧の斬撃と、透明な手から念力波が放出され、魔列車に向かって襲い掛かる。
(まずい! あれが当たったら、魔列車が大破する……! 退路が断たれ……)
そこへ、二つの影が着地する。一人は光輪を持つ少女が空から。もう一人は龍麟を持つ少女がダッシュで魔列車の前へ砂煙を舞い上がらせながら地面を削る。
「天光解放!!」
「龍流解放!!」
四つのエネルギーがぶつかり合い、相殺される。
「ルイナ、来たよ。あなたが助けを求めるなんて珍しいね」
「ちょうど近くに居たから、ダッシュで来た。敵ってあれ?」
一人はエルナ・イリデセント。カナリーの欠片であり、天使種である。
「(あ、呼んだの忘れていた。でも……)タイミングばっちりだ。私の計算通りだな……ふふふ」
「私が出てるってことは……あ、これ想定外なんだ。じゃあ、ルイナが呼んだ時のは既に倒してて……こいつらはまた違う奴なんだね」
エルナはルイナが少しだけ動揺しているのが分かっている。ルイナが焦ったりすると、素の『私』が出て来ることを。
「ま、どっちでも良いけど、あたしはどっちを相手すればいい?」
龍人種のカナリー似の少女がエルナに問う。
「リティシア、久しぶり。そうだね……それなら、あっちの重戦士の方を任せた。あなたそっちの方が好きそう。私がローブの方を相手するね」
エルナは龍人をリティシアと呼んだ。リティシアもカナリーから欠けた姉妹の一人である。
「お、分かってるじゃん! あたしがあっちね。よーし、腕が鳴って来た~! じゃ、ここからはさ……」
「「私達に任せて!」」
試獅&試霊vs天使&龍人。
「OK、整理しよう。ボクたちは逃げに徹するさ。ボクは戦闘は不向きでね。姉妹に任せるとするよ。頼んだ」
(マスター、よろしいのですか。カナリー様がすぐそこに居るのに、お伝えしなくても?)
ナハトがルイナに向けて脳内で問いかける。
(今は動揺させたくはないからな。それに、姉さんは正体を隠している。何か意味があるんだろう。それなら、今は言うべきではないと判断した。でも、もしバレた時、きっとボクは色々と言われるだろうな。ま、その時の覚悟は出来ているさ)
(……了解致しました。マスターの思うままに)
「良し! 増援も来た事だし、今は、魔列車の整備及び、発進だ! みんな、急げ!」
ルイナが気持ち良く皆に号令をかける。
「もう! ルイナに言われたくないんだけど!! あぁ~! 分かった! 私もやるから!」
天音ユウリは頬を膨らませながら渋々ルイナに従うように動き始めた。
エルナとリティシアの二人は、試獅ライオロイドと、試霊レイスロイドを見つめながら各々、エネルギーを溜めていた。
エントロティ・スカイを無事倒した後に試練がやってきましたね。
ライオロイドとレイスロイドの二体はドラゴロイドの近縁種と言うか、簡単に言えば、管理者側の個体です。ちなみに言っておくと、ドラゴロイドの時よりも強化されています。あの時はナカに反応し、今回はカナリーに反応して出てきていますが、何故そのような事になっているのか。
レティシア
カナリーズの姉妹の一人であり、龍人種です。
彼女は龍流と呼ばれる特別な力の解放方法を持っているようです
今回はたまたま近くに居た為、救難信号をキャッチしやって来てくれました。
次回、試獅&試霊vs天使&龍人です。
第303話、読んでいただきありがとうございます。




