コード302「魔列車密室事件の解」
第302話
前回、マイナール(カナリー)が解決してから
エントロティ・スカイが小さな魔女に再構築され、マイナールの腕の中で寝息を立てながら眠りにつく。
(一旦、隠しておこうかな。これにてクエストもクリアだし。この子が皆に見つかったら何されちゃうかわかんないもんね)
魔破片、透明化。魔女を綺麗に覆い、その存在を隠匿する。皆が喜びあってる裏でマイナールは自然にバレないようにコールへと託す。コールは魔女種の少女を自然におんぶする形を取る。
「それにしてもそんな強い人なら、冒険者ランクもかなり上……いや、最上位だろうが、マイナールだなんて名前……聞いた事が無いな。もし良かったら、冒険者ランクを見せてくれないかな?」
ローンが冷静にマイナールへ問い質す。その目は少しだけ揺れていた。
「……んん、分かりました。見せますが、恥ずかしいので……見たらすぐ返してくださいね?」
マイナールは自身の冒険者カードをローンに渡し、皆が後ろからローンを覗き込んだ。
「多分、ブラックランクだろうぜ。そうじゃなくても、ゴールドランクは行ってるはず……は?」
マイナールの冒険者ランクは、シルバーランクだった。全員がそれを疑う。
「は? いやいや、有り得ねぇって! せめて、シルバーランク+だろうが! あれでシルバーランクは絶対ちげぇよ」
リーナとウミューシーもこの場にやって来る。マイナールは兜を閉じて、顔を隠した。カナリーの顔とはまた違う顔にしているが、念には念を入れることにする。
(……ごめんね、リーナさん。今はまだ……もう少しやる事があるから)
「冒険者になったのが最近でして、少し前まで魔術士をしていましたので……」
更なるローンの追及がマイナールを襲う。
「嘘、ですね。魔術士ではなく、魔術師ならまだ分かりますが……」
困ってしまった。別に特段何かを隠しているわけでもない。だって、冒険者になったのは数ヵ月前だし、シルバーランクに上がったのもつい最近。そんな中で、紫青龍だなんて、気になるドラゴンが現れたなんて聞けば、居ても立っても居られなかった。
またメイスィさんが暴れ出したのだろうか。それなら、再び魔鏡想で元に戻さないとと思ったのだが、実際はメイスィさんじゃ無かった。乗り掛かった舟だった為、そのまま同行してただけ。なにより、リーナさんが居たから、ほんの少しでも顔を見たかったから……
「嘘じゃありません……、本当に。あ、いえ……えっと。違う。嘘なんかじゃない。私はつい最近冒険者になったばかりだから。嘘を言う必要が無い」
マイナールとして、喋った事があまり無いからボロが出そうだ。素の喋り方が出そう。マイナールの個人設定は、無骨な鎧の魔術士が冒険者になったらっていう体だから。
「えーっと、あんまりこの人を虐めないであげてください。冒険者になったのが最近なのは本当ですし、私が証人です!」
コールが助け舟を出してくれる。のだが、それは悪手であった。
「こいつ、マイナールの連れだろ? なら、裏で口裏合わせてんだろ! 嘘つくな! 正体を言え!」
「そうだそうだ!」
そんなやり取りを遠目にソリナ達はみんなで事後処理をしていた。
「あのキノコの魔物は消滅したのでしょうか。不思議な魔力が漂ってますけど……」
「調べる必要がある……が、少し時間がかかりそうだな。駅舎に現れていた紫青龍と、キノコの魔物?魔女?の関連性についてと、魔物の大量発生についてだな。報告書がまた厚くなりそうだな……魔列車の状態も見たい。もし動きそうなら動かして帰るぞ。みんな、手伝ってくれ」
ソリナメンバーが魔列車の点検作業に入り、動くかどうか調べている。
「これは……ブレーキが使えませんわね。ダメです。危険ですわ」
笠井は魔列車のブレーキレバーが無くなっている事に気が付く。
「それなら、直せないかどうか見てみよう。あー、こういう時、橘さんか、円城さんが居ればなぁ……」
橘環菜は錬金スキル、円城弥生が形成系スキル。この二人が居れば、魔列車の修理も早く出来ているだろう。
マイナールが困っているとルイナがその輪の中に入り、マイナールの味方をする。
「まあまあ、この人のおかげで全員何事もなく、クエストを終われたのだから良いじゃないか。それに人間誰しも隠したい事の一つや二つあると思うが」
ローンが顔を背ける。が、他の冒険者の皆はそれは大してダメージになっていなかった。マイナールを擁護した人物が悪かった。ルイナ。カナリーのフリをしていた人物。そして先ほど、高笑いしており、エントロティ・スカイに操られてしまった人物。
「お前、さっき密室事件の時、疑われた奴だろ。変装までしていた。怪しい。いや、怪しいなんてものじゃない。お前が犯人だろ。車両を守るフリして結局証拠隠滅しただろ」
ルイナは分かっていた。それを追求される事を。確かにあれは証拠隠滅でもあった。何とか言い逃れるのではなく、本当の事を言う時が来た。
「はぁ……その件、だよね。分かってるさ。オーケー最初から説明しようか。ボクは最初、樽の中に入っていた。元からね」
つまり、ルイナは最初からずっとこの魔列車に乗っていたことになる。
「……あ、もしかして、私が酒樽を見てる時、視界の端に何か横切ったのって、あれってもしかして、ルイナさんだったの?」
「あぁ、あの時、空樽の中に居たボクが見つかるかもしれなかったからね。かなり焦ったよ」
ウミューシーは整備の時にニアミスをしていたらしい。見つかりそうになったからさっと逃げたようだ。
「なんとなく分かったが、で? なんで密室事件を起こした? あれは誰の遺体だ? 全部正直に言えよ」
ウーズが腕を組みながらルイナを威圧しながら問い質す。
「それは、君たちが酒を飲むと予想していたからさ。最初からね」
ルイナは魔列車内の長椅子に腰掛けながら足を組む。
「……は? なに?最初からだと?それと密室事件のなんの関係が……」
ルイナは少し楽しそうに真相を語り始める。
「酒を飲むのは既定路線。ならどうやって酔いを醒ますか。それを考えた。水を飲ませる? 多少気持ち程度、楽になるだろうが、無理だろうね。その後、ワタシは考えた。『みんなをビックリさせれば、醒ませられるんじゃないか?』ってね。じゃあ、どうやって?と思った時、幻術で偽物の遺体を作り出せば、皆の酔いが醒めるんじゃないか。アドレナリンが出ればいいんじゃないかってね」
偽物の遺体をでっちあげる事で酔いを醒ます作戦に出たという事になる。それは結果だけを見れば、大成功だった。全員が疑心暗鬼となって酔いが醒めたのだから。
「……そ、それは……そうだけどよ、全員が犯人扱いされ、その後に本当に乱闘になっていたらどうしていたんだよ! その可能性だってあるだろ!?」
反論がやってきた。確かに、パニックとなって、誰かが誰かを弾圧し、乱闘が起こっていた可能性だってある。だが……
「それは、無いね。何故なら、そもそもここに居るのはシルバーランクの冒険者達。少なくともその場で感情に任せて誰かを犯人に仕立て上げるような、拙い真似はしないはずさ。まずは縛り上げて話を聞き、そして、最後に街に連行するはず……そもそも、魔物の群れがやってきていると知っていたからね。計算してどこで実行すれば、魔物の群れにぶつかるか分かっていたさ」
「……そ、そんなの、結果論だろ! それに仮にだ、仮に俺達が真相に近付いたとして、お前に辿り着いて、お前だろ! ってなってたらどうしていたんだよ!」
「今がその時じゃないのかい? でっち上げました。すみませんでした。今後は、そちらも大事なクエスト中に酒を飲まないようにね。っていうだけなのではないのかい?」
ウーズ達は声を詰まらせる。最初に酒を飲むとバレていた。いや、予想されていた。まんまと飲んでしまったのはウーズ達冒険者だ。ルイナはそれの解決策を用意したに過ぎない。
「理屈は分かった……だが、過剰だったんじゃないのか!? あんなの趣味が悪いぜ……俺らを陥れようとしていたんじゃないのか? あぁ?」
はぁと一つため息が漏れる。
「過剰。ね。それなら、君たちは酒を飲んで、酔いを醒ます方法はあったのか? 酔った状態で魔物と戦い、命を落としていたかもしれない。酒を飲んでない者達の邪魔をして全滅していたかもしれない。あぁ、ボクは趣味が悪いさ。狂人にでもなろうじゃないか。結果論? あぁ、そうさ。博打だよこれは。だが、ボクは博打に勝った。結果的に君たちの酔いを醒ませたし、それに、緊張感を持たせる事にも成功した。大満足さ。文句があるならボクの掌の上で踊った事を悔やんでからにするといいさ」
何も言えない。事実。事実だから何も言えない。緊張感を持たせる為、それは事実として効果てきめんだったことも当たっている。殺人事件は本当は無かったが、それがあったと聞けば、次は自分かもしれないと。そう思った時には一気に醒めていたから。
「……ちっ。わーったよ……俺らが悪かった。クエスト中に飲むのはもうやめるさ……くそ。これからは、気ぃ引き締める。趣味悪いぜやっぱお前。で、あの遺体は幻術だったのか? まさか、本当の遺体を使ったとか……」
「遺体? あぁ、あれはボク自身だよ。ボクが遺体の代わりとなっていただけの事さ。趣味が悪いだって? はっはっは! 結構結構。ボクは狂人とよく言われるからね。だが、謝る相手はボクに対してじゃないだろ。謝るなら他の冒険者にだろ。狂人に謝る必要はないさ」
「クソが。てめぇ、ホントに趣味悪いな。自分に幻術をかけていたなんて……はぁ、他の冒険者の皆さん、本当にすみませんでした。俺達が悪かったです。これからはこういった事はないように努めます」
ウーズ達、酒を飲んだ冒険者達が酒を飲んでない冒険者達に頭を下げ謝った。
「これからはそういった事が無いように。ルイナさんのやった事はグレーゾーンだが……、実際ああいう手法じゃなければ、酔いを醒ます事は出来なかっただろう。感謝する」
ローンもルイナに頭を下げていた。
魔列車の密室事件の真相は無事に分かりました。
ルイナは自分自身を遺体にでっち上げて、博打を打っていたという事になります。
全てを計算し、銃声を鳴らし、全員の意識をこちらに向けさせ、酔いを醒ます事が出来た。
ルイナはギャンブルに勝つことが出来たという事ですね。
ルイナは積み荷を運び込む作業で大量に積み込んでいるのを見た時点で大方察しがついていたらしいですね。
単純な戦闘能力では、ルイナはミナリーやエルナには勝つことが出来ません。が、チェス等の頭脳戦では負け無しと言うキャラクターになりますね。他国では、リアリティア教授等と呼ばれていたとか。ですが、ルイナは根底に優しさがあり、彼女は悪戯が大好きという趣味もあります。そこが相まって、今回、仕掛けたと言う訳ですね。
ちなみにですが、ルイナがカナリーのフリをしていたという事実を逸らせる為にこの真相を話したという思惑もありました。それもこれも、全てが計算ずくだったと言う訳になります。末恐ろしいですね。それから、途中『ワタシ』と言う一人称が出ていますが、これも伏線の一つです。間違えられる可能性を考慮してここでお伝えしておきます。
第302話、読んでいただきありがとうございます。




