コード301「マイナール・オルヴィリウム」
第301話
前回、カナリーが現れて
カナリーは魔力を完全解放しようとしたが、大魔女によって、完全解放はしてはいけないと言われた事とロックをかけられている事を思い出す。
「魔力でのゴリ押しは出来ないけど、少ない魔力でもなんとかしないと」
カナリーはオリヴィアによって制限され、大魔女によって抑制させられている現在、膨大な魔力の使用はできないが魔術の使用不可ではない為、何とか方法を導き出すべく、スキルを使い思考する
<スキル・データ>。脳内処理、光速思考を応用し戦場把握を行う。更にカナリーは逃避旅の中で、編み出した体外に放出する魔力ではなく、体内を循環する妖気を疑似的に編み出している。これにより、体の硬度が元から硬かったカナリーが更に高質化されている。
(把握できた。エントロティ・スカイ。魔力胞子により疑似的に体を作り出してる。これ、私の魔術の魔鏡想に似てるかも?それなら、その胞子をハッキングできれば、無害な魔物に作り替えられるかも。意思とかは無さそう。でも、魔王魔力に当てられて、暴れ出しちゃっただけなんだね。びっくりしただけなんだね。それなら……、助けてあげなくちゃ)
目的は決まった。まず、ルイナを拘束し、エントロティ・スカイを無害化させ、魔列車を止める。その工程を短縮できるなら短縮する。それを一人でこなさなくてはならない。
(ちょっとだけ……疲れちゃいそうだね。でも、頑張ろ。みんな頑張ってるし、それに……リーナさんも久しぶりに見れて嬉しかったな。元気そうだった……今はまだ、他にやる事があるから、会えないけど。元気な姿が見れてよかった)
「……元気、出た! よし! 全部まるっと解決しないとだね!!」
エントロティ・スカイからの攻撃が飛んでくる。岩山を吹き飛ばす程の斬撃。光速思考を駆使し、その攻撃を躱す。その攻撃は、ベアトリクスと戦った時の事を鮮明に思い出す。
「あの時を思い出しちゃうな。あの時は、マナが刺されちゃって……大変だったな。でも、今はこれがあるから」
魔力之魔術<スペル・魔破片>を発動。ひし形の欠片を生成。それがカナリーの周りで回転し、エンティスの攻撃を自動防御する。
「姉さん、私の事も忘れないでね?」
ルイナの幻術も同時に襲い掛かってくる。
「……! 危なっ! ルイナ、ちょっとだけ待っててね!」
エンティスの胞子をどうやってハッキングするか。直接手で触れればハッキング出来るだろうか。こういう時、マナが居れば、即座にハッキング出来ただろうに。でも、今はマナが居ない。マナ頼りは良くない。
今まで、勘違いをしていた。マナが魔力をくれているものだと思っていたが、それは間違いだった。自身の魔力が膨大であった事、それを実感したのは、空感ノ大魔女によって飛ばされてから。マナの接続が切れた感覚があったが、自身の内側の魔力が消えなかった。つまりこれは、自分自身の魔力によるもの。
多段連斬。粉砕された瓦礫をエンティスがカナリーに向けて蹴飛ばすが、カナリーは瓦礫を魔破片で払うように受け流す。
「くぅ……! ごめん! 止められない! 姉さん! 大幻術が発動しちゃう!」
ルイナの周りの幻影が濃くなり始めた。エンティスの胞子による遠隔操作。
――開鏡之大幻術<ハイミスティ・億華域>
ルイナを中心に幻術の世界が多重展開される。それはまるで万華鏡の世界であり、彩りが敷き詰められた光が乱反射し上下左右が曖昧になったかのようない次元空間が生成される。
「お、おお? 綺麗~! 無重力? すごい!!」
エントロティ・スカイ、ルイナ、カナリーの三名が幻術空間に囚われ、空に浮かぶ。丸い球体のようで、実体が掴めない。だが、閉じ込められている。
(<スキル・データ>解析開始。……なるほど。実体がないけど、薄い膜で球体を作り出している。外に行こうとすれば、内側に進むようになっているし、内側に進もうとすれば、外縁を回ってしまうんだね。幻術……。認識を変える技術、すごい。今度教えてもらおうかな。でも、今はどうやって抜け出そうかな)
億華域の中では、作られたものが襲い掛かってくるが、実体がない。通り抜けていく。だが通り抜けると同時にカナリーは体に違和感を感じる。
(……これは、精魔体を直接攻撃する技術。実体を攻撃せずに非実体的なものを攻撃するんだ。つまり……幽霊に自分の幽体を攻撃されているみたいな感じなんだ)
無数の電車が花のように開き、その全てが襲い掛かってくる。
(食らっても良いと思ったけど、精神力が削られちゃうなこれ。ルイナがドラゴンと戦っていた時も、ドラゴン視点、こんな感じだったんだ。そりゃ、勘違いしちゃうな)
魔列車から見て、夜空に万華鏡が出現したように見える。巨大な球体で綺麗だが、同時に恐怖さえも感じられる。神秘的な領域が空に出現していた。
「あの、マイナールってやつ……本当に大丈夫なんだろうか……、ここからじゃ、全く見えないが……」
「きっと大丈夫……信じるしかありません。それより、あと数分でこの列車が脱線してしまいます! 私達でも何かできる事をしましょう!」
ナカが落ち着きを取り戻し、そんなナカを黒見藍や他の勇者達が支える。
「他の魔物の姿も見えないし、とりあえずブレーキとか……いや、脱出方法を考えるべきか」
一方、カナリーは無数の弾幕を掻い潜りながら、エンティスの斬撃を躱している所だった。カナリーは、次の魔術を発動する。
――魔流之魔術<スペル・魔衣風>
鏡の世界に風が吹く。風の衣を纏った少女が、宙を浮かぶ。
「元々、空を飛ぶ術式ではないんだけど、無重力状態だったから疑似的浮遊飛行って感じだけどね。この空間も凄く綺麗だった。ルイナ、また今度見せてね」
カナリーは空を華麗に泳ぎ舞う。楽しそうにその姿はとても美しかった。カナリーは音速飛行を始めながら、別の魔術を発動する。
――魔素之魔術<スペル・魔空針>
一発の針が射出される。本来は、硬い針であり攻撃力抜群の技だ。だが、カナリーは性質変化を会得している。リーナと戦った時、魔破片をクッションにしたように、針も柔らかい綿のように変えてしまう。中央の核を撃ち抜いた瞬間、綿がその空間を内側から3名を押し出した。
「は……ははっ!! 最っ高だよ!! 姉さん! 今まで、その大幻術は壊された事なんてないのに、どうやって壊したの!?」
ルイナはカナリーに大興奮している。
("マスター、恐らくですが、内部を魔術で満たし、我々を弾き出したものだと仮定されます。内側は無限の空間ではなく、移動することで無限を再現していましたからね")
三色の光の軌跡が夜空を覆う。それはまるで、幾何学模様のようにとても綺麗な光景だった。
風を纏い、列車の上に戻ってきたカナリー。遠くを見ると、岩肌をカーブし脱線している個所が見える。このまま突っ込めば、確実に投げ出され、大事故となってしまう。
「そろそろだね……一気に決めたい。やるしかない」
暴走した魔列車が進む。エントロティ・スカイが地面を蹴り、ダッシュする。ルイナは体を操られ、次なる大幻術が発動する寸前である。
「や、やばい!! みんな!! 何かに掴まって!!!」
魔列車の乗客がそれぞれ何かに掴まろうと手を伸ばす。
カナリーの目が開かれ、心魂が煌めく。
「絶対に助ける!!!」
――<スキル・データ>。脳内処理 光速思考
周りの時間が止まったかのように、遅くなった世界が進む。魔列車内の水滴、リーナの汗、舞う埃。グラスに入った水と氷。それらが、超遅延したカナリーの脳内世界でゆっくり進む。
カナリーの中で一つ一つの連星が繋がっていく。道が出来、そして盤面が完成した。
「……出来た。ルイナ、キノコさん、チェックメイト。だよ」
時間が通常通りに戻る。激しい火花と甲高い金属音が辺りに響き渡り、暴風が魔列車を襲う。夜空には億華域の残滓がまるで雪のように舞い散っており、幻想的だった。
魔破片で線路を補強。更に、全ての車両を鎖で繋ぐ。そして暴走した魔列車が脱線してしまう。
「みんな!! 掴まって!!」
第一車両に魔破片で回転機構を生成及び完全固定。これにより、第一車両以外の魔列車が外に投げ出されるが、第一車両が固定されながら、魔列車がドリフトする。
「きゃぁぁぁ!!!」
「やばい!! やばすぎる!!」
「なにこれ! なにこれ! 浮いてる!! 落ち……てない!?」
「死んじゃう! 死ぬ!」
「あっはっはっは!! なにそれ!! もうめちゃくちゃじゃん!! 姉さんは規格外だね!! ねえ! もっともっと見せてよ!! え?」
カナリーは気が付くと、後方の岩山まで一瞬で移動しており、踏みしめている。
「一瞬だけ……一瞬だけだから!!」
一瞬だけの思考。光の速度に近い思考。そして魔力の大解放。
その瞬間、空間が鏡のように割れると同時に岩山が吹き飛ぶ。カナリーが踏み込んでダッシュした。
「ルイナー! ごめん!!」
ルイナを超高速で触れ、ハッキング。呪縛から解放する。だが、その速度の衝撃でルイナが吹き飛ぶが魔破片でクッションを生成。その速度を維持したまま、再び、大魔力を解放し、手のひらに特大魔力の星を生成。
あなたの事を教えて。
どうして暴れているのか。
魔物だからって、私は殺したくはない。
だから……教えて欲しいな
みんな、分かり合える
私は、そう信じてる
だから……だから……!!
私はあなたの事も救ってみせる!!!
――魔再之魔術<スペル・魔鏡想>
カナリーの手のひらの魔術がエントロティ・スカイを包み込む。再構築、開始。体の細胞が作り替えられていく。殺さずに相手を無害化する。カナリーの選んだ魔物の非殺傷方法。
大魔力の余波で爆発する。カナリーはエントロティ・スカイだったものを抱え、列車に戻り止める為、踏ん張る。
「止まって……!! お願い……!!!」
激しい轟音と共に、線路が破壊されるも、車両に薄い魔力膜が張られている。
火花と金属音を散らしながら、魔列車はゆっくりと止まった。
「……と、止まった?」
歓声が響き渡る。
「私達、助かったの……?」
「し、死ぬかと思った……」
「こんなの……もう味わいたくない」
「命がいくつあっても……もたないな……」
「列車はしばらくこりごりかも……」
「出来るって、信じてたよ」
それぞれの感想が聞こえ、カナリーは腕の中で眠る小さな魔女を抱えていた。
「……あなたの記憶が見えた。ずっと、独りぼっちだったんだね。ベアトリクスさんを見て……真似っこして、峡谷を作って……、ひっそり暮らしてたけど、暴走しちゃったんだね。もう、大丈夫だから。これからのあなたは魔女種だからね」
ゆっくり、おやすみ。
「それより、あんた、確か、マイ……なんだったっか? 教えてくれよ! 救世主!」
カナリーは魔破片で再び、鎧を着る。咄嗟だったからか、少し女性的なフォルムとなってしまった。鎧の中で、自身を魔鏡想で一部、改変、再構築する。髪色は黒く、目の色は、赤紫色に。コールと一緒に決めた偽名をカナリーは名乗る。
「私の名前は……、マイナール・オルヴィリウムです」
カナリーvsエントロティ・スカイ、ルイナ&魔列車の救出。
無事にカナリーが全て解決する事が出来ました。
といっても、これを解決できるのはカナリーの他でいうなら、大国の王やミナリー、エルナくらいでした。ルイナは姉妹の中ではかなり弱い方です。
ちなみに、エントロティ・スカイが過去にグレイロック・バレーの峡谷を作ったという過去がありました。
詳しく話す機会がありませんでしたが、リーナはマイナール=カナリーに気付いていません。屋根の上で鎧を脱ぎ、とんでもない戦闘をしていましたが、顔も見ていませんし、魔力も魔鏡想で変質している為、気が付けませんでした。カナリーが何かを気にしている様子がありますが、それはまた別の機会で。
第301話、読んでいただきありがとうございます。




