コード300「心魂と夜空」
第300話
前回、超強力な敵が現れて
「……」
粉塵と共に降り注ぐは、紺桔梗色の魔力。それはまるで誰かの涙のような雨。瓦礫に付着しているのは、こべりついたキノコの魔物の魔力。
("解析結果出ました。対象、『エントロティ・スカイ』。過去に絶滅したとされる菌類、キノコの魔物であり、その能力は、捕食した相手の能力の模倣です。完全な捕食で100%の模倣が可能なようですが、あれは捕食出来ていない状態。不完全な模倣で3割程度の完成度でしょう。略称名として、エンティスとします。エンティスのあの様子ですと、魔剣ノ魔女を模倣しているようですが、魔剣ノ魔女の3割であの力。十分にお気を付けください")
瓦礫から列車を守りながら、かつて魔物図鑑を読み漁っていて良かったと心の底から自分のかつての行動を称賛したい気持ちだったが、今はここからどうやって離脱するかをルイナは思考を巡らせていた。
「みんな! 聞いて欲しい! 簡潔に言うとあいつは、エントロティ・スカイっていう、キノコの魔物! 簡単に言えば、魔剣ノ魔女に近いレベル! 勝つとかそういう次元じゃないよ! これは私達の手に負える相手じゃない! 魔術大教会へ協力要請するしか……」
正直、それでも難しいかもしれない。最悪の場合は、"姉妹"達を呼び寄せて、討伐する方が被害が出ないだろう。そうと決まれば、即連絡したいが、今できる状況ではない。
「管制室へ! 全速力で逃げてって伝えて! 急いで! こっちはこっちで……どれだけ相手出来るかどうか」
魔剣ノ魔女の三割の模倣をしている魔物。たった三割、されど三割。本物の強さはこの世界では雲上の存在であり、到達点であるとルイナは想像している。あれに匹敵する程は恐らくは、大魔女か、それこそ、姉さんくらいしか相手が出来ない。本物の魔剣ノ魔女じゃないのがまだ救いだった。エンティスの相手を出来るのは、今、ルイナしか居ない。
「新たな魔物か!? って、たった一体かよ。囲んで潰せば――」
「ダメ! あれは私達には敵わない相手! 絶対に逃げないとなんだから!」
「……仮に、それほどまでに強い魔物だったとしてそれを放置するのも我々としては忍びないが。それと、口調が明らかにさっきと違うぞ。ルイナ」
焦っているからなのか、ルイナの口調がさっきまでの怪しい口調から、明らかに変わっていた。
「……余裕がないからなのかもね。とにかく! 今は逃げる優先! いい!?」
そこまで必死な様子を見せられると流石に無視も出来ない。とりあえず、グレイロック・バレーに戻り、報告をして、強い冒険者もしくは、魔術師の派遣が必須だった。ルイナとしては、姉妹を呼び寄せて倒したいところ。
遠方からの一閃。エンティスにより、先頭車両が攻撃されてしまう。操縦者は辛うじて、ギリギリ躱す事が出来たのだが、その攻撃によりブレーキが利かなくなってしまった。
「まずい……。列車の制御が効かなくなった。止まらない! どうすればいい!?」
ローンが助けを求め、後方へ声を張り上げている。冷静さを出来るだけ保とうとはしているが、何をするべきなのか彼は思考出来ない。
ルイナは屋根の上でエンティスの攻撃をなんとか耐えている。
(まったく……! でも……少しだけ冷静になってきた。元々、ボクは後方サポート寄りなのに。こういうのは、他の姉妹の役割でしょうが……!)
「はっ!? くぅっ……!」
銀色の剣がルイナの首を捉えるが、剣の軌道に沿って身を捩って躱す。後方の岩石が真っ二つに切断され、次は足を狙われるが、幻術で惑わし、避ける事には成功した。
これは今の戦力でどうにか出来る敵の範疇を超えている。
「ナハト、姉妹達へ信号を出す。S.O.Sだ。魔力でマイクロ波を疑似的に作って放出するよ!」
("了解。信号はこちらで暗号化します。姉妹達の情報体のみがキャッチできるように"地球語"で拡散します。タイミングはこちらで指示します")
エンティスの攻撃により、列車周りの風景の見晴らしが良くなっていくが、砂埃で遠くまでは見えない。ルイナは魔力を内側で最大限溜め、真空を魔力で生成。その中を魔力球が高速回転しだす。
「……!?」
エンティスがその回転する光を警戒し、一瞬止まる。
「"最大出力! マスター! 今です!"」
飛び掛かってくるエンティスの体へ、手をかざす。プラズマが発生し、マイクロ波が打ち出される。一瞬、バチッと音が鳴り、エンティスの体、横腹を貫く。
そのマイクロ波がアーク外側の大結界に反射し、世界各地へ、謎の救難信号が届いていく。
(全姉妹へ、メーデー、メーデー。・・・---・・・。グレイロック・バレーから北西……魔剣ノ魔女並の魔物と交戦中。至急至急! ルイナ・リアリティア)
「珍しい。あのルイナが手助けを言ってくるなんて。それほどに緊急事態なんだね。仕方ない、天光解放」
白い天使が空の国から飛び立つ。
「ん……ここから近いな。借りを作っておくか。龍流解放」
龍の鱗を持つ少女が地面を蹴る。
「あら……、ん~、ま、他の皆が行くでしょ~。問題なさそう」
姉妹の一人は他の姉妹達を信じる。
その他にも多くの姉妹がその信号を受信していた。そして一番近くに居た勇者達のマターシステムとナカの黒星の鍵杖もその信号をキャッチしていた。
「よし……このまま、数十分待てば……」
エンティスの腹部が蠢き、エンティスの殻が破れる。さっきよりも銀色みが強いエンティスが現れた。
「脱皮した……?いや、これは……やば……!」
攻撃を逸らせなかった。後方車両へ斬撃が飛び、魔力爆発が起こった。
「きゃぁぁぁ! 揺れる! ていうか、私達も手伝わないと! 宮本さん行くよ!!」
「ダメ! ここは私が抑える!! あなた達はそこに居て……!!」
エンティスが群青色の胞子を放出する。
(マスター、新たな神経接続を検知。即座にブロックしま……)
現在、他の姉妹達はここに居ない。ルイナが他の冒険者を守っていたが、今、それが無くなった。
「まずいぞ。ルイナが……取られた」
「わ、私達で食い止めないと!」
「魔剣ノ魔女、一戦交えてみたかった」
「黒星の鍵杖!! 私の心魂の奥にある鍵を開けて! あの時の……」
ナカはシィルトレイルの時に使った、暴走形態を使おうとしていた。
一部の天井が破壊され、月光を浴びながら二つの影が顔を覗かせる。一つは、紫青色と、黄緑色の二つの視線。
「列車を放棄してでも、みんな逃げて!! くぅ……、腕やっちゃったのまずっちゃった」
ウミューシーは折れた腕を抑えながらも、皆を必死に避難させようとしていた。
「殿は私達が引き受ける! 外に飛び出れそうな時に……、……っ!?」
天音ユウリが声を張り上げた時、魔列車が大きく揺れる。
列車のスピードが更に上がる。このまま外に飛び出しても、ミンチになるか、魔物の餌になるだけであり、詰んでいた。どうしようもなく絶望が広がる。
「……私がやる。魔弾はまだ残ってるから」
(おい、リーナ。大悪魔化だけは許さねぇからな。あの時とは状況が違う。一度、変身して戻れる可能性なんて無いんだからな)
炎猫魔弾に関しては、あれは代償が大悪魔化とはまた違う代償である為、話題にも出さなかった。
「分かってる。今の私達に出来るだけの事をして皆を逃がす。大悪魔化なんてしない。安心して」
だが、安心も出来ない。と言うか、そもそも目の前の魔物が魔剣ノ魔女クラスならば、大悪魔化でもしなければ、対抗が出来ないし、簡単に死ぬ。出来るだろうか。いや、出来るか出来ないかじゃない。やるしかない。
「……ダメ、リーナ、戻って……そいつは、人がどうにか出来るレベルを超えてる……。……っ、逃げて……リーナ」
あぁ、脳内で、短期予報が鳴り響いている。私は、ここで死ぬのだろうか。
《Perilous》《Perilous》《Perilous》《Perilous》《Perilous》
エントロティ・スカイの斬撃を躱しているつもりだが、肉が削がれる前にルイナの幻術がそれを無かった事にし、空間が変わって見えて来る。
黒星の鍵杖が何かを検知し、ナカに必死に警告を促し始めた。
("マスター、数キロメートル先、線路が途切れているようです。このままでは、数分で魔列車が突っ込みます。突っ込んだ場合、魔列車が横転し、乗組員全員の生存率が大きく下がってしまいます。残り時間を現在、計算中です")
ここに来て、更なる絶望が広がる。ブレーキが利かず、自分達だけじゃ太刀打ちできない歩く天災のような敵が目の前に居る。今までの敵は、みんなで力を合わせれば、なんとかなっただろう。
「……あの時と同じだ。シィルトレイルの時と……倒したって思ったら、更に強いのが出て来て……」
("マスター、計算完了。残り、6分23秒で突っ込みます。いえ……速度が上がっています。想定よりも速くに……。考えます")
私がやらなくちゃ。あの時の暴走を意図的に作り出せれば……少しでもみんなが助かる道を……いや、ダメ。もし引き剥がせても、魔列車事故が起こる。どうすれば良いのだろうか。列車を止めるには、魔物を倒さなくてはならない。その魔物は天災並みに強い。逃げようと思っても、列車は暴走状態で、逃げられない。
ナカの内にある魔王魔力と勇者魔力がぐちゃぐちゃに混ざり合おうとしており、ナカは気分が悪くなって膝をつき、荒い息を吐いている。だが、黒星の鍵杖で体を支えながら何とか立ち上がる。
覚悟を決めようと思っていたナカの手を取る黒見藍。
「……私達も一緒です。何一人で抱えようとしてるんですか。絶対、ダメですから。まだ助かる道があるはずです。何か……何か方法が……」
リーナに天音ユウリも一緒に合わせて何とか対抗をしているが、何とか攻撃を逸らすだけだった。
そんな中、コールがマイナールの前に立ち、見上げる。
「このままじゃ、全滅する。お願いがあるの」
「……」
「くっ……! はぁぁ! 魔力放出型! 壊菌糸線魔弾<スペル・魔弾Ⅲ>!!」
圧出された魔力が銃口からビームのように放たれるが、超合菌糸剣で逸らされ、その剣が代わりに破壊さる。二人はそのまま距離を詰められ、蹴りを入れられる。天音ユウリがリーナを庇い、二人とも後方へ吹き飛ばされ、車内に戻ってきた。
さらにはルイナの幻術までもが遅いかかってくる。エントロティ・スカイは興味を失ったように別の車両へ目を移す。手に新たな超合菌糸剣が現れる。
「やっぱり……私、行きます……。こんな所で終わりたくないから」
ナカが手に緑色の鍵を持ちながら、立ち上がる。空中に鍵穴が出現し、そこへ鍵を通す。
――開いて……。私の内に眠る力。
限定解……
その時、ナカの肩に誰かの手が触れた。その瞬間、ナカの内の二種類の魔力の混ざり合いが安定する。隣に立っていたのは、マイナールとコールだった。
「後は、私達に任せてください。こんな状況で、四の五の言ってられないから。マイナール、頼んだよ」
そう言うと、コールはウミューシーに青緑色の薬を渡した。
マイナールはコクリと頷き、エントロティ・スカイとルイナを見上げた。一瞬で、屋根の上に登った。
「それは、回復薬です。グイっと飲んでください。大丈夫、効果は保証します」
コールの折れた腕が再生される。まるで、巻き戻るかのように。
そして、マイナール視点へ移り、独り言をこぼしていた。
「……ごめんなさい。大魔女様。少しだけ約束破っちゃいます。みんなを助ける為に……少しくらい許しください」
マイナールは屋根に空いた穴を魔力で埋めていくのと同時に薄い膜を張った。もうこれ以上壊れないように。その魔力からは優しくて温かいものを感じ取った。
「ん~~っ! よし、これで戦える。さて。魔剣ノ魔女さんを模倣、でしたっけ。やりましょうか!魔力、解放!」
エメラルドグリーン色の魔力がマイナールから脈動する。
一刀両断。エントロティ・スカイの斬撃がマイナールへ飛んだ。だが、目の前で霧散する。
キラキラした魔力の破片によって。だが二撃目がマイナールのフルフェイスヘルメットに当たった。
「あ……、もう。でも、いいか。どの道、バレちゃう。それなら……」
鎧を一つずつ脱ごうとすると追撃してきたエントロティ・スカイを、解放した魔力で拘束する。
「少し待ってて。やるなら、全力でやるから」
最後にフェイスヘルメットが取られる。
ルイナの目が開かれる。
("マスター! 感情値を抑えてください! 止めていたのに……!")
「ふふふ……あははっ!! そこに居たんだ……! そんなところに!! ねぇ……、姉さん!!」
だが、ルイナの目がぐるぐると紫色が混ざる。
そこに現れたのは、ふわりとしたホワイトヘアにインナーカラーがクリーム色、そしてエメラルドグリーンの瞳を持つ少女。
――カナリー・アステライト。
「ごめん、意識は持ってかれてなくて……、でも体の自由が利かないんだ。体の頭から足先まで菌糸が巡っててさ……、不甲斐ないよね」
「ううん、大丈夫。操られてても、みんなを助けようとしていたんだよね。ありがとう。あとは私に任せて」
暴走する列車の上でカナリーは手の中に魔力の光を集め、エントロティ・スカイとルイナを見る。
「今、助けるから! 待ってて!!」
ついに、本物のカナリー・アステライトが現れました。
マイナールがカナリーだったって事ですね。
改めて、整理すると、ソリナに現れたカナリー=ルイナであり、本物のカナリーは大噴海事件の後、なんやかんやあってコールと出会って行動を共にしていたと言う訳ですね。
エントロティ・スカイについて少し捕捉します。
太古の時代の魔物であり、この魔物は魔剣ノ魔女が居た時代からの個体となります。つまり、ベアトリクスの剣技、その力を実際に見ていた過去があり、それを模倣しています。ただ、100%の模倣ではなく、あくまでも3割程度の模倣が限界です。エントロティ・スカイは捕食をすれば100%の模倣が可能となります。魔女モードでドラゴンを討伐し、捕食したことで模倣していたという事ですね。
ちなみに紫青龍のブレスは菌を胞子として吐き出していただけになります。
先に伝えておきますが、カナリー本物が本編に全く出て来なかった理由はちゃんとありますが、今は話せません。が、きちんと後々出そうと思っているので、お待ちください。
次回、超規格外の大決戦です!
さて、無事に300話突破致しました。ここまで読んでくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。PVが増えるのが分かるにつれ、執筆している私もとても嬉しく思っております。
これからもこの作品を続けていきたいと思っていますので、何卒よろしくお願いします。
第300話、読んでいただきありがとうございます。




