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『幾星霜のソムニア -私とAIの異世界転生!-』  作者: 星廻 月華
【勇者編:アイゼンヴルグ章】
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コード297「星影の幻影」

第297話

前回、魔列車サイドに移り紫青龍が現れ

 それは突然の出来事だった。紫青龍が飛来してきたのだ。迎撃準備もあまりできておらず、紫青龍がブレスを放とうとしており、最初に咄嗟に反応出来たのはカナリーを含めた数名であった。


「みんな! 魔力で障壁を! 急いで!」


 冒険者や勇者達の魔力が膜となり、障壁となる。紫青龍による、紫色のブレスが魔列車へ直撃、したかに見えたが、障壁が間に合ったらしい。防ぐことが出来たが、障壁がボロボロとなっていた。緑色の魔力の部分を除いて。


「な、なんで……あいつがこんな所に……」


 現在地点は上から見て、西エリア。紫青龍は本来、北のエリアに居るはずだ。それなのに、突然飛来し、襲い掛かってきた。


「なんで来たのか考えるのは後かな。今は、負傷者が居ないかを確認しないと。ソリナの皆さん、来てください」


 ウミューシーはちらりとカナリーの方を見る。さっきの魔力障壁。あれは尋常じゃない硬さだった。やはり、本物なのだろうか。リーナから聞いていた情報では、桁外れの魔力、不思議な声の持ち主、それから、美貌。まあ美貌は置いておくとしても、魔力は嘘をつけない。カナリーは外の空を見ていた。厳密には、紫青龍の方から目を離さなかった。


「さっきかなり揺れましたが、負傷者はゼロです。魔列車も無事のようですが、少しだけ、気になる部分があるとローンさんが仰っていました。最後尾です」


 ローンの元へ走る。すると、そこは、紫青龍のブレスの残滓がこべりついていた。まるで、生きているかのように、うねうねと動いている。正直に言って、かなり気持ち悪かった。


「列車そのものは無事なのだが、これがかなり気持ち悪い。何かが蠢いている気がする。この車両を今すぐ破棄するべきだと、僕は思うのだがどうだろうか」


 確かに、破棄すべきなのはそうなのだが、先ほどの密室事件の現場が丸ごと消えてなくなる。そうすれば、本当に未解決事件となってしまうのは目に見えていた。天音ユウリはウミューシーと目を合わせ、頷いた。


「……仕方ない。背に腹は代えられない。この車両は破棄する! みんな、前へ!」


 最後尾を切り離し、浸食を抑えられた。それにしても、ここだけ何故、攻撃を受けた。偶然だろうか。いや、偶然なんかじゃない。これは計算されている。じゃあ、何故?誰が?何のために?また、ヒールブーツの音が響く。


「本当に未解決事件になってしまいましたね。現場が無くなってしまうなんて……」


 違和感。何かが違う。


「あの、カナリーさん。少し聞いても良いですか。あなた、ここまで追いついたって言いましたよね。いつって言いました?」


「街から走って、魔物の群れが見えました。レールの上を走ってる車両に飛び乗ったんです。何とか追いつけて良かったです」


 やはり。辻褄が合わない。


「カナリーさんって……、どこで事件の事を知ったんですか」


 密室事件は魔物の群れが来るその前に起こっている。その後に来たというのなら、カナリーが知っているなんてありえない。


「……」

 カナリーが黙っていると、ウミューシーが追撃する。


「さっき、紫青龍のブレスを防いだ時、あなたは最後尾だけ障壁をわざと薄くしませんでしたか? あなたほどの膨大な魔力量があるのなら、全車両守れたはずです。何故、それをしなかったんですか?」


「……あの」

 カナリーが何か言おうとしているが、ウミューシーは止まらない。違和感の正体を見つけ、背筋が凍り付きながらも止まれない。


「それに、私、あなたと顔を合わせた程度しか会ってません。自己紹介なんてした事が無い。それなのに、何故、私の事を知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)か(・)」


「……」

 再び、カナリーが黙り、俯いた。前髪が彼女の目を隠す。


「……あなた、一体誰なんですか。カナリー・アステライトじゃないでしょう」


 ソリナのメンバーがその名前に反応した。


「そう言えば……カナリーさんの家名、聞いた事ありませんでしたわ。アステライトさんっていうんですね」

 笠井澪がそう呟き、他の者もそういえばと考え込んでいた。


 そう、目の前に居るカナリーはソリナのメンバーと初めて会った時、『カナリーって言います』としか聞いてなかった。彼女が、『カナリー・アステライト』と名乗った事は一度も無かった。


「……ふ」


「あなたは一体誰なんだ! 何故、カナリーと名乗る! あなたの正体、目的は一体なんだ!」


 カナリー、もとい、目の前の少女が震え始める。


「……ふふ」


「何がおかしい。早く答え……」


「……ふふふふふふ」


 口を抑えて笑うその姿はカナリーと似ても似つかなかった。だが、顔はまさしくカナリーそのものだった。


「正解! 大正解! よくぞ見破ってくれた。ワタシ……、いや、ボクはカナリーじゃない。と言っても、ボクも私じゃないと気が付いたのは本当に最近の事なんだけどね。まさか、ボ(・)ク(・)の狙いがそうだったなんてね」


 淡々と話すその声はカナリーそのものなのに、喋り方がまるで、楽しそうで狂気さが滲み出ていた。


「グォォォォォォォ!!」


 突然、外から咆哮が轟く。今現在、紫青龍が襲い掛かって来ていたのを忘れかけていた。


「あはっ、まずはアレをどうにかしないとじゃないか? 君たちはどうするんだい?」

 偽カナリーはもはや、隠そうとはしなかった。今のこの状況を楽しんでいるようにも見える。


「くそっ! 迎撃準備! あの龍の翼を狙え! カナリーさん、いや、偽者、お前にはあとで聞くことが沢山あるんだ。逃げるなよ」


「あぁ、分かっているさ。尋問とやらだね。期待しているとも。ボクは手伝わない方がいいかね?」


 いちいち癇に障る言い方をしてくる奴だった。


「……手伝えるのなら手伝え。今のお前は信用できないが、あの龍に対抗できるのなら、そうしろ」

 天音ユウリはイライラを隠せていなかった。


「ただし、今すぐその姿を解け。お前の本当の姿を見せろ。名を明かせ。それが今ここに居られる条件だ。お前の事は全く信用できないが、信用に値する人物だと示せ」


 偽カナリーは、はぁとため息をついたが、意外にもそれに従った。カナリーの姿が解けていく。薄青の銀髪に、黄緑色の瞳。モノクルレンズが虚空から出現し、三つの黒い髪留めが横でⅪ字に止められる。黒い杖と共に銀髪のカナリーによく似た少女が姿を現した。


「よくぞ見破った諸君。ボクの名前は、『ルイナ・リアリティア』。他国では、姿を変え大学教授をしていた。リアリティア教授とでも呼んでくれたまえ」


 ルイナと名乗ったその少女は、見破られた事がほんのり嬉しそうだった。

「さて、と。まずはアレをどうにかしないといけないようだね。起きてくれ、ナハト」


("お久しぶりです。マスター。敵対勢力及び戦況を確認します。戦況、確認しました。迎撃準備を始めます。幻影解放。")

 ルイナの体がぼやけ、その周りだけ、世界が変わったような錯覚が起こる。


「さぁ、ショーの始まりだよ。幻影解放。黒白之幻術<ミスティ・幻透紙(カード)>」


 ルイナの周りに透明な靄のようなものが溢れ出し、彼女の手にガラスカードが何枚も出現する。それは、無数に切れ目が走り、欠片となっていく。ルイナが掌を上へ向け、それを紫青龍へ向けると透明なカード達が紫青龍の翼を通り過ぎた。切断されたかに見えた。が、見た感じでは切断はされてない。


「おい、ルイナとやら、遊んでる場合か! 真面目に戦え!」

 ルイナは楽しそうにカードをシャッフルして遊んでいる。


「ん~? まあまあ、よく見ているといい。ボクの術は既に発動済み。一手ずつ着実に追い込んでいるのだよ、天音ユウリくん?」

 ウインクまでするルイナは余裕たっぷりだった。


 窓の外の紫青龍が突然、墜落する。翼は切断されていないのに。

「これは……一体、どういう事だ……」


「さぁて、まだまだ、いっくよ~!」

 幻透紙(カード)が形を変え、指揮者棒(タクト)のように変貌し、それをルイナが振ると、まるで鳥の大群のような幻透紙(カード)が紫青龍へ襲い掛かる。紫青龍に傷は一切ついていないのに、苦しみ始める。


「あははっ! そうだよねぇ~? 不思議だよね~? それは幻なのに、何で動けないのか、理解できないよねぇ~?」


 そこへ、走って来たのは、ウミューシーだった。

「待って! まだ討伐しないで! あの紫青龍が私達の龍人仲間かもしれないの! お願い! まだ待って!」


 止められたルイナが小首をかしげながら、モノクルを紫青龍へと向ける。

(ナハト、解析開始。あれは龍人? もしそうなら、出力を抑えるけど)


("了解。<スキル・マクロスコープ>使用。解析開始")


 脳内で高速演算が開始され、紫青龍が解析される。

("解析完了。結果、あの個体は、龍人ではなく、純粋な野良の魔物である確率が95%と算出されました")


 ふむ……とルイナの目が細くなり、紫青龍へ向けられる。

「あれは、違うっぽいね。まあそれに、本当に龍人だったなら、魔物達が付き従っているのもおかしな話さ。そうは思わないかい?とりあえず、討伐させてもらうよ。あれは危険だ」


("マスター。続けて報告いたします。紫青龍の体組織に微弱な菌組織を発見致しました。先ほどのブレスとの照合をした結果、あれにはカビが含まれている事が分かりました")


 あの龍はカビをブレスにして、放出していたという事になる。なんとも気持ち悪い。いや、生きていられるのだろうか。そういう魔物、魔獣も居るのだろう。自然界は不思議なものだ。


 幻透紙(カード)を続けて、巨大な槍にして、放つ。もう片方の翼に突き刺さりはしなかったが、やはり、苦しみ始めていた。ルイナ以外から見て、この光景は異常な光景に他ならなかった。敵の体は全くの無傷に見えるのに、苦しんでいる。どういう原理なのか、分からなかった。


「あははっ! 踊ろうじゃないか! ドラゴン!」

ルイナ・リアリティア

カナリーによく似た、自身をリアリティア教授と呼ぶ女の子。

彼女は幻術と呼ばれる力を使い、紫青龍を相手取る。彼女がカナリーに化けていた理由とは。

一体、いつから。何のために。そして、今回の敵、紫青龍。こいつを無事に討伐する事が出来るのだろうか。リーナとコールは無事に戻って来れるのか。


第297話、読んでいただきありがとうございます。

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