コード296「星影と紫青」
第296話
前回、魔列車に置いてかれたリーナとコールから
冒険者二人を残して走り去ってしまった魔列車。誰が悪いとかではなく、魔列車の機能が勝手に作動してしまった事で起こった事態だった。
これは非常にまずい、早く戻らないと。
でも、どうやって戻るか……。時速80kmにどうやって追いつく?
そんな事を考えている間も、魔物らが彼女達に襲い掛かってくる。だが、コールが魔物達の対処をし、追い払っていた。
「とりあえず、この場を切り抜けてから、考えましょう。大丈夫、私も一緒に考えますから」
とりあえず、コールと共に襲い掛かってくる魔物を全て何とかしたのち、リーナはふぅっと白い息を吐く。コールは涼しげな表情をしていた。
「ごめんなさい、落ち着きました。追いかけないと、ですよね。どうしましょうか……」
魔弾を推進力に変えてスピードを出す事は出来るだろう。だが、一日五発までの魔弾をここで使ってしまうのは勿体ない。だが、背に腹は代えられない。今すぐにでも魔列車に戻らなくては。
「今から追いかけるので、私に掴まってください。少しだけ、揺れますが、安心してください」
だが、コールが目を細めて武具を収めて、魔列車が走り去った方を見た。
「いえ……、追いかけるんじゃなくて、先回りしましょうか。それに、私も移動方法があるので、大丈夫ですよ。それから、私のわがままですが、リーナさんの事、もっと知りたいなって思ってた所だったんです。少し、お話しませんか?」
移動方法とコールは言った。どういう事なのだろうか。もしかしたら、コールにも似たような能力があるのだろうか。色々と思考が巡る。
「あの、嬉しいですけど、どうやって……?」
きょとんとしたコールが、くすっと笑った。
「え?あぁ……ふふっ、大丈夫です。心配してくださって。少し待っててくださいね。ノーチェ、起きてください。出番ですよ」
背中のヴァイオリンから突然、何やら音声が聞こえ始めて来る。
「"起動を確認。起動完了。おはようございます、コール"」
どこからともなく、クールな声が響いてきた。どこか、誰かの声に似ている気がする。でも、分からない。
「えっ!? だ、誰!? 背中から?」
(その魔道具からだな。と言っても、なんか空間が変な感じだが……)
ザミエルがノーチェの存在に気が付く。
「"おや、説明が必要ですか。初めまして。私の名はノーチェ。ノーツでも構いません。魔道具の精霊とでも思ってください。その方が早いですから。どうぞよろしくお願いいたします"」
という事は、魔道具の精霊ではないという事が分かる。身内にそういった人たちが多いから、理解が早かった。
「それで、移動方法って……」
場面は切り替わり、魔列車サイドに移る。
無事に魔物の群れを追い払ったと喜んでいる者達、先の戦闘で疲れ切っている者達、そして、リーナとコールを案じる者達と様々の様子を見せていた。
「リーナさんが落ちちゃったんですよ! バック走が出来ないのなら、止まって待つべきです!」
黒見藍が他の冒険者達に必死に説明するも、その反応は……
「んぁ? あぁ~……まあ、何とかなるだろ。落ちただけなら街に帰れるだろ。死んだわけじゃねぇし、それに、俺らはシルバーランク以上の冒険者だ。自分達の事は自分らで何とかする。そこまで、やわじゃねぇだろうよ」
リーナの事を詳しく知らないはずが、信用しているのか。その実態はそうでもない。彼らはただ単に、他人のその後について、あまり興味が無かった。知り合いだったなら、多少は心配もするだろうが、今回初めて会っただけの人物に、そこまで感傷的にはなれないという事だった。
それに比べ、黒見藍や勇者、ソリナ一行は、仲間を大切にするといった日常を過ごしてきている。見捨てるという考えが無いようだ。天音ユウリが黒見藍の肩に手を置き、首を横に振る。冒険者は自分達のスペースへと戻っていった。
「彼女なら、恐らく大丈夫だ。と信じたい。この列車に追いつけなければ、街に帰ってる事だろう。それよりも、だ。今は魔物の群れの前に起こった、密室事件の事を考えないといけない。誰が犯人で、誰が被害者なのかもまだ分かってないのだから」
忘れた訳じゃなかった。だが、目を背けていただけだったのかもしれない。彼女達は勇者の前に、女子中学生だ。殺傷事件ともなれば、目を逸らしたくなる理由も天音ユウリ視点から見て分からなくもない。
今の天音ユウリの思考内では、様々な考えが巡っていた。この子達がいかに犠牲にならないかを。マターシステムの防御機構は結構固めに出来ていると知らされている。本当に大丈夫なのだろうか。不安になってしまう。
「今は……ゆっくり休んでいてくれ。だが、一人にはなるな。必ず誰かと一緒に居るんだ。いいな? 私は少し調べに行くから」
「調べに行くですか。なるほど。あの、事件についてですね。それなら、私達も行きます。休んでいる時が一番、奇襲に遭いやすいって言いますし、それに、もしもの時は守ってくれるんですよね? 頼りにしてますからね。それなら、近くに居た方がいいですよね?」
口が上手くなったものだ。と天音ユウリは黒見藍を少し感心してしまう。別行動するくらいなら、一緒に居た方が良いと説明したうえで、自分達も捜査に加わると言っているようなものだ。危険と、精神面が心配になってしまうのだが、黒見藍は何も気にしていない様子だった。
「それに、私達、世界輝鳥自遊調査局って名前なんですよ。これは調査です。何故事件が起きたのか、調査もとい、捜査をしないといけませんからね。人手は多い方が良い。ですよね? ユウリさん」
黒見藍だけが気にしていないのではなく、他のメンバーも気にしていなかった。いや、そう見えているだけなのかもしれない。
「……そうか。分かった。私のそばを離れるなよ」
現場に戻る。すると、そこにあった死体が何故か綺麗さっぱり消えていた。これは一体どういう事なのだろうか。
「は……? これは一体……何故、死体が……どこに?」
貨物車両に死体も血もどこにも無かった。まるで最初から何もなかったかのように。
(考えろ……、一体どういう事なのか。死体だと思っていたが、実は生きていた? いや、その線は考えにくい。あくまでも呼吸をしていなかった。していないように見えただけなのか。それとも、あとで息を吹き返したのか)
「これ……どういう事なんでしょうか……、どうして死体が……」
混乱とパニックを起こしてしまう。だが、この事実を隠す必要も無かった為、とりあえず、皆に報告をする事となった。酒に酔っていた冒険者達は事件と戦闘を経て、完全に酔いが醒めていた。酔いが醒めていることは良かったのだが、それよりも、死体が消えていたことに驚くしかなかった。彼らもこちらと全く同じ反応を見せて来る。
「はぁ!? 死体が消えただと? なんでだよ。誰も見てねぇのか? ほら、持ち出す所とか、死体が歩いたとかさ」
ウーズはしかめっ面を見せながらも、不機嫌な様子だ。それはこれ以上面倒ごとが増えて欲しくない気持ちから来る不満のようだった。
「アンデッド種じゃあるまいし、勝手に死体があるく訳がないだろう。と言っても、看過できない部分もある。とりあえず、切り替えよう。というか、それしかできない。まずは、リーナさん、コールさんの事を考えながら……」
そこへ、コツコツとヒールブーツの音が響く。そこに現れたのは、淡いクリーム色の長髪に、緑色の瞳が輝く一人の少女が現れた。
「これは……難事件のようですね。皆さん、遅れてしまって申し訳ありません」
カナリーが、冒険者やソリナ、皆の前に姿を現した。ウミューシーも同時に見る。
「え……? カナリー!? 今までどこに居たんだ? 心配していたんだぞ。急に消えるから……」
列車内の全員の不安が一気に消えてなくなる。カナリーが現れただけでだ。冒険者の皆も少しだけ気持ちを持ち直していた。だが、一人だけ、違和感を感じていた。
「カナリーさん……お久しぶりです。と言っても、ほとんど話した事はありませんでしたが」
ウミューシーが少し警戒しながら、カナリーに歩み寄る。何故、今このタイミングで現れたのか。急に現れたにしては、あまりにもタイミングが良すぎる。それに、何故皆、警戒しない?死体が消えたと同時にカナリーが現れたのも、おかしな話だった。
「……えぇ、お久しぶりです。お名前は……確か、ウミューシーさん。でしたよね」
ウミューシーはカナリーから目を逸らさなかった。急激な安心感、それは疑うに値する突然の現象だった。
「それで、今までどちらにいらっしゃったんですか? 今の今まで、居なかったようですけど」
ウミューシーが切り込む。
「列車を追いかけていたんですよ。途中でやっと追いついて、今に至ります」
「ふぅん……」
ウミューシーは何かしらの疑いをかけている。それも仕方ない事だった。なにしろ、今の今まで、どこにも居らず、急に現れたのだから。もし、密室事件が無かったなら、ここまで疑っていなかった事だろう。
カナリーは、現場を見て回る。その雰囲気は、優艶だった。歳相応だが、どこかに強い芯がある。それはまるで、探偵のようだった。
「私が途中から来た事と、不信感を与えているのは重々承知です。すみません。でも、今は手を取り合いましょう。ね?」
何か違和感を感じる。どこが違和感なのかも分からない。でも、考えるのをやめた時、全てが終わる。そんな気がする。だからこそ、考えるのをやめない。
ウミューシーはリーナがいつも戦闘中にやっている癖を借りた。今のこの状況、何がおかしいのか、どこがおかしいのかを。
他の冒険者達は装備の点検をしつつ、どこか少しだけ不安な気持ちを抱いていた。
ソリナのメンバーは皆、天音ユウリのそばにぴったりくっついて貨物車両で何やら調べている。
カナリーはその様子を後ろから観察して、微笑んでいる。
ウミューシーはこの現状について、深く思考を巡らせている。
深く思考を巡らせていると、風を切る音が聞こえて来る。まさか、いや、でも有り得る。
「もしかして、リーナ……!?」
遠くを見ると、巨体がこちらへ飛んでくる。なんで、まだ、目標地点に到達していない。アイツのところに行く前に、向こうからこっちへ来るとは思っていなかった。いや、でも有り得るだろう。自然の中で、絶対なんて言葉はない。
翼をはためかせ、こちらへ来たるは、紫と青が混じった黒っぽい龍。
紫青龍が飛来する。
そこからは、魔列車そのものが、戦場だった。なにしろ突然の出来事だった。
ここで突然のカナリー登場です。更に、追い打ちをかけるかのように、紫青龍も自身の縄張りを離れ、魔列車へと襲い掛かってくる。密室事件やリーナの事を考える暇もなく、連戦が続く。
果たして、このクエストは無事に終われるのか。
次回から紫青龍戦、始まります。
第296話、読んでいただきありがとうございます。




