コード295「密室事件とモンスターウェーブ」
第295話
前回、銃声が聞こえてから
銃声は最後尾から聞こえてきた。最後尾は貨物車両だった。誰よりも早く駆けつけたリーナとウミューシー、間髪入れずに来たのは、コールとマイナール。それからソリナの面々とその後ろにローンや他の冒険者達も続々とやってくる。貨物車両に女性が倒れていた。
「大丈夫ですか!?って……、動かない。これってまさか……死……」
リーナはその倒れている人物には触れずに、生死を確かめる。息はしておらず、動かない。ウミューシーは警察官時代のノウハウを生かし、状況を把握する。
「これは死んでるね。誰も死体には触れないで。恐らく死亡原因はこの二つの傷。頭と心臓に一発ずつ。魔力残滓は……、ほとんどないか。ここは最後尾で、多くの物資はあるが窓はなく、ここに来るには、客室の前を通らないといけないってことは……」
「ねえ、誰か、ここに来た人って誰か見てない?ていうか、この人どこかのパーティの人なの?」
みんなが死亡者の顔を覗き込む。
「いや……知らねぇな。うちじゃねぇ」
「俺んとこもだ。こいつは知らねぇ。ていうかさ、冒険者じゃねぇんじゃないか? こんな見た目の奴なんか、そんな忘れねぇよ」
見た目は、茶髪にミディアムヘア、白いブラウスに黒いスカート。どこかの受付嬢かもしくは、何かの店員。明らかに非戦闘員と言った風貌だった。
「え……、じゃあ、この人、誰なの? 誰に殺されたの?」
念のために、自殺の線が無いかを考え、周りに銃器が無いかを探してみたが、そんなものはどこにも無かった。それどころか争った形跡も何もない。
「銃の類はどこにも無いね。それどころか、弾痕がどこにも無いよ。貫通してないのか、それとも、何かしらで直したのか……」
沈黙が流れていく。酔っていた冒険者達の酔いがどんどん醒めていく。見知らぬ死体が急に現れた。何故、非戦闘員がこの列車に居るのか、殺された理由は。無差別殺人なのか。銃声が聞こえたという事は、銃器で殺されたはず。銃器を持っているのは、この列車には数多く居る。誰が犯人だ。持っていない者も居るが、奪って使った可能性だってある。つまり、この列車に居る全員が容疑者対象だった。
疑心暗鬼になってしまう。殺人事件はまだ続くのか。これは始まりなのではないか。次は、自分が殺されるのではないか。恐怖がじわりじわりと浸透していくにつれ、アルコールも抜けていった。
「お、おい……待ってくれ。俺のパーティは銃声が鳴った時、全員居たぞ」
「こっちだって……皆で一緒に居たぞ。俺らを止めていた奴らはどうなんだよ。お前らの誰かがやったんじゃないのか?」
話を振られてしまうが、リーナ達も何もしていない。ソリナ達やその他の皆と一緒に居た。見張りをしていたメンバーに至っては、前方車両に居たため、誰にも気付かれずに後方車両に行くことなんてできないはずだ。
奇々怪々な事件が起こった。どうすれば良いのか分からなくなった。
「なぁ……これ、一旦戻った方が良いんじゃねぇのか?こんな状態でクエストなんて出来るのかよ……」
リーナとウミューシーは冷静だった。死体の状態から、現場検証を始めている。
「仮説としては、魔力弾を使ったから、弾が残らなかったって仮説と、扉を開けて外を背に撃たれたから弾が現場に残ってないのか。でもどちらの場合でも、犯人が逃げられる時間がほとんどない。外に一回出て、車内に戻って来た……?ううん、最後に来たのは、ソリナで見張りをしてくれていた子達だった」
念のために、外も見てみる。逃げ場なんて無いし、スピードも割とある為、バランスも悪い。屋根にずっとは立てないだろうし、這って行ったとしても、時間がかかるから違う。状況は、完璧な密室状態だった。
「確かに……これは一度戻った方が……」
天音ユウリも一度戻った方が良いと判断する。
だが、突然、外から大きな魔力の波動を感じる。岩石地帯を抜けたらしく、魔物達の気配が色濃く強く感じる。魔物達はこちらに気が付いてしまった。場所は、三つ葉のクローバー状の環状線。右下、左下、上と三つのエリアからなる。右下の環状線は直径が約10kmある。
「……っ、このまま、続行しましょう! 今は、魔列車の防衛と駅舎の奪還が最優先です!」
ナカの声に全員が反応し、それぞれの武器を手に取った。その瞬間を、黒星の鍵杖は見逃さなかった。
("フィールドサーチ開始……。サーチ完了。使用された武器はひとつもありません。硝煙反応及び、熱反応確認出来ませんでした。ですが、その代わりに微量な魔力反応を検知しました")
黒星の鍵杖が言うには、冒険者が持ってきた武器類は今の今まで、誰も使っていない状態だったらしい。それなら、さっきの事件は一体。隠し武器でも持っている人物が居たのだろうか。考えれば考えるほど、奇怪な事件が起こった事が分かる。だが、今はそれどころじゃない。魔物の群れが押し寄せて来るのだ。それの迎撃をしなくてはならない。
("それと、魔物のサーチも同時に行いましたが、数がかなり多いです。この一帯だけでも百はゆうに超えています。お気を付けください。マスター")
百を超える魔物の群れ。無視して良いと聞いていたのに、これは流石に無視できない。
「ドワーフ部隊、前に出ろ! 装填しとけ! 撃てぇ~!」
横並びにドワーフ達が、車内から魔物の群れに向けて、発砲する。前方の魔物らに着弾。脳天を撃ち抜かれた奴らが脱落していく。
「今だ! 後方部隊と替われ! 撃ちまくれ!」
二列目のドワーフ部隊が発砲する。その間に、一列目のドワーフ達が銃弾の装填作業に当たる。
「理にかなった戦術ね。しかも、列車内からの射撃だから、動きながらの装填が可能。相手に追いつかれる前に撃ち落とせる。さて、私達もやろうか。黒見、ソリナの仲間達と共有をして。月見里先生、全員にバフをかけてください。遠距離攻撃の出来る者らは、車内から攻撃を!」
天音ユウリの指示を聞き、迅速に動き始める。黒見藍が戦術スキルを発動。戦況の把握を開始し、月見里先生が全員に強化スキルを発動。羽島唯香が弓を引き、宮本夢月が刀を手に取る。天音ユウリが剣の切先を魔物に向け、ナカが鍵杖を構える。
「<スキル・デルフィニウム>!」
「強化の書<スキル・バフストレングス>!」
「<スキル・アローレイン>!」
「<スキル・居合風>」
「氷突魔術<スペル・氷槍撃>」
「魔力放出、魔力線!」
「<スキル・プロテクトベール>!」
それぞれの攻撃が炸裂する。羽島が矢を雨のように降らせ、宮本がかまいたちのようなスキルを発動し、天音ユウリが氷系魔術を発動、ナカは魔力ビームを放ち、笠井澪はバリア系スキルをソリナの皆に張る。
群れの4割がその攻撃で脱落する。後方から、更に魔物らが出て来る。
「キリが無さそうだね。ダンジョンでも出来てるんじゃない?まあ、いいか。ザミエル、ヌーマイト、行くよ」
リーナはマスケット銃を手に取り、魔力弾や、岩石弾を狙撃していく。物理が効きにくそうな魔物に対しては、魔力弾を。逆に強固な皮を持つ魔物に対しては、岩石弾を的確に撃ち込んでいく。
「流石はリーナ。前の武装でもよく当てるね~。私なんて、これちょっと苦手なんだよね」
ウミューシーは拳銃を撃ち込んでいるのだが、周りに比べたらそこまで上手い訳でもなかった。
「では、私は前に出ます。マイナール、行ってきますね。援護よろしくお願いします」
コールが背中の大きなヴァイオリンを手に取ると、変形し始めた。弦が剣のような形状となりチェンソーのように高速回転し、ヴァイオリン本体の方を盾のように持っている。騎士スタイルだった。
「武装展開コルダ・カデンツァ起動。行きます」
コールは窓から外に飛び出すと、近接部隊もそれに続く。すると、魔列車の速度が少し緩やかになった。速度としては、20kmほどだろうか。宮本夢月も外に飛び出していった。
コールの戦い方はまさに、騎士だった。盾で攻撃を防ぎながら、剣で適格に倒していく。その光景が美しいまであった。軽やかに、剣舞でもするかのように。
駅舎は三つある。右下、左下、そして上に。三つ葉のクローバーのように。右下の環状線は荒野エリア。左下が岩石地帯。上は岩山エリアであり、紫青龍が鎮座しているのは、一番上のエリアだった。右下から左下に進み、上へと進まなくてはならない。そして、それぞれの駅舎の近くには、減速術式がレールに刻まれてある為、近くでは、勝手に減速する仕組みとなっている。30分ほど戦い、みんなが無事に魔列車へ飛び乗って行く。
「ふぅ。コールさんもこちらへ。お疲れ様でした。さあ、手を」
宮本夢月がコールに向かって手を伸ばすと、背後に、魔物の残党が居り、コールへと攻撃をしてきた。
「残ってるみたいですね。少し待っててください。倒してきま――」
列車が突然、急加速し始めた。時速20kmから、時速40km、そして、時速80kmへ。その時、リーナが岩状の鞭のようなものをコールへ飛ばす。コールはそれを掴んだのだが、魔物がその隙に、コールを吹き飛ばし、その拍子にリーナも車外へと投げ出された。
「え、嘘」
コールは魔物に気が付けなかった。
「あ、やば」
リーナは引っ張られてしまう。
無常にも、コールとリーナの二人が駅舎に取り残され、魔列車が走り去ってしまった。
笠井澪
防御系スキルの勇者の一人。小張巫狐と似た能力だが、小張の方は、結界系スキル。つまり、規模感が違い、ドーム結界を扱うのが小張巫狐。笠井澪は小規模での防御系スキルである。
魔列車内での密室事件から魔物騒動、そして外に取り残されてしまうという怒涛の展開。果たしてどうなっていくのか。
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